序 文
内視鏡本体,テレビモニター,ビデオシステムなどの急速な進歩により,経尿道的内視鏡手術は適応が拡大し,その技術の伝達が以前よりはるかに容易になった.代表的手術の経尿道的前立腺切除術(以下TURP)を例に挙げても,1970年代の名手のみが独壇場の時代から,1980年代には広く一般泌尿器科医が行う時代に移行した.1980年代後半からは,内視鏡はさらに経皮的腎尿路結石砕石術(以下PNL)や経尿道的尿管結石砕石術(以下TUL)などの分野で大きく発展を遂げ,体外衝撃波結石破砕術(以下ESWL)とともに結石治療を革命的に変えた.
だからといって経尿道的内視鏡手術は容易な手術になったわけではない.例えばTURPに力を入れている施設の報告でも,全体数の中にレジデントが術者の例も含まれると,意外に平均切除量は少なく,平均手術時間も長く,時に厄介なトラブルも起こっている.泌尿器科医にとり必修というべき経尿道的膀胱腫瘍切除術(以下TUR-Bt)は,膀胱腫瘍の生検,治療として広く行われるが,穿孔を起こせば癌細胞の播種につながる.TULも尿管損傷など,予想外の事態に陥ることもあり得る.
これらTURP,TUR-Bt,TULなどの経尿道的内視鏡手術は,実は難易度が高いのにも関わらず,若手医師も意外に早く責任を持たされ遂行を要求される手術ではないだろうか.モニター下に助手も手術進行を見ることができる現在でも,実際の切除感覚もすぐに体得し上手くなるわけではない.指導医がいなくて心細げに一人でやらざるを得ないことさえある.一方では少し経験を積むと,できるような気になってしまう危うい手術である.
どんな分野にも入門書というものがある.本書の対象は,すでに相当の技術を持った泌尿器科医ではなく,まだ初心者でビデオを見ても立体感覚が掴めず,不可思議なTUR
world の中でもがいている若手である.取りあえず一人前になるまでの過程で悩む問題を取り上げ,ここまで出来ればある程度の効果は得られるであろう技術の習得を目標とした.理解を助けるよう写真を多く載せた.
泌尿器科内視鏡手術を取り上げると,今や入門書と言えどもその守備範囲の広さからとても1冊の本にまとめようがない.今回は膀胱尿道鏡検査や尿道切開術,TURP,TUR-Bt
それにTULの自然経路型を対象とし,PNLなどの臓器内腔穿刺経路型,腹腔鏡手術など臓器外到達経路型は除いた.高井が概説,尿道,前立腺の項目を,亀山が膀胱,腎盂,尿管の項目を担当した.