はじめに
アルコール依存症は、臨床現場や産業現場で多くのスタッフを悩ませて来ました。スタ ッフは再発や、離脱症状の恐れ、約束違反などから、「見て見ぬ振り」「避けて通る」
「逃げ腰」となっていたはずです。
しかし、1996年に発足し、既に16回を重ねた三重県アルコール関連疾患研究会の成果として、アルコール性臓器障害をめぐる「解決策」「連携・紹介」「積極性」「助け合い」「希望」が一般病院とアルコール専門医療機関の間で生まれて来ました。
多くの内科医、産業医、関連スタッフは「対処法が分からず、困っている」のであり、困っている問題への「処方箋」さえ知れば、楽で正しい対応ができるようになることを知りました。
研究会では、困っている問題とその原因を明確にして、その解決方法はどうすれば良いかを明らかにするために、「対応困難な事例」「離脱期への対応」を中心テーマとして来ました。その結果、連携医療・紹介に取り組むエネルギーが大きくなっています。
「対応困難な事例」については、アルコール専門医療機関から具体的な症例を報告して、「解決法」があることを伝えました。
「離脱期への対応」では一般病院精神科医が「セルシンの予防投薬」の普及などを提唱して来ました。
さらに、「断酒会の会員や家族から聞く酒害の凄さ」を聞くことで、アルコール性臓器障害の背景にあるアルコール依存症や関連した問題の深刻さを知り、内精連携・紹介へのモチベーションが高まることを知りました。また、「アルコール依存症への介入法を知りたい」という声は非常に大きく、介入法を知る機会がほとんど無いことを知りました。
本書は、三重県での活動の中で知った臨床現場の先生方の実際の疑問や困りごとにしっかりと答える内容になったと考えます。さらに、アルコール依存症の予備軍(有害使用者)がアルコール依存症になることを予防する対応策も加えています。
執筆陣は、アルコール性臓器障害に連携して取り組み、実際の成果を上げてきた三重県の内科医、精神科医、コメディカルの先生方、アルコール依存症に第一線で取り組んでいる全国的に著名な精神科の先生方からなっています。
本書を手にすることで、アルコール性臓器障害治療が見通しの明るいものとなり、無用な苦労を減らすことができると確信しています。
最後に、本書の出版にあたりご尽力を頂いた、永井書店編集長高山静氏ならびに渡邉弘文氏に深く感謝致します。
平成15年12月
編集者一同