病理組織学,免疫学,遺伝生化学の進歩に伴って,皮膚病の分類にはいくらか変更が行われました.しかしその変更は極く部分的にとどまり,従来の皮膚病の分類は厳然として保たれております.このことは皮膚科学の先達の肉眼による観察をもとにした考察が,いかに優れたものであったかを示すものであります.それと同時に,皮疹の正しい観察,認識は,現在においても皮膚科学の根幹であることを痛感いたします.
皮膚科学の学生教育を考えますと,疾患の概念は視覚的にとらえるのが,いちばん容易であると思います.しかし大学病院において日常診察している患者で,治療などの加わっていない皮疹を診ることは少なく,まして短期間のポリクリで各疾患の皮疹を見ることは不可能であります.そのため疾患の特徴をよくとらえている図譜が最も優れた教材となります.図譜をみながら欠けている知識を補充することで,国家試験対策にもなるかと思いますので,御利用下さい.
皮膚科が専門でない先生方にとっても,日常診療において皮膚の症状に関して何かと相談を受けることがしばしばあると思います.その際,適切なアドバイスを行うことが出来れば,医者と患者間の信頼関係のうえでも良好な結果をもたらすものと確信します.日常よく見かける疾患,皮膚科学で非常に重要な疾患,稀ではあるが一度見れば忘れない特徴を持った疾患について,私自身の経験した症例から,疾患の特徴をよく備えている写真を選びました.なお巻末にいわゆるデルマドロームの項を加えました.皮疹から思いがけない内臓疾患が診断されることもよくあることです.
なお図譜の写真は大部分が著者が大阪大学と兵庫医科大学在職中に自分で撮影したものであります.
平成16年3月
兵庫医科大学名誉教授 喜多野 征夫