【 序 】
心身医学は旧西ドイツで誕生し米国で発展を遂げた.しかしその後は残念ながら,米国の心身医学は衰退していったように思われる.ドイツにおいては現在もなお力を持ち続けており,多くの医学部・医科大学に心身医学科が存在し必須の教科となっている.ドイツの心身医学者であるシュッフェル教授(マールブルク大学)によれば,今やドイツの心身医学は米国へ逆輸入されつつあるそうである.そうした状況を受け米国においても狭間の医学としての心身医学の重要性が見直されつつある(野添新一:日本心療内科学会誌.7:1,2003).またその一方において,米国では心身医学とはまったく別個にMind-body
Medicineが誕生し隆盛を極めている(竹林直紀ほか:心療内科.5:236−240,2001).Psychosomatic Medicineの“psycho”は「病的な精神」であり,Mind-body
Medicineの“mind”は,普通の人間の「心」を指す.日本の心身医学はMind-body Medicineにより近いという意見もある(竹林直紀ほか).
わが国の心身医学はどうか.日本へ渡ってきた心身医学は「心療内科学」として特有のスタイルで発展を遂げてきた.しかしながら80の医学部・医科大学のうちで開設された講座は僅かに5つしかないのが現状である.平成8年には心療内科が標榜科名として認可を受けたものの,その多くが精神科医の標榜によるものである.全人的医療の具体的な考え方と方法を持ち実践しているのが,わが国の心療内科医であると自負しているが,敢えて不遜を承知で言わせてもらえれば,恐らくわれわれは時代に先駆け50年ほど早く進み過ぎてしまっているのではないだろうか.そのためか,心療内科は医学界にも社会にもまだまだ理解されていないように感じる.
このような理由から,九州大学医学部心療内科,鹿児島大学医学部心身医療科,関西医科大学心療内科のいわゆる『3KU』(3校の頭文字を取ってそう呼ぶ)のメンバーが中心となり,毎年夏にセミナーを開催し(現在6回開催),心療内科の現在と将来を見据えての熱心な討論を繰り返してきた.そうした中,この研修会の成果をこれからの後進学徒のために一冊にまとめ,新しい心療内科のテキストとして世に出すことで意見が一致し,本書の刊行へと至ったわけである.
本書はその名のとおり「心療内科の現在と将来を見据えた斬新な内容」となり,これからの心療内科の「あるべき姿」としての新しい方向性が示されている.随所に若々しい息吹と感性と情熱が溢れており,まさにわれわれ編者の思惑とおりの一書となったことは無上の喜びである.
本書ができあがるまでには,永井書店高山静氏に大変お世話になった.心より感謝する次第である.
2003年9月吉日
編者一同