ヘルペス脳炎とその周辺
- 著 者
- 著:庄司 紘史
(久留米大学名誉教授・国際医療福祉大学教授)
- 発行年
- 2009年3月
- 分 類
感染症 脳神経科
- 仕 様
- A5判・96頁・17図・10表
- 定 価
- (本体 2,500円+税)
- ISBN
- 978-4-8159-1830-9
- 特 色
- 1990年代初めより,抗ヘルペス薬の普及,酵素抗体(ELISA)による髄液抗体の検出,髄液PCRでのHSVゲノムの証明によりヘルペス脳炎は臨床レベルでの早期診断・治療が可能な疾患へと変貌を遂げた.
本書はヘルペス脳炎研究をライフワークとしてきた著者が,一般の医家,コメディカルの方々,患者とその家族,またネット上の情報交換の場での情報提供と幅広く役立てることを目指し,ヘルペス脳炎とその周辺疾患も含めて実践的に,かつわかりやすくコンパクトにまとめたテキストである.
ヘルペス脳炎の歴史,臨床像,病態,診断,治療・予後,合併症と後遺症までを具体例を呈示して詳解し,また各種髄膜炎,脳炎・脳症,ヘルペス脳炎の周辺疾患も取り上げ,その鑑別点も記している.
さらにヘルペス脳炎をめぐる医療訴訟,著者も参加するヘルペス脳炎を中心としたネット上の情報の場「SAKURA」も紹介し,そこで受けた相談も Q
& A として掲載.巻末には理解を助ける用語解説も付記されている.
医師・コメディカルの方々がこの病気を正しく理解するために,また患者と家族が主体的,積極的に治療に参加していくための身近な手引書としてご一読をお勧めする.
●序 文●
単純ヘルペス脳炎( ヘルペス脳炎 )は,主としてherpes simplex virus(HSV)1型により発症する.HSV 2型では新生児の急性脳炎を除いて,急性の脊髄炎・髄膜炎がよく知られている.口内炎など皮膚粘膜の病気として知られる平和共存的なこのウイルスがときに重篤な神経感染症を起こす.1990年代初めから抗ヘルペスウイルス薬の普及,酵素抗体(ELISA)による髄液抗体の検出,髄液PCRでのHSVゲノムの証明によりヘルペス脳炎は臨床レベルでの早期診断・治療可能な疾患へと変貌を遂げた.
著者は,1967(昭和42)年東京大学医科学研究所内科時代,急性脳炎の剖検例を受け持ち,脳組織からHSVの分離に成功し,病原的意義づけをはっきりさせた本邦第一例に近い成人ヘルペス脳炎を報告し,引き続き東大脳研神経内科で生存例をまとめる機会を頂いた.1978(昭和53)年に久留米大学へ移った頃から,
PCR,MRIの導入によってHSV関連の脳幹脳炎,急性散在性脳脊髄炎(ADEM),脊髄炎,髄膜炎などが報告され,再発・慢性型,あるいは難治例などの問題が提起されてきた.1996年には日本神経感染症研究会が発足し,2003年の第8回学術集会から学会へ移行し,研究対象にヘルペス脳炎,周辺の各種髄膜炎,プリオン病,AIDSなどの免疫不全宿主での神経感染症などを広く取り上げ発展してきている.
一方,1994年ヘルペス脳炎の調査の過程で,非ヘルペス性急性辺縁系脳炎が見出され,原因が追求されている.
本書は一般医,コメディカル,患者さん・家族へのネット上の情報の場(SAKURA)など広く対象とし,ヘルペス脳炎の具体例を呈示した実践的な書物を目指した.成人ヘルペス脳炎を中心とした著者らの経験がこの領域の診療に携わる先生方,患者さん・ご家族の皆様に役立つことを願う.
企画に際し,海老沢功博士の励ましの言葉を賜り,多くの共同研究者,SAKURAの大森理恵さんから多大なご協力をいただいた.第15回日本ヘルペス感染症フォーラム(JHIF,
2008. 8),第13回日本神経感染症学会(2008.10) において教育講演・セミナーの機会をいただいたことが本書をまとめる端緒となった.
2009年2月
庄司紘史
■ 主要目次
第1章 単純ヘルペス脳炎―歴史的展開
1.Smithら,安東らの論文
2.急性壊死性脳炎
3.ヘルペス脳炎との出会い
4.その後の展開
第2章 ヘルペスウイルスの臨床ウイルス
1.単純ヘルペスウイルス
2.潜伏感染
3.HSV皮膚粘膜感染
4.さまざまなヘルペスウイルス
第3章 ヘルペス脳炎の病態
1.病理・病態
2.初感染・再燃様式
3.免疫不全での発症
第4章 成人ヘルペス脳炎の臨床像と診断
1.疫学・好発年齢
2.臨床症候
3.検査所見
4.診 断
第5章 成人ヘルペス脳炎の治療・予後
1.治 療
a.一般療法
b.抗ウイルス薬
c.抗ウイルス薬の作用機序
d.副腎皮質ステロイドの併用
e.脳浮腫・痙攣重積への対策
2.予 後
a.難治性ヘルペス脳炎,予後因子
b.再発・再燃型
第6章 小児・新生児ヘルペス脳炎
1.小児ヘルペス脳炎
2.新生児ヘルペス脳炎
第7章 ヘルペス脳炎の合併症,後遺症
1.随伴するHSV感染症,合併症
2.後遺症とその対策
第8章 HSVによる他の病型
1.急性散在性脳脊髄炎(ADEM)
2.脳幹脳炎
3.単純ヘルペス性脊髄炎
4.Elsberg 症候群
5.髄膜炎
6.メニンギスム(髄膜症)
7.神経痛
第9章 他のヘルペス属ウイルス神経感染症
1.水痘・帯状疱疹ウイルス神経感染症
a.水痘に伴う脳炎・脳症
b.帯状疱疹に伴う神経感染症
2.サイトメガロウイルス(CMV)神経感染症
3.エプスタイン・バーウイルス(EBV)脳炎
4.ヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)脳炎・脳症
5.Bウイルス脳炎
第 10 章 非ヘルペス性急性辺縁系脳炎・脳症
1.非ヘルペス性急性辺縁系脳炎
2.分類・成因
第 11 章 各種髄膜炎・脳炎/脳症との鑑別
1.各種髄膜炎
a.ウイルス性髄膜炎
b.細菌性髄膜炎(急性化膿性髄膜炎)
c.結核性髄膜炎
d.真菌性髄膜炎
2.各種ウイルス性脳炎・脳症
a.日本脳炎
b.インフルエンザ脳症・脳炎
c.狂犬病
d.HIV脳症(AIDS脳症)
e.急性散在性脳脊髄炎(ADEM)
3. 脳膿瘍・脳静脈洞血栓症
4. 破傷風(tetanus) 70
5. 遅発性ウイルス感染症,プリオン病
a.亜急性硬化性全脳炎(SSPE)
b.進行性多巣性白質脳症(PML)
c.クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD),プリオン病
6.神経梅毒
7.原虫・寄生虫感染症
a.脳マラリア
b.脳トキソプラズマ症
c.日本住血吸虫症
第 12 章 ヘルペス脳炎・ウイルス性脳炎の医療訴訟
1.1990年,個人病院から高次病院への転院の遅れで社会復帰が困難となったかどうかが争点となった
2.50歳,男性.管理職での過労,ストレスがヘルペス脳炎の誘因となったか,どの程度の過労,ストレスだったのか?
3.30歳,男性.髄膜炎からウイルス性脳炎,視床等に病変,抗ウイルス剤の投与が必要か?
第 13 章 患者さんからの相談(Q & A)
1.ヘルペス脳炎を中心とした情報の場(SAKURA)
2.Q & A