序文
2002年に行われた国民栄養調査では,糖尿病患者数が推計1620万人にまで増加し,今後も患者数の著しい増加が続くと考えられています.しかしながら,糖尿病として治療を受けている患者は全体の400万人にも満たず,さらに糖尿病専門医による治療を受けている患者はおそらく,この十分の一にも満たないと考えられています.その結果,糖尿病合併症の有病者数も増加を続け,人工透析の新規導入症例の原疾患として糖尿病腎症は第一位を占め,糖尿病は後天的失明の原因でも第一となっております.また,心筋梗塞や脳梗塞を発症した症例のなかにも,無自覚のため放置されていた耐糖能異常者や糖尿病患者が多く見受けられます.糖尿病は生命予後や生活の質を低下させることはいうまでもなく,さらに社会的にも経済的にも重い負担を強いる疾患です.このような進行した糖尿病合併症を減らすためには,早期からの厳格な血糖管理を始め,きめ細やかな治療をおこなうことが必要です.しかし,糖尿病専門医の絶対数は患者数に対して非常に少ないため,これらの問題解決には,一般臨床医による糖尿病診療の水準がより向上することが必要不可欠と考えます.また最近,新しい経口血糖降下薬やインスリン製剤が臨床使用できるようになり,治療法の選択肢が広がっています.このため個々の患者の病態を正しく評価し,その病態に即した治療法を選択することが重要です.
本書企画するに当たり,一線でご活躍の糖尿病専門医の先生方からご協力を得て,日常よく遭遇する症例から比較的稀な症例まで,また様々な合併症が進行した症例など幅広く集めますと,100症例になりました.これらの症例の理解により,臨床の現場で遭遇するほとんどの糖尿病患者さんの病態把握および治療選択のノウハウを会得できると考えております.ご担当いただいた非常に多くの先生方をはじめ,永井書店の寺田様には本当に根気強くお手伝いいただき,深く感謝しております.本書が,日々の糖尿病臨床の一助となり,わが国の糖尿病診療のレベル向上につながることを切に願います.