およそ100年前、1906年、ドイツのアロイス・アルツハイマーが、進行性の認知症と特異な脳萎縮を示した症例を報告しました。後にアルツハイマー病と呼ばれるに至ったことが物語の始まりです。
高齢社会を迎えた現代、認知症診療は、避けて通ることができない臨床課題となりました。かつての教科書では小項目扱いでしたが、診断、治療そして介護の技法や制度が確立した今は、必要な情報として習得していくことが期待されています。本書は広く認知症にかかわる医療職の方、殊に第一線に立つかかりつけ医あるいは一般医などの方々を念頭において編集したテキストです。原則的な診断および治療をはじめとする認知症診療の進め方を記述しています。特に早期診断の入り口から長い経過を患者さんと介護者とともに、重症化と合併症に向き合って看取りまで診ていくうえでの指標となることを念願しています。患者さんを支えていく道程では介護専門職との連携は非常に期待されているところです。多様なニーズに応えていくことは、限定された時間と資源の中で、努力を要すると思います。本書が日常診療でお役に立つことを念願しておりますが、御批判と御教授を頂くことができれば編者として誠に幸いに存じます。
平成22年1月吉日
長谷川和夫
1 認知症とは何か
1.認知症とは何か
2.脳の構造と機能
3.認知症診療とかかりつけ医
2 認知症の診断
1.臨床症状(中核症状および周辺症状も含めて)と診断の進め方のポイントは
2.簡易テストはどのように行われるのか
3.重症度判定はどのように行われるのか
4.認知症との鑑別を要する状態とは(正常のもの忘れ、せん妄、うつ病、MCIなど)
5.認知症の原因疾患について
6.認知症診断における画像の役割
長谷川式認知症スケールの使い方と注意点について
3 認知症治療の実際
1.薬物療法について
2.非薬物療法について
4 かかりつけ医のための早期発見の見極めとコツ
1.事例提示:見落とされる認知症
2.アルツハイマー型認知症の特徴
3.取り繕い反応
4.道具的ADL(IADL)
5.認知症のスクリーニング検査
6.認知機能検査がしづらいとき
7.認知機能の変化をみる検査
8.認知症のご本人とご家族に寄り添う
9.レビー小体型認知症の見落とし
5 かかりつけ医のための認知症診療の実際
1 認知症の人はどんな気持ちでいるのか
1.認知症の人への理解
2.認知症の人にはどの程度の自覚があるか
3.パーソン・センタードケアとは
4.センター方式の活用
2 介護する家族はどんな気持ちでいるのか
1.症状と向き合う家族の心の傷
2.家族の心の移り変わり
3 告知をする際の注意点は
1.告知の判断
4 専門医、介護専門職との連携について
1.専門医とかかりつけ医の役割についての概論
2.専門医の技能
3.かかりつけ医の認知症関連技能
4.地域における専門医—かかりつけ医の連携
5.地域における専門医—介護専門職の連携
5 認知症患者への往診について
1.認知症訪問診療の特色
2.地域における認知症訪問診療の位置づけ
3.認知症訪問診療の流れ
6 家族への対応で注意すべき点は
1.ある事例を考える
2.全体的な視点を再考
6 見逃してはならない身体症状のチェックポイントと適切な処置
1 口腔ケア
1.新しい口腔ケアの考え方
2.チームとして取り組む認知症の方への口腔ケアのポイント
2 栄養、食事、摂食障害
1.認知症患者における栄養・摂食の問題
2.誤嚥性肺炎について
3.摂食・嚥下機能支援システムの構築を目指して
3 嚥下障害
1.認知症と嚥下障害
2.摂食・嚥下の流れ
3.摂食・嚥下にかかわる筋肉群と役割
4.摂食・嚥下の観察ポイント
5.嚥下障害
6.誤 嚥
7.誤嚥性肺炎
8.摂食・嚥下訓練
9.食形態
10.嚥下障害に対する問診のポイント
4 排泄障害
1.正常な排泄と排泄障害の種類
2.排泄障害の原因
3.排泄障害のチェックポイント
4.治療・ケアの効果を確認する
5.排泄障害への適切な処置
5 褥 瘡
1.皮膚の観察
2.発生の予測
3.圧迫・ずれの低減
4.スキンケア
5.栄養管理
6.局所治療
7.人的資源の活用
7 看取りの医療について
1.在宅における認知症ターミナルの特徴
2.認知症高齢者終末期の定義
知っておくべきワンポイント情報
1.介護保険制度の要点・診断書の書き方・意見書の書き方
2.後期高齢者診療料について
3.成年後見制度の要点・精神鑑定書の書き方
4.ドライビングと認知症
5.虐待(不適切行為)について
6.地域包括支援センターとは
7.地域密着型のケアとは
8.「認知症を知り 地域をつくる10ヵ年」キャンペーンとは