序 文
近年の医学のめざましい発展によって,われわれ人類は疾病予後の改善や平均寿命の延長などの大きな恩恵を受けることができるようになりました.一方,その結果として以前であれば生存できなかった患者さんが,重度の障害を持って地域社会に帰っていかざるを得ないことも経験します.また,特に日本は今までにない高齢化社会に突入し,疾病自体からくる障害のみでなく,加齢に伴って出現する問題,例えば廃用症候群が顕在化しやすいことに注意を払うことが必要になってきました.このような時代においてリハビリテーションはますます重要な医療の分野となり,その考え方の理解はすべての医療者や福祉・介護分野の専門家にとっても必須のものと思われます.
リハビリテーションの目標は,可能な限り身体障害を除去することですが,不可能な場合はその障害を軽減することに努めます.また,回復の余地のない障害を持った患者さんに対して,障害の範囲内においてその能力を最大限に活用して頂くためのあらゆる手段を利用して治療することにあります.これらの行為は,単にリハビリテーションの専門家がかかわる時期に行われるばかりでなく,むしろそれ以前の疾患の急性期から積極的に考慮されなければならないと思われます.
2000年からリハビリテーション前置主義を1つの重要な理念とする介護保険がわが国に導入されました.障害を持った高齢者が,要介護度を軽減させるために在宅または施設においてもリハビリテーション的な方法をそのサービスとして選択できるようになっていることが重要です.介護保険の運用においても,ケアカンファレンスをはじめとしたチームアプローチを円滑に進めることが必要で,リハビリテーションにおいて培われてきた手法が大いに参考になると思われます.
この本では,一般医療および救急診療を主体とする病院におけるリハビリテーション部門に勤務するわれわれが,その日常診療の中で得た知識や技術を具体的な形で紹介し,読者の方々にリハビリテーションについての実用的な理解が得られるように努めました.
田中宏太佳