●はじめに●  

 気管支喘息という病名は日常巷での会話の中に聞かれることの多い病気であるにもかかわらず,またこれほどまでに情報が流れる時代になったにもかかわらず,外来に来られたり健康相談に来られる方々は『喘息』という自分の病気に対して,あまりにも無頓着であったりあるいは神経質過ぎたりするように思われます.実際に患者さんを診る立場とすればどちらも困るのです.  
  『息が苦しいのですがこれくらいなら大丈夫です』『秋からずっと咳が止まりません』『夜になるとぜいぜい,ヒューヒュー,喉で音がするのですが大丈夫でしょうか』『風邪がず〜っと治らないのです』『喘息は死なない病気だと思っていました』などの言葉は,この本を読んでみようと思われる方なら一度はお医者さんの前で訴えられたことがあるのではないでしょうか.  
  本書は,患者さんと接する医療従事者の方々や患者さん本人,御家族の皆さんに,困ったときに是非紐解いていただきたい書籍です.あなたが今困っていることは他の患者さんも困っていることなのです.この本を読みながら一緒に解決して行きましょう.  
  今の時代,患者さんの自己管理の必要性が叫ばれています.患者さんからすると『専門の話など難しくて』とお思いでしょうが,現在の治療法においては,吸入をしたり,時間を合わせて薬を飲んだり,生活環境を整えたりと,医師が手助けできない御本人の常日頃の努力の継続が治療を有効にしています.『何のために』『なぜ』を知っていただき一緒に続けて欲しい治療法がここにあります.患者さんと接するのは何も医師ばかりではありません.看護師さん,検査技師さん,薬剤師さん,リハビリテーションの先生,保健師さんなどの皆さんが患者さんを支えています.この本では実際に患者さんから寄せられた多くの質問とその回答,また医師から読者の皆さんへ是非とも伝えたい『知っていて欲しいこと』をまとめました.医療従事者の方々にとっては患者さんをサポートするためのヒントがこの本の中に多々あるはずです.患者さんをよりよい快適な環境に導くために活用できる書籍に仕上がったと自負しています.   こんな思い入れを込め,患者さんばかりでなく多くの方々に知っておいて欲しいことを記載しましたので,思いが有り余りすぎていささか難しい記述やくどい箇所も多少は見受けられるかと思います.もしもあなたがこの本を手に取って『難しいな』と感じられたときには,思い切って本書を主治医の元に持参し解説を受けてみて下さい.必要なことはここに込められています.もっと簡単にではなく一緒に努力するために,あなたの病気とあなた自身が戦うために,皆で一緒に頑張りましょう.  
  本書の御執筆に御協力下さった先生方は,第一線で毎日多くの患者さんを診,健康相談や患者さん方との講演会で御活躍中の方々です.そうした先生方が患者さん方から常日頃受ける質問を元にしながら,わかりやすく役立つように御執筆下さいました.この場を借りて貴重なお時間をお割きいただきました,灰田美知子先生,古井秀彦先生,吉原重美先生,金子教宏先生に厚く御礼を申し上げます.  


平成16年4月吉日                                                   
田中一正