序 文

 大腸内視鏡検査件数の飛躍的な増加に伴い大腸内視鏡医数も増加の一途を辿っている.また,その一方で挿入技術の困難さに苦しんでいる医師達が多いのも事実である.
 筆者は大阪大学第二外科においてはじめて大腸内視鏡検査に携わり,数多くの症例を経験しながら,現在,大腸内視鏡検査を主体とした開業医として従事している.その傍ら,さまざまな施設において多くの内視鏡医達を指導しながら,日頃,彼らが抱いている挿入手技に関する数多くの疑問をよく耳にする.筆者自身も大腸内視鏡医としての初期の頃,挿入手技に関する疑問が生じても実際に知りたい微細な点までは書物からは解決することがなかったように思われる.概略は理解できても事細かな技術に関しては経験に勝るものはなく,実際,さまざまな疑問が解決されたのは検査を行っている最中であり,患者自身に体を以てして教えられたように思われる.
 大腸内視鏡挿入を困難にしている理由のひとつは,変化に富んだ大腸の走行に自身の挿入法をあわせているためである.本書では解剖学的見地に基づいて,ひとつの基本形状に変化させ常に定型的挿入法で対処していく方法を紹介する.無透視一人法でおこなうが,スコープ先端の位置は挿入長から,スコープの形状はアングル状態から,スコープの向きは回旋角度などから推測できるため,これらを総合的に判断することで次の管腔の方向,屈曲度などの予測がつき,次のなすべき操作手技が自ずと決まってくる.これらのさまざまな手技を駆使して,ひとつの基本形状に変化させ,常に定型的挿入法で施行する理論である.
 実際,内視鏡検査における挿入手技などの技術論を文字に表すのは難しい感があるが,筆者が体得した挿入手技をなるべくわかりやすくかつ詳細に解説したつもりである.これにより,内視鏡医達が必ず経験するであろう手技に関する疑問を解決することができ,また上達への道に少しでも役立てば幸甚である.

 中 西 弘 幸