プレホスピタルMOOK 6
メディカルコントロールの過去・現在・未来−消防の視点から

著 者
 監修 石原  晋(公立邑智病院 院長)
    益子 邦洋(日本医科大学 教授)
 編集 松本  尚
(日本医科大学千葉北総病院救命救急センター准教授)
発行年
2008年11月
分 類
￿  救命・救急医学
仕 様
A4判・158頁・35図・47表・写真28点
定 価
(本体 3,800円+税)
ISBN
978-4-8159-1821-7
特 色 
 プレホスピタルMOOKシリーズ第六弾として,今回は主として<消防の視点から>メディカルコントロール(MC)を採り上げた.
 ここ10年足らずの間に,全国に地域MC協議会が設置され,救急救命士の特定行為の処置拡大など,プレホスピタルケアを取り巻く環境は劇的に変化してきた.他方,地域格差や消防機関の“古い体質や独自の考え”などまだまだ超えなければならない課題も多いとされている.
 本書は「救急医の立場」や「救急医の考え」ではなく,既刊書にはなかった“消防の考え”を医療機関や行政へ示すことを通して,MC体制の構築やプレホスピタルケアの発展に寄与することを企図した画期的な書である.
 わが国のプレホスピタルケアの成り立ちを振り返り,現状を認識し,将来を展望し,その“コア”となる「救急隊の活動を医学的に保証する仕組み」を確立し,さらには「地域の救急・災害医療システムに対する質を担保する仕組み」への発展を議論する材料として,本書をぜひ手元に置いてご活用いただきたい.


●序   文●

 わが国のプレホスピタルケアに、メディカルコントロール(MC)体制の必要性が語られ始めてから8年あまりが過ぎようとしている。この間、全国に地域MC協議会が設置され、その活動を担保に気管挿管、薬剤投与といった救急救命士の特定行為の処置拡大が一気に進められるなど、プレホスピタルケアを取り巻く環境は劇的な変化をみせている。さらには、MCという言葉の捉え方自体が、「救急隊の活動を医学的に保証する仕組み」から、「地域の救急・災害医療システムに対する質を担保する仕組み」へと変化しつつある。
 その一方で、「救急隊の活動を医学的に保証する仕組み」がMCの“コア(core)”となるものであるにもかかわらず、その体制の確立にはいまだ地域格差が大きく、具体的活動に際してさまざまな障害がみられる。このことを医療機関、消防機関、行政機関がそれぞれに認識しなければ、「地域の救急・災害医療システムに対する質を担保する仕組み」へと発展することもできないであろう。
 この“コア(core)”部分の確立の一助となることを目的に、今一度、わが国のプレホスピタルケアの成り立ちを振り返り、現状を認識し、将来を展望しようと本書が企画された。この際、他書にみられる“救急医の立場”や“救急医の考え”ではなく、主として—消防の視点から—MCを語って頂くこととした。普段、救急医の前では口に出すことのできない“消防の考え”を医療機関や行政機関へ示すことを通して、MC体制の構築やプレホスピタルケアの発展に寄与することを意図したものである。
 しかしながら、現役の消防職員が執筆する際には所属消防機関の許可が必要であり、一部の消防ではこの許可が得られず、執筆者選定ができない状況に陥ったことは大変に残念であった。自由な執筆活動が制限される現在の消防組織の“古い体質”を垣間見るとともに、これではMCに対する発展的、建設的な議論を行うことなど不可能、と感じた次第である。ある意味、“消防の考え”がここに現れたといってもいいかも知れない。
 本書は、このような障壁を乗り越えてつくられたものであるが、本当の“消防の言い分”や“救急隊の本音”を表現するには至らなかったと反省している。それでも、過去と現在を再確認し、将来どうあるべきかを議論する材料は提供できたのではないかと考えている。是非、編者の意図を読み取って頂きたいと願う次第である。
   平成20年11月吉日
 松本 尚

■ 主要目次

I.過去—メディカルコントロール体制導入前のプレホスピタルケアを振り返って
1 消防組織における救急業務の歴史
 1.救急業務の始まり
 2.戦後の救急業務
 3.救急業務の確立
 4.救急医療体制の整備
 5.救急業務の充実
 6.救急業務の高度化
 7.応急手当の普及業務
 8.メディカルコントロールと救急救命士の処置範囲拡大
2 救急救命士制度の始まり
 1.救急救命士誕生は画期的だった
 2.世論を盛り上げた人たち
 3.消防のトップが最も革新的
 4.法案成立までの舞台裏
 5.世論が巻き起こした革命
3 過去における消防と医療機関のかかわり
 1.過去における救急隊の事情
 2.救急隊からみた医療機関
4 過去における消防の検証作業
—メディカルコントロール体制構築以前のメディカルコントロール事業—
 1.湘南メディカルコントロール協議会体制以前の状況
 2.湘南救急活動研究協議会発足までの経緯
 3.湘南救急活動研究協議会設立後
5 過去における救急業務の教育
—メディカルコントロール体制構築以前からの救急業務に関する教育—
 1.救急隊員の教育訓練体系
 2.救急隊員の研修
 3.救急指導者委託研修
 4.本部教養
 5.救急業務巡回指導
 6.訓練・研究会
 7.学会などへの参加

II.現在—メディカルコントロール体制導入期のプレホスピタルケアの課題
1 救急救命士制度に何を期待し、何が変わったか?
 1.救急救命士は、医療人である
 2.救急救命士制度に込められた期待
 3.消防機関側の変化
 4.医療機関側の変化
2 メディカルコントロール体制の裏側とその先
 1.メディカルコントロールに対する捉え方
 2.メディカルコントロール体制の裏側
 3.機能するメディカルコントロールの今後
3メディカルコントロール体制の導入で消防はどう変わるのか
 1 消防幹部の思い
  1.印旛地域救急業務メディカルコントロール協議会の概要
  2.これまでの活動を振り返ってみて
  3.メディカルコントロール体制の発足により何が変わったか
  4.現状の課題と今後の進むべき道
  5.消防幹部に求められるもの
 2 救急救命士の思い
  1.指示・指導・助言体制
  2.事後検証体制
  3.再教育体制
 3 救急隊員の思い
  1.メディカルコントロールとは
  2.メディカルコントロールと救急隊員
 4 司令課とメディカルコントロール
  1.司令課におけるメディカルコントロール体制の影響
  2.司令課における口頭指導の現状と課題
  3.外国におけるメディカルコントロールの例
  4.司令課におけるトリアージ
 5 一般消防職員の思い
  1.メディカルコントロール体制の導入とともに
  2.一般消防職員にメディカルコントロールは存在しうるか?
  3.これからの課題
4メディカルコントロール体制導入の効果はあったか?
 1 オンライン・メディカルコントロールの視点で
  1.岐阜県におけるプロトコール
  2.救急隊がオンライン・メディカルコントロールに求めるもの
 2 オフライン・メディカルコントロール、特に事後検証の視点で
  1.ウツタイン様式によるマクロ検証
  2.プロトコールに基づく救急活動
  3.事後検証の実施を通してのプレホスピタルケアの「質」は向上しているか
  4.メディカルコントロール協議会主催の症例検討会
 3 オフライン・メディカルコントロール、特に病院研修の視点で
  1.病院実習の経緯と種類
  2.病院実習の現状
  3.病院実習の抱える課題
  4.今後の展望
5 メディカルコントロールを防げるものは何か
  1.メディカルコントロール協議会
  2.メディカルコントロールの実行を妨げる要因

III.未来—メディカルコントロール体制下のプレホスピタルケアの将来像
1 プロトコールの在り方
 1.プロトコールとは
 2.プロトコール策定経緯
 3.プロトコールの将来
 4.救急隊以外に対するプロトコール
2 事後検証の在り方と方法論
 1 検証対象
  1.検証対象と現状の問題点
  2.検証対象と今後の在り方
 2 オンライン事後検証
  1.救急業務体制
  2.印旛メディカルコントロールの事後検証体制について
  3.現在の事後検証の問題点
  4.オンライン事後検証システム
  5.今後の課題と事後検証の未来
3 メディカルコントロール担当救急救命士
 1.メディカルコントロールを担当する救急救命士とメディカルコントロールの背景
 2.メディカルコントロールのPDCAサイクルからみた救急救命士の役割
 3.病院前救護における多機関多職種との協働の鍵
 4.メディカルコントロールを担当する救急救命士に求められる資質
4 消防学校教育の在り方
 1.従来の問題点
 2.消防学校教育の今後
5 救急隊員資格を担保する教育の在り方
 1.救急隊員教育のパラダイムシフト
 2.シミュレーション教育の特徴
 3.アメリカにおける救急隊員の免許・認証にかかる生涯教育
 4.日本における救急隊員教育の現状と問題点
 5.シミュレーション教育の現状
 6.将来のシミュレーション教育プログラム
6 救急救命士制度の更新
 1.他職種の資格更新制度
 2.アメリカのパラメディック資格更新制度
 3.救急救命士資格更新の実施方法
 4.資格更新制度の問題点
7 救急救命士養成施設の将来
 1.消防組織内の指導的救急救命士の養成と位置づけの現状
 2.救急救命士の新しい役割
 3.大学院における指導的救急救命士の育成(例)
 4.救急救命士追加/再教育の場としての民間養成学校の活用
 5.まとめ

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