推薦文
リハビリテーション医ばかりでなく,リハビリテーション医療に参加するあらゆる専門職種の方々に,気楽に読めて実際の臨床にすぐに役に立つ実践的なリハビリテーション医療の成書が出版されたので推薦する.
高齢化社会が到来し,平成元年に65歳以上の人口は日本全体の11.6%であったが,平成19年には20.7%に達すると予想され,それに連れてリハビリテーション医療の対象となる患者が急増してきた.一般に高齢者は,脳血管障害や骨関節疾患など何らかの疾患を有していることが多く,またこれらの疾病により複数の障害を併せ持っていることも稀ではない.疾病や障害を併せ持つ高齢者やその他の障害を持つ人々に対して,まず適切な疾病の診断と治療を行い,さらに障害に対してはその評価や機能訓練を実施して障害の軽減と代償をはかり,心理社会的再適応や生活環境・システムの整備により快適な生活が送れるようにすることが大切である.近年,在宅医療,老人保健施設,地域リハビリテーション,介護保険,回復期リハビリテーション病棟など,リハビリテーション医療の考えが一般の人々にも浸透し,リハビリテーション医療に関する制度や施設も新たに作られ,また,専門職種の方々も急増してきた.このような社会状況の変化のもとで,リハビリテーション医療自体も変革の時であり,リハビリテーション医療の実戦ばかりではなく,その質が問われる時期でもある.リハビリテーション医療に参加する専門職種の方々は,リハビリテーション医学の概念を十分理解し,疾病とその病態を正しく把握し,適切な時期に適切なリハビリテーションを提供できることが大切である.既にリハビリテーション医療の指針となる多くの成書が出版され座右の書となっている.しかし,これらの成書の多くは大学教員が中心となり編纂されており,臨床実践にすぐに役立つとはいえなかった.本書は市中の第一線病院のリハビリテーション科部長である田中宏太佳先生がこれまでの症例の積み重ねをもとに企画編集して,東京労災病院リハビリテーション科スタッフが中心となり執筆しているのが特徴である.
田中先生は,昭和59年に産業医科大学を卒業し,直ちに産業医科大学リハビリテーション医学講座に入局し,大学病院や九州労災病院で初期臨床研修を行い,筑豊労災病院,門司労災病院に勤務したのち,長らく東京労災病院リハビリテーション科部長を務めていた.現在は中部労災病院で脳卒中や脊髄損傷者のリハビリテーションの診療に活躍している.田中先生は教育研究領域ではなく実際の臨床領域をバックグランドとしている経歴を最大限に活かして,臨床現場で在宅に向けてアプローチに必要な事項に限定して項目を選択し,図,表,写真,絵を多様してわかりやすい記載となるように配慮している.
リハビリテーション医療に参加するあらゆる専門職種の方々にとって,気楽に読めてわかりやすく,また,実際にリハビリテーション医療に役立つ成書として推薦する.
最後に,田中先生および東京労災病院リハビリテーション科スタッフ一同の一層のご活躍を期待する.
産業医科大学教授 蜂須賀研二