■ 序 文 ■
■ わが国の褥瘡対策はチーム医療の熟成とともに ■
褥瘡発生は看護の恥といわれた時代から、病院の質を問うクリニカルインディケーターとして、大きな発展を遂げた。
その証拠に、2012年の診療報酬改定では、従来の褥瘡患者管理加算がなくなり、入院基本料の中に褥瘡対策が含まれるようになった。
このことは、医療施設においては褥瘡対策チームを置き、リスクアセスメント、DESIGN-Rを用いた創部のモニタリングによる褥瘡予防・管理を行うこと、
そして体圧分散寝具を備えることなどといった科学的な取り組みが一般化したといえる。
この背景には、褥瘡管理を「経験と勘」から「科学的アプローチ」にパラダイムシフトさせた日本褥瘡学会の貢献、
それを実践する皮膚・排泄ケア認定看護師たちのひたむきな努力、そしてこれらを後押しするような医療政策の変革があり、まさに医療における好事例として位置づけられている。
さらにわが国の褥瘡対策は、グローバルな視点からも大きく評価されている。
世界に類をみない褥瘡有病率の低さは、ガイドラインのような科学的なスタンダードをもとに、医師・看護師のみならず、薬剤師・栄養士、そして理学・作業療法士などによるチーム医療の粋を極めた成果にほかならない。
■ 日本の将来に必須となる新しい褥瘡チーム医療とは ■
日本の少子高齢化のスピードは極めて急速であり、2007年には65歳以上の人口が21%以上を占め超高齢社会となった。
これは長寿国として世界に誇るべき事象である一方、膨大化する医療費は、日本の経済を脅かすといった、紛れもない現実を突きつけてくる。
長寿国である日本が幸せになるためは、治す医療から、支える医療への転換を速やかに行うことが鍵となる。
このように褥瘡を取り巻く医療政策も、方向性を見極める時期にきている。
有病率と重症度だけアウトカムした時代から、患者の立場に立ち、痛みのない、良好な健康状態を保つためのQOLの向上を目指す医療が望まれてきた。
さらに、支える医療には、個々の生活を基盤とした、在宅医療への転換も含まれている。
これは従来、医療スタッフが主導型で行ってきたチーム医療から、在宅療養者とその家族が中心となり、介護専門職との協働による新たなチーム医療への再編が切に望まれている。
■ バイブルといわれた褥瘡の赤本から青本へ進化 ■
本書は、褥瘡の赤本といわれた「褥瘡のすべて」において基本となった褥瘡学としての趣旨は貫き、2012に改定された最新の日本褥瘡学会のガイドラインに準拠しただけではない。
新たなチーム医療に携わるすべての職種の成書となるべく、QOLを視野に入れ、さらに在宅医療について充実を図り、
褥瘡発生の新しい理論や治療方法など、最前線で協働するために必要な共通言語としての知識と技術をふんだんに取り入れた。
さらに、執筆陣には現日本褥瘡学会の理事を含めた新進気鋭の方々に加わって頂いたことから、改訂版ではなく、新刊書として誕生したのが、この褥瘡の青本である。
最後に、きたる2025年に向けて新たに展開される褥瘡対策のチーム医療の成功に、本書が貢献できることを願ってやまない。