序 文(どうする・外来診療 こどもの皮膚病 診察からアトピー性皮膚炎まで)

 こどもの皮膚疾患,そしてアトピー性皮膚炎,1965年国立小児病院がわが国最初の小児専門病院として設立され,初代皮膚科医長として診療を初めてから40年になろうとしている.2002年には病院自体が国立成育医療センターと改められて,すべてが一新され,また新たな歴史が刻まれようとしている.
 この長くもあり,また瞬く間のようにも思われた時間が過ぎて,いかに,そして何が変わったのであろうか.数え上げることも不可能な程に,ずべてが変わったように思われる.近頃便利な身の回りの機器を思い浮かべれば,そのことがよく分かるはずである.その移り変わりの中で,1982年初めて「小児の湿疹-アトピー性皮膚炎の外来診療-:金原出版(東京)」を世に出した.それまで17年間,こどもを診ることができた集大成のつもりであったし,それをまた勧めてくれた当時金原出版に在籍されていた高山 静氏の助力が励みになった.そしてまた,20年の歳月が過ぎた.思うに人の身体とそこに起きている現象はさして変わらぬのに,それを取り巻く世界・それに影響を受ける人の心(精神状態)は否応なく変わっていることを痛感することが多くなってきた.
 幸いにも,機会に恵まれていることを感謝しつつ,天職としてこどもの皮膚疾患を診療し続けている現在,永井書店編集長として活躍中の高山氏とまたもめぐり会うことがあった.そして,こどもを診療するということにも,人,病気は同じでも,どうすれば良いかという考え方には,その間に大きな相違が生じている部分もあることが話題になった.その結果が,かつて世に送り出し満20歳になった拙書を,あらためて現代社会に対応できる成人として,永井書店より再出発させようということになったのである.製作にあたっては同社編集主任渡邉弘文氏に尽力頂いた.
 この本は,こどもの皮膚病を診る場合に必ず問題になるアトピー性皮膚炎が中心になっている.そしてそれが皮膚科専門医ではない方々に診て頂いていることが極めて多いという事実を考えに入れて上梓させて頂いた.その役割に否応なく立たされるであろう方々のお役に立てれば幸いである.さらに,あえていえば,お役に立つということが,患者であるこども本人にとって,本当に一番幸せであるに違いないと信じるのである.わが国で一番多くこどもの皮膚疾患患者とその母親に出会うことができた者,そして,当時0歳であったこどもが,40歳近くなるまで見極められたという希有の経験をすることができたわが国最初の小児皮膚科医として,このことをはっきり申し上げておきたいのである.
平成15年4月吉日
山本 一哉