序 文
高齢化が進み,10年後には65歳以上の高齢者が人口の25%を超えると言われています.それに伴い総義歯の需要がますます多くなると思われます.
その一方で,加齢に伴う骨吸収によって顎堤が低く平坦な症例,顎堤吸収が著しい症例,咬合に起因した顎関節症の症例などが増加しています.また,患者さんの要望も多様化・高度化しています.このような時代に直面し,術者は発想の転換が必要だと考えます.
「ものづくり大国日本」のトヨタは,あらゆる作業から「ムダ」を徹底的に排除して工場改革(トヨタ生産方式)を行い,販売台数世界第2位の大企業になりました.また,新幹線は旧型車両の問題点,疑問点を改良し,時速300kmの「のぞみ号
N700」を誕生させたではありませんか.他業種も同様に努力している現在,われわれ臨床医も意識改革が必要であると考えます.
術者が古典的な総義歯治療の知識と基本術式(従来法)のみを修得していて,忠実に実行したとしても患者さんには満足が得られず,術者が悪戦苦闘して作った義歯も,装着時には義歯の調整に多くの時間を費やし苦慮することになります.
筆者は,従来からの総義歯治療の術式や各ステップに多くの問題点があるため,これらの点を追求し改善すると同時に各種理論の疑問点についても検討しました.また,治療術式を合理化したことによって,いわゆる難症例であっても短期間に生理的な総義歯治療が行えます.
本書は,知人の臨床医や筆者らのスタディーグループ会員から総義歯治療のポイントを判りやすくまとめてほしいと要望がありましたので,お役に立てばとお引き受けすることにしました.内容は,筆者の45年の一般臨床と34年のインプラント治療の経験から得られた知見や工夫を解説し,実例を提示しました.臨床の現場で気軽に開けるハンドブックとして活用していただければ幸いです.
2004年6月 関 谷 昭 雄