序  文
 
  内視鏡を用いた手術が本格的に臨床応用されてから,まだ十数年しか経ていませんが,その普及には目覚ましいものがあります.その適応は対象臓器が腹腔内臓器から胸腔内臓器,後腹膜臓器,体表臓器へと広がり,また,疾患としては良性疾患から悪性疾患,さらに,悪性疾患のなかでも比較的早期の癌から進行した癌へ,と急速に拡大しています.この急速な拡大は,数多くの新しい機器の開発(特に,超音波凝固切開装置,鏡視下用先端可変型縫合切離器,フレクシブルスコープなど)や日々の手術技術の改良によるところが大きく,また,本術式が整容性にすぐれ,患者の体への負担が少なく,術後回復が早いことが広く知れわたったことによります.しかし,まだまだ発展途中の手術手技であり,今後さらなる改良が重ねられ,ますます普及してゆくと思われます.
  このような背景をふまえ,本手術書が企画されました.本書には外科ばかりでなく,胸部外科,泌尿器科,産婦人科などの各分野における鏡視下手術の標準的術式が写真・イラストを中心として記載されており,「局所解剖」にて周辺臓器の配置を理解したうえ,「セッティング,体位,麻酔」で鏡視下手術のためによりよい環境を作り,「基本操作」で各器具の操作,使用の基本を学び,「手術手技」で操作手順を習得するように構成されています.したがって,鏡視下手術を始めてまだ経験の浅い人が視覚的に理解でき,容易に技術習得ができるように配慮されています.また,著者の先生方は各分野における鏡視下手術に長けた方々であり,その先生方の豊富な経験に基づいて各手術における「コツ」や「ピットフォール」,「術中・術後合併症の予防と対策」の項が設けられており,鏡視下手術に習熟した先生方におきましても手術直前に目を通しておきますと,それらの手術に大いに参考になると思います.  
  もう一つの本書の特徴は,鏡視下手術を行うすべての分野がこの1冊の手術書にまとまっていることです.通常,学会や専門書では1つの分野における鏡視下手術の紹介や検討がなされていますが,本書において他の分野の鏡視下手術の手技や技術を見て理解することにより,他分野の鏡視下手術の技術・方法,器具などを専門分野の鏡視下手術に応用できる可能性があります.  
  本書は時間のあるときに熟読して手術や手順を理解し,イメージトレーニングを行い,また,手術直前には各ステップにおけるポイントを再確認する,ような使い方をすることにより,今後ますます普及してゆく鏡視下手術の手技をしっかりと習得することができると思います.

2003年9月 杉 原 健 一