診療ですぐに役立つ 研修医のための 患者対応法

著 者
著 宮本 恒彦(聖隷三方原病院 副院長)
発行年
2008年10月
分 類
￿  臨床医学一般
仕 様
B5判・224頁・48図
定 価
(本体 4,700円+税)
ISBN
978-4-8159-1820-0
特 色 
 昨今オーダーメイド医療の重要性が注目される中で,医療技術・安全管理のマニュアルに沿った行為がなされなければ結果責任を問われ,多くの医師は複雑な医療環境,とくに患者対応にはその指針となるものを求めている.
 本来医療行為にはどの患者に対してもマニュアルに沿って手順どおりに行う部分と,それを超えたまさに「さじ加減」という領域があり,その領域では患者にとってのベストを見出すためのプロとしてのひと工夫が求められることになる.
 本書は,著者がこれまで身につけてきたいろいろな患者やその家族とのコミュニケーション法の一端を披露しながら,初心の医師としてどのように対応して行けばよいか,そのヒントを与えてくれ,「さじ加減」という意味では本書はまさに<患者処方例集>である.
 患者とのよい関係を築くことで患者の満足度を高め,医療者としてもやり甲斐が感じられる医療が提供できるよう,ぜひ本書の活用をおすすめする.


●まえがき●

 世の中全体にマニュアルが流行っている。医療界でも同様で、何をやるにしても手順を明確にし、それに沿って実行することを求める傾向が強くなっている。もちろん手順を整備しておくことの意義は十分あるし、マニュアルを作成する中で関係者が議論すること自体にも意味があるのは事実である。しかし医療に限らずどんな領域においても型どおりの対応がベストということではなくマニュアルは最低保障のようなもので、機械的な対応に対する不満もしばしば聞かれるところである。
 著者は以前編集した「実践インフォームド・コンセント」の中で、個別性を重視し一人ひとりの患者にとってのベストと考えられる医療を提供することが目標であり、そのためには情報提供だけではなく自己決定の支援が必要であり、さらに医学的な合理性がある範囲では患者の考えに歩み寄ることが重要であることを主張してきた。つまり誰に対してもマニュアルに沿って手順どおりに行う部分と、それを超えたまさに「さじ加減」という領域が存在するのであり、その領域では患者にとってのベストを見い出すためのプロとしての一工夫が求められることになる。
 医療安全が話題になり、この面でもマニュアルが重視され次々に安全管理に関する手順の整備が求められてくるが、覚え切れないほど多くの手順が実効性のあるものになるのか大いに疑問である。まして個々の患者を相手にした診療場面で、マニュアルに基づく機械的な対応が最適かどうかはさらに懐疑的にならざるを得ない。
 そんな考えをもっていながらこのようなマニュアルめいた本を書くのは、いささか一貫性に欠けると思われるかも知れない。提案を頂いた際にも迷いがあったのだが最終的に引き受けることにしたのは、医療界には限らないが現実にマニュアルやガイドラインがないと行動できない人が増えていると思うからである。従来なら臨機応変に対応されていたのに、臨機応変とはどういうことか、それを具体的に説明しておかないと動けないという人がいるという現実がある。例えば倫理が問題になるような場面で、法的には規定はなく医療者の裁量の余地が認められているのに、明確な基準がないと手が出せないというような人も少なくないようである。このようなことは個人の能力ということではなく社会や教育体制の影響なのかも知れない。ともあれ彼らにとって行動指針になるものがあれば役に立ち、結果的に医療の質の向上につながるかも知れないと考えるようになったのである。
 しかし本書で述べたことを文字どおり忠実に実行してもらうことを期待しているわけではないし、もとよりそんな規範になるようなものを一介の臨床医である筆者が示せるはずもない。記載した内容はあくまで著者の考えに基づく対応例に過ぎないのであり、これを考えるきっかけにして自分なりのやり方を実践してほしいのである。一時EBMという言葉が流行し、現在でもその基本的な考え方は生きているはずだが今一つ定着していないように思える。医療には明確な根拠があるわけではないものの経験的に有効と考えられているものが非常に多く、「evidenceがないから」ということでそういった経験値を切り捨ててしまうような風潮に批判があったことも一因ではないかと思っている。本来、そのようなものも冷静に吟味したうえで方針を採用すればよいのだが、たまたま論文という形になったものが常に最善であるという考え方がいささかはびこりすぎたのではないだろうか。患者への適切な対応というようなものはなかなか科学にはなりにくく、診療現場でどのように実践するかは診療方針以上に当事者の裁量の範囲が広い。かつてはそういった臨床での行動の仕方は医局組織の中で実践的に教育されてきたように思う。医局制度は封建的な師弟関係として嫌う向きもあるとは思うが、すべてを否定するのではなくよいものは受け継ぐべきで、従来はそのような関係の中で伝えられていた実務的な技能の一端を本書を通じて知ってもらいたいというのが執筆の意図になるだろうか。
 理想像を追い求めることも大切だが、われわれが日々行っている医療の中で少しでも具体的な成果を出して患者の満足度を高め、医療者としてもやり甲斐が感じられるようにしていくことが重要だと考える。そんな目的のために本書が活用されることを期待しており、結果として医療者と患者の双方が満足するような医療を実現したいものである。

■ 主要目次

序章─患者への対応を考える前に─

1. よい医療を提供することが目標
2. トラブル回避は結果である
3. 患者の言い分を聞くことと尊重するのは別
4. マニュアルを覚えるのではなく、修正能力を身につけよう
5. 「お任せします」「よろしくお願いします」の意味は?
6. 患者は味方を探している
7. 医学の限界を意識しておく

基 礎 編

I こんな人がトラブルのもと
 1 空気が読めない
 2 すぐ怒る
 3 ひとの言うことを聞かない
 4 方針を押しつける、有無を言わせない
 5 間違いを認めない
 6 気分にムラがある
 7 頼んだことをやってくれない
 8 患者をきちんと診ない
 9 時間にルーズ
 10 周囲への配慮がない
 11 他人のせいにする
 12 自慢話をする
 13 技量が未熟
 14 感情を逆撫でする、感情的な話し方
 15 希望を失わせるものの言い方
 16 露骨にいやな顔をする
 17 無愛想
 18 すぐに言いふらす
 19 曖昧な態度

II 適切な対応のために患者のことを知る
 1 患者には幅がある
 2 専門家でないが故の身勝手な言い分
 3 患者は医療者を尊敬している
 4 患者は都合のよい情報を選別する
 5 患者の個別性を尊重する
 6 どんな相手か情報収集

III 話し方・聞き方
 1 話すことは聞くことでもある
 2 初対面のとき
 3 何を引き出したいのか
 4 主語、目的語を明確に、わかりやすい文章構造
 5 用語の選択
 6 伝えたいことを明確に
 7 患者のニーズに応じた説明
 8 説明のタイミング
 9 質疑応答で理解を深める
 10 当たりまえのことでも解説を
 11 雑談の功罪
 12 非言語的コミュニケーション

IV 診療場面でのいろいろな配慮
 1 面談に同席する人
 2 面談の記録
 3 他科受診
 4 性別
 5 年齢
 6 病室への訪問の仕方
 7 患者の前での議論
 8 相手の心理状態を推し量る
 9 プライバシー
 10 紹介患者
 11 患者に注意するとき

V 患者に判断を求めるとき
 1 インフォームド・コンセント
 2 考え方の基本
 3 情報提供
 4 自己決定の重要性を示す
 5 自己決定の支援
 6 判断できない人に強制しない
 7 提案の仕方
 8 「患者は対等」という考え方の罠
 9 必要以上に不安にさせない

VI よりよい関係を築く工夫
 1 患者を覚える
 2 成果を出す工夫
 3 嘘をつかない
 4 いい加減な返事をしない
 5 訴えには耳を貸す
 6 声をかける
 7 安心感を与えて別れる
 8 予後の伝え方
 9 表情、態度
 10 面子にこだわるな
 11 間違いは認めよう
 12 苦痛・不安への共感
 13 患者のこだわりへの配慮・尊重
 14 後悔させない配慮
 15 コーディネータとしての役割
 16 感情を抑える、怒り出したら負け
 17 去る者は追わず
 18 患者教育
 19 家族との関係

VII チームとしての対応
 1 実際に協議が行われるように
 2 チーム内で不一致がない
 3 患者もチームの一員
 4 何もかも1人でやろうとするな
 5 自分の未熟さを隠さない

VIII 社会人としての常識
 1 年長者への敬意
 2 時間管理
 3 話題・教養
 4 電話
 5 服装
 6 言葉遣い
 7 約束を守る
 8 ルールを守る
 9 職業倫理
 10 知っておくべきキーワード

応 用 編

I 難しい場面
 1 診断がつかない
 2 自信がない
 3 治療がうまくいかない
 4 予後不良が予想される
 5 専門外の患者を診なければならない
 6 混み合っている、時間がない
 7 信用されていないと感じたとき
 8 セカンド・オピニオンの申し出があったとき
 9 転院希望
 10 患者が他の人の話をする
 11 自分が疲れているとき
 12 症状はないが治療しなければならない
 13 電話での対応
 14 休日・時間外の面談希望
 15 診断書・書類作成時の希望

II 難しい患者
 1 若い医師を見下す患者
 2 挑戦的な患者
 3 懐疑的な患者
 4 要領を得ない患者
 5 なかなか席を立たない患者
 6 早とちりしがちな患者
 7 自説を主張する患者
 8 訴えの多い患者
 9 無理なことを求める患者
 10 薬剤を求める患者
 11 金品を持って無理を言う患者
 12 感謝の念が欠けている患者
 13 情報を集めている患者
 14 「知りあい」を誇りたがる患者
 15 身内・関係者
 16 乱暴な患者

III トラブルになりかけたら
 1 技術的な失敗
 2 不適切な言葉
 3 予期しない結果
 4 冷静に
 5 謝り方
 6 不当な要求

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