プレホスピタルMOOK 7
新ガイドラインを読み解


著 者
 監修 : 石原  晋(公立邑智病院 院長)
      益子 邦洋(日本医科大学 教授)
 編集 : 畑中 哲生(救急救命九州研修所 教授)
発行年
2009年2月
分 類
￿  救命・救急医学
仕 様
A4判・155頁・48図・20表・写真10
定 価
(本体 3,800円+税)
ISBN
978-4-8159-1826-2
特 色 
プレホスピタルMOOKシリーズ第七弾.
 救急蘇生に関する2005年版ガイドラインが公表されて3年,このときのガイドラインでは蘇生に関する純粋に科学的な側面と,実践的・臨床的側面とを区別し,国際的な取り決めのもとで策定されたこと,心肺蘇生に関する項目で大きな変更があったことから大変注目を集めた.
 しかし,わが国ではその時期,正式に認められた救急救命士によるアドレナリン投与の追加講習が重なり,比較的派手な改定の話題の影で,ガイドラインの真のメッセージが十分に理解されていないことが危惧されてきた.
 本書では2005年版ガイドラインの主要な項目について,その領域の第一人者に,見かけ上の変更点にとらわれず,その背景を正しく理解する助けとなる解説をお願いした.
 2005年版ガイドラインが本当に発したい真のメッセージを理解することによって,現時点での最良の科学的エビデンスに則った蘇生活動が行われ,きたるべき2010年ガイドラインの本当の意味も理解できるはずである.本書をぜひ手元に置いていただきたい.


●序   文●

 救急蘇生に関する2005年版ガイドラインが公表されて既に3年が過ぎた。現在も準拠されているこのガイドラインには2つの特筆すべき点がある。
 1つは、蘇生に関する純粋に科学的な側面と、実践的・臨床的側面とを区別し、それらの枠組みに関する国際的な取り決めの下に策定されたことである。既によく知られているように、科学的な側面は国際蘇生連絡委員会(International Liaison Committee on Resuscitation;ILCOR)の精力的な活動の成果として、Consensus on ECC & CPR Science with Treatment Recommendations 2005(CoSTR 2005)に詳しい。日本を含めILCOR加盟の各国(地域)はCoSTRに基づいてそれぞれの国(地域)の実情を反映したガイドラインを発行したが、その科学的根拠をさらに詳しく知りたければCoSTRを参照できる。2005年時点における最新の情報と、それに関する世界の共通認識とが明らかにされている。
 もう1つは、1974年にアメリカ心臓協会(America Heart Association;AHA)が現在のガイドラインに相当する文書を公表して以来、何度も繰り返してきた改定の中で、最も大きな変更を伴うことになった点である。特に心肺蘇生のための胸骨圧迫:人工呼吸の回数比、および、電気的除細動の手順にかかわる変更は大きな話題を呼んだ。昨今ではこれらの変更が実際に良好な結果を生み出していることも報告されている。
 2005年の改定は有意義なものであったとはいえ、そのタイミングは日本にとって必ずしも好ましいものではなかった。当時、わが国では救急救命士によるアドレナリン投与が正式に認められ、そのための初めての追加講習が行われていた。新しいガイドラインに加えて、病院前では初めて経験することになるアドレナリン投与が重なり、教育においても実践においても、関係者はかなりの緊張を強いられることになったのである。
 このような情勢の中で、私が特に危惧したのは、比較的派手な改定ばかりが取り沙汰される影で、ガイドラインの真のメッセージが十分に理解されないかも知れないということであった。2005年の真のメッセージとは、単に「良質なCPR(心肺蘇生法)」にとどまらない。CPRと除細動の連携が重要なこと、薬剤や個々の治療手段に特効薬的効果を求めるべきではないことなど、見かけ上の変更点にとらわれず、その背景を理解することこそが重要な項目は多い。
 そこで、新しいガイドラインの主要な項目についての真の理解を助ける解説を、それぞれの領域の第一人者にお願いした。執筆者各位には突然のお願いにもかかわらず、多忙な業務の合間を縫っての作業を覚悟のうえでご快諾を頂くことができた。改めて心からの感謝を申し上げる。各位の尽力のお陰で2005年ガイドラインのみならず、きたるべき2010年ガイドラインが正しく理解され、現時点で得られる最良の科学的エビデンスに則った蘇生活動が行われることを確信している。その最終目的が、より多くの人命がよりよい形で救助されることにあることは申すまでもない。
 平成21年1月吉日
 畑中哲生

■ 主要目次

1 日本版救急蘇生ガイドラインを読み解く
 1.救急蘇生ガイドライン策定の経緯
 2.ガイドライン(骨子)の見方、考え方
 3.ガイドライン(骨子)の用語と表現
 4.「救急蘇生法の指針」の改訂
 5.展 望

2 通信指令
 1.心肺停止傷病者救命のための通信指令の役割
 2.新しいCPRガイドラインと通信指令業務
 3.実際の情報聴取
 4.口頭指導は心肺停止傷病者の転帰を改善する(目指すは市民によるCPRの実施率100%)
 5.情報聴取と口頭指導のためのスキル
 6.より有効なCPRを
 7.転帰評価における時間の問題
 8.メディカルコントロールの検証票より
 9.CPRの危険性について
 10.市民の視点からみた通信指令の任務とは

3 市民によるCPRと救命講習
 1.新ガイドラインの中の市民救命講習の理念を読み解く
 2.一般市民への救命講習を成功させよう!

4 心肺停止傷病者発見の対応手順
 1.心肺停止が疑われる傷病者救助のための出動において考慮すべき点
 2.反応の確認
 3.気道確保と呼吸・循環の確認
 4.発症状況から推測される病態と対応(通報、CPR開始手順)

5 気道確保・人口呼吸の方法の変更点
 1.日本の院外心肺停止の発生頻度
 2.人工呼吸の歴史
 3.日本版救急蘇生ガイドライン(主に日常的に蘇生に従事する者)の人工呼吸に関する主な変更点と理由
 4.人工呼吸による弊害をエビデンスから読み解く
 5.救急隊員・消防隊員の行える気道確保法と人工呼吸の実際
 6.小児のCPR時の人工呼吸
 7.窒息が疑われる場合

6 胸骨圧迫の方法と問題点
 1.胸骨圧迫心臓マッサージの歴史
 2.十分な回数で―Push fast!―
 3.十分に深く圧迫する―Push hard!―
 4.胸壁を完全に戻せ―allow full chest recoil after each compression―
 5.胸骨圧迫の中断は最小限に抑える―minimize interruptions in chest compression―

7 同期CPRと非同期CPR
 1.CPR中の血流産生のメカニズム
 2.胸骨圧迫と冠灌流圧との関係
 3.胸骨圧迫中断の冠血流量に与える影響
 4.理想的な胸骨圧迫回数と人工呼吸比
 5.人工呼吸による胸腔内圧上昇の弊害

8 AEDプロトコール
 1.心室細動(VF)/無脈性心室頻拍(VT)に対して電気ショックを行う際の新しいプロトコール

9 AEDの周辺問題
 1.わが国でのAED使用にまつわる法的整理
 2.AED普及の背景
 3.AED普及の現状
 4.現在わが国で販売されているAEDの概要
 5.PADプログラム
 6.AEDを含む心肺蘇生法講習
 7.小児とAED
 8.前胸部叩打について
 9.AEDに関する大規模研究

10 ShockファーストとCPRファースト
 1.ShockファーストとCPRファースト
 2.CPRファーストに関するエビデンス
 3.未解決の問題点
 4.CPRファーストの今後の展望

11 小児・乳児・新生児の蘇生
 1.小児の心肺停止事象の頻度
 2.小児の心肺停止事象の特性
 3.小児の心肺蘇生法の特異性……一次救命処置を中心に
 4.二次救命処置に関する各論
 5.小児蘇生の今後の展望

12 高度な気道確保
 1.日本・米国・ヨーロッパガイドラインにおける気道確保の見解
 2.高度な気道確保デバイス使用時の胸骨圧迫と人工呼吸
 3.狭隘な場所での気道管理

13 薬剤投与とALSプロトコール
 1.わが国のガイドラインにおける薬剤投与
 2.AHA ACLSアルゴリズムにおける薬剤投与
 3.救急救命士の薬剤投与プロトコール
 4.薬剤投与の今後

14 CPR時の補助
 1.心肺蘇生中に使用する器材
 2.ピストン式自動式心臓マッサージ器
 3.LDB

15 気道異物(FBAO)
 1.FBAOは病院前救護において迅速な対処が必要な致死的緊急事態
 2.FBAOの原因理解と一般市民を含めた予防策の啓発が必要
 3.FBAOの救命には、突然に生じる「気道閉塞のサイン」の早期発見が鍵
 4.新しい救急蘇生ガイドラインで簡素化されたFBAO解除(除去)法
 5.新しいガイドラインでのFBAOの対処法
 6.FBAOの解除後の手順
 7.医療機関でのFBAOの取り扱い

16 急性冠症候群と脳卒中
 1.急性冠症候群
 2.脳卒中

17 外因性CPA
 1.外 傷
 2.溺 水
 3.電撃症と感電
 4.偶発性低体温症
 5.中 毒
 6.致死的気管支喘息

18 救急隊員の生涯教育とメディカルコントロール
 1.メディカルコントロールの役割
 2.救急隊員の生涯教育
 3.病院前救護システムの構築

19 法的および倫理的問題
 1.法的および倫理的問題の日常性
 2.法と倫理
 3.職能集団における倫理
 4.医療職集団としての倫理
 5.救急に携わる者の基本的な倫理“コミュニケーション”と“共有”
 6.蘇生ガイドラインの位置づけ
 7.善意の救助者を守る
 8.AEDの使用に関する法的解釈
 9.Futilityの問題
 10.蘇生の不着手と不搬送
 11.DNAR
 12.本人の意思
 13.蘇生への家族の参画

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