■ 序文 ■
日本語版第2版序文
災害時の院内医療対応に係る日本初かつ唯一のオープンコースである、英国ALSG開発による「Hospital MIMMS コース」。
そのテキストの日本語版の初版刊行から13年経った。
この間、本邦が見舞われた災害や多数傷病者事故は、2011年の東日本大震災を皮切りに、関越高速道バス横転事故(2012年)、
伊豆大島土砂災害(2013年)、御嶽山噴火(2014年)、
平成27年9月関東・東北豪雨・川崎市簡易宿泊所火災・調布市PA-46墜落事故(2015年)、
熊本地震・糸魚川市大規模火災・軽井沢スキーバス転落事故・鳥取県中部地震(2016年)、
平成29年7月九州北部豪雨(2017年)、平成30年7月豪雨・大阪府北部地震、北海道胆振東部地震(2018年)...と枚挙に暇がない。
2019年末以降現在も続く新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、全国的な通常の保健医療継続を困難にしており、
いうまでもなく「医療にとっての災害」である。
このように息つく間もない災害の到来に、否が応でも全国津々浦々、院内対応の準備を余儀なくされており、
ますますHospital MIMMS が示す概念と方略の浸透が求められる昨今である。
Hospital MIMMS の目指すところは、院内対応の標準化である。
初版リリース以降、病院側から見た時系列に沿って分類した
「発災後の4つの相(プレホスピタル相(現場から病院への傷病者搬送までの時期)、
受入相(病院外来部門での傷病者の受け入れ時期)、
根本治療相(外来・入院治療、手術、集中治療の時期)、
回復相(通常業務モードへの切り替え時期))」における具体的な行動指針は、Hospital MIMMS の骨幹をなすところである。
なお、日本語翻訳の初版ではこれら4分類に「期」を表記したが、第二版では「相」を用いた。
発災後、院内の全部門が突然次の「期」に移るのではなく、院内の各部門がそれぞれの需要と供給の状況に応じて異なる
様相を呈しながら徐々に移行していくことを的確に表現するためである。
Hospital MIMMS はそのほかにも、対応組織の「折りたたみ可能な階層構造化」による弾力的で実践的な指揮体制の策定方法や、
特定者への対応依存の回避と行動の標準化を目指すアクションカードによる役割の事前規定の推奨など、
すでに多くの斬新な知見を本邦に発信しており、行政対応計画にも一部盛り込まれてきたところである。
第二版では、全般にわたって概念や用語の整理によって推敲されたものになっている。
改訂点の一つに、上述の「折りたたみ可能な階層構造」から「拡張可能な階層構造」への用語の変更がある。
このことは、災害が院内スタッフの少ない時間帯に確率的に多く発生することに鑑みて、当初は少人数対応を強いられ
その後徐々に人が参集していく様をより明確に表現したものである。
実災害における現場の状況に即しており、より理解しやすくなったといえる。
さらに洗練された本書が、院内対応に係る皆様の一助になることを願ってやまない。
おわりに、この機会を通じてMIMMS 日本委員会の近年の活動について付言する。本邦は英国と異なり自然災害が多い。
病院自体が被災することを想定し、それを踏まえて準備しなければならない点が、
交通災害やテロなど人為災害を主な対象としてきたHospital MIMMSが示す対応と大きく異なる。
そこでMIMMS 日本委員会はHospital MIMMS の対応を基軸にしたうえで、本邦で多発している自然災害を
念頭に置いた病院避難に係る研修コース
(Japan Hospital Evacuation and Lifesupport Planning for major incident : J-HELP)を開発した。
まさに長年の日英連携の成果物であり、併せて活用していただければ幸甚である。
2022年9月 一般社団法人MIMMS 日本委員会 代表理事 森村尚登
(帝京大学医学部救急医学講座 主任教授)