● 序 文 ●
訳者の一人である杉田義郎が、原著となるカーラ・ハンナフォード博士の「ドミナンス ファクター」と出会ったきっかけは、ポール・デニッソン博士著「ブレインジムと私」を通してでした。
杉田は当時、大学の保健センターに所属し、精神科医として学生・教職員の健康管理・支援、とりわけ精神健康(メンタルヘルス)支援に係わり、学生・教職員のメンタルヘルス不調の予防やよりスムーズな改善を目指す観点から、狭い意味での精神科治療だけでは十分な効果を挙げない事例が少なくないことに気づかされていました。
メンタルヘルス不調の背景には、ストレス対処の問題に加えて、食、睡眠、運動などの生活習慣の悪化がしばしば見受けられます。ストレス状態にある相談者は適切な改善策を実行することが難しいので、適当な運動を通じてアンバランスな脳機能の壁を打破できないものかと思っていたときに、ポール・デニッソン博士の開発した「ブレインジムィ」を知りました。さらに上述のポール・デニッソン博士の著書の中で、本書を著したカーラ・ハンナフォード博士がポール・デニッソン博士と長年にわたり研究をともにしていることや、本書「ドミナンス
ファクター」を著し、その中で、多種多様な優位性パターンを知ることは、個人の学習スタイルについて重要な情報を得ることができるため教職者や両親にとって大変有益であること、さらに、素質に反するのではなく素質に合う学習環境を作り出すことができることを明らかにして、優位性についてわかりやすく丁寧に解説していることを知りました。
早速、原著を読んでみると、脳の優位性のパターンを理解することで、個人の学習スタイルを特定するのに非常に役立ち、最も効果的な手段と学習環境を提供することができることがわかりました。さらに個人の優位性パターンを認識し、それを尊重する多様性をもつ社会は素晴らしいですが、何よりも人がそれぞれ持っている独自のスタイルを重んじ、その能力を思う存分発揮できれば、私たち皆にとってこの上もなく有益なことであることがわかりました。
そこで、保健センターの同僚で、内科医、統括産業医、学校保健医でもある守山敏樹氏に原著を読んでもらい、共同で翻訳する意義について相談したところ即座に賛同が得られましたので、分担して翻訳することになりました。さらに心強いことに守山昌代氏にも積極的に翻訳作業に協力していただき、急速に翻訳作業が進みました。
永井書店の編集部の吉田收一氏には、翻訳の最後の詰めの段階での細々とした作業をかっちりとしていただいたことで本書が世に出るに至ったことを感謝したいと思います。
本書は、世の中の老若男女、すべての人々が新しいことを学んだり、ストレス状態にあるときに少なからず感じる能力の低下や阻害について、そのメカニズムを人々の異なる優位プロファイル=個性から明らかにするとともに、それらの克服法の手助けもしてくれる画期的な書であります。学校、職場、家庭で多くの方が本書を読み、活用していただくことを強く希望したします。
平成25年11月
訳 者