はじめに(よくわかる 子どもの心身症)
心身症は,難しいといわれることが少なくない.確定診断はどのようにしたらいいのか,治療では精神療法をしなければいけないのではないか,等々,心身症治療のためえには,特別の知識や治療技法を身につけなければいけないような印象があることが,その一因であろう.確かに,熱意だけで診療できるものではないであろう.しかし,心身症診療には,一般小児科診療がそうであるように,小児科医であればほとんどの人が対応できる段階と,より専門的立場からでなければ対応が難しい段階とがあると考えるものである.小児科医は,乳幼児を日常の診療対象とすることが多いことから,患者である子どもに穏やかに接する態度が自然に身についている場合が多い.また,小児科医は,自ら話すことに限界がある年齢の子どもたちを診ることが多いことから,保護者の話すことをよく聞く姿勢がいつの間にか身についている場合が多い.小児科医は,乳幼児健診が業務であるため,子どもの健全な心身の発達や望ましい子育てのために何が大切かを考える習慣が身についている場合が多く,さらに,そうした病気でない状態への対応を自分にとって重要な仕事の1つとしてとらえる考え方が身についている場合が多い.一方,保護者は,子どもにとって最も重要な心理社会的環境である.子どもの治療を行う際には,保護者への働きかけを抜きにできない.これらすべての状況は,小児科医に心身症診療に向く特性を与えてくれている.つまり,日常診療において,小児科医は,子どもへ穏やかに接することで子どもの気持ちを和らげようとし,子どもの心理社会的環境(保護者)を考慮し,子どもの成長発達段階(個々の子どもの特性)を考慮しながら,それへの働きかけ(保護者へのアドバイス)を常に行っているからである.本書は,わが国のすべての小児科医の方々に,自分たちが心身症の子どもたちへ対応することができる存在であることを認識して頂き,さらに,より深いご理解をして頂くため,また,既に心身症医療に携わっている方々には,ご自分たちの知識を整理して頂けるよう編まれた.本書の内容は,日本小児心身医学会作成の研修ガイドラインに沿った形で構成されている.そうすることで,ある考え方に偏ることのない,全般的で現時点でのオーソドックスな考え方をお示しすることができると考えたからによる.本書が,わが国の小児心身医療になんらかの役割を果たすことができれば,編者・著者一同のこの上のない幸せである.ただ,分担執筆のためもあり,一部,内容に統一性が欠けるところを感じられる点があるかも知れないが,それらも含め本書に関する不備な点は,すべて編者の責任である.読者の方々の忌憚のないご意見,ご批判も切にお願いする次第である.
平成15年9月吉日
星加明徳,宮本信也