よくわかる 悪性リンパ腫のすべて
- 著 者
- 編集 飛内 賢正(国立がんセンター中央病院
第一領域外来部 部長)
- 発行年
- 2008年9月
- 分 類
癌・腫瘍一般
- 仕 様
- B5判・394頁・145図・117表・写真29点
- 定 価
- (本体 8,500円+税)
- ISBN
- 978-4-8159-1817-0
- 特 色
- 悪性リンパ腫患者の診療の専門医はもちろんのこと,研修医,若手医師を第一の読者対象に,悪性リンパ腫という疾患と治療選択に関する理解を深めて頂くことを目的とした悪性リンパ腫の診療と研究についての本格的かつ実践的な解説書.わが国における悪性リンパ腫の診療と研究現場において第一線で活躍する医師たちが各章を担当,診療と研究の現在の到達点が詳述されている.
血液腫瘍の中で最も患者数が多く,疾患としてもきわめて多様性に富む疾患群から構成され臨床的重要度が高い悪性リンパ腫は,それゆえ血液内科医,腫瘍内科医,放射線科医,病理医のいずれにとっても重要ではあるがわかりにくく治療選択に迷わされる疾患群である.本書では,病理組織分類,発生機序,疫学から診断,各療法,各疾患の治療,予後,新薬開発まですべてを網羅した.キメラ型抗CD20抗体リツキシマブ,FDG-PET画像診断など今後研究の進展著しいと思われるこの分野に取り組もうとされるすべての医師にぜひご購読をお勧めしたい.
●序 文●
悪性リンパ腫はリンパ球に由来する腫瘤形成性悪性腫瘍の総称であるが、発生母地となる免疫系の細胞構成に関連した多様な免疫学的表現型、多様な病因・腫瘍化機序と分子異常などを反映して、極めて多様性に富む疾患群から構成される。WHO分類でリストアップされた悪性リンパ腫の疾患単位は約40に達し、悪性腫瘍の中で最も複雑な病理組織分類が用いられている疾患群である。治療選択の観点からも、選択すべき治療がWHO分類に基づく病理組織学的疾患単位、病期などにより異なり、無治療経過観察、Helicobacter
pylori除菌療法、外科切除、化学療法、抗体療法、放射線療法、自家および同種造血幹細胞移植などの極めて幅広い治療選択肢がある。中でも近年の薬物療法の進歩は著しく、キメラ型抗CD20抗体リツキシマブの導入はB細胞リンパ腫の治療体系を変革し、その治療成績を改善した。リツキシマブに続く新たな抗体医薬、分子標的薬などの新薬開発も活発に行われている。一方、新たな画像診断法としてFDG-PETがリンパ腫診療に導入され、病期診断や治療効果判定のみならず、治療法選択への応用が検討されている。
悪性リンパ腫は血液腫瘍の中では最も患者数が多く、リンパ節のみならず、ほぼすべての臓器に発生する腫瘍であり、臨床的重要度が高い。
以上の特徴により、悪性リンパ腫は、血液内科医、腫瘍内科医、放射線科医、病理医のいずれにとっても重要ではあるがわかりにくく治療選択に迷わされる疾患群であり、非専門家にとってはなおさらである。本書は、悪性リンパ腫患者の診療を専門としない若手医師を第一の読者対象として、悪性リンパ腫という疾患と治療選択に関する理解を深めて頂くことを目的として、「よくわかる悪性リンパ腫のすべて」という表題のもとに企画かつ分担執筆された。
本書では、病理組織分類、発生機序、疫学、染色体・遺伝子異常、病期診断・治療効果判定、化学療法、放射線療法、予後因子、多施設共同臨床試験、インフォームド・コンセント、主な疾患単位の治療(ホジキンリンパ腫、濾胞性リンパ腫、MALTリンパ腫、マントル細胞リンパ腫、中悪性度リンパ腫、高悪性度リンパ腫、NK/T細胞リンパ腫、成人T細胞白血病/リンパ腫)、高齢者と小児のリンパ腫、主な節外性リンパ腫(消化管、脳、眼、皮膚、骨)、再発・再燃例の化学療法、自家および同種造血幹細胞移植、化学療法の副作用と対策、B型肝炎ウイルス再活性化と対策、晩期障害と二次癌、新薬開発といった、悪性リンパ腫の診療と研究の現在の到達点が詳述されている。各章を分担執筆したのは、わが国の悪性リンパ腫の診療と研究現場において現在活躍中の医師たちであり、多忙を極める日常診療と研究の間の貴重な時間を割いて執筆して頂いた。結果として、悪性リンパ腫の診療と研究の現場に即した、他に類を見ない本格的かつ実践的な解説書となったと思われる。
悪性リンパ腫は診療上重要な疾患群であるだけではなく、幅広い基礎研究とも連動しており、悪性腫瘍研究のモデルとなり得る疾患群であり、この観点からも今後の研究の進展が大いに期待される分野である。本書が、多くの若手医師にとって、この興味深い分野に取り組むきっかけの1つになることを願っている。
平成20年8月吉日
飛内賢正
■ 主要目次
1 悪性リンパ腫とは何か―悪性リンパ腫の種類と分類
1.悪性リンパ腫とは
2.悪性リンパ腫の種類
3.悪性リンパ腫の分類
4.悪性リンパ腫の分類と悪性度・予後
2 悪性リンパ腫はなぜ起きるのか
1.染色体転座
2.炎症
3.免疫機能低下
3 悪性リンパ腫の疫学
1.本邦の悪性リンパ腫の特徴
2.新分類に基づく悪性リンパ腫の地理的特性
3.悪性リンパ腫の発生要因
4 悪性リンパ腫と染色体や遺伝子の異常
1.B細胞腫瘍
2.T細胞腫瘍
3.Hodgkinリンパ腫(Hodgkin lymphoma)
5 悪性リンパ腫の診断に必要な検査、病期診断、治療効果判定法
1.診断の進め方
2.病理診断
3.臨床病期診断
4.治療効果判定
6 悪性リンパ腫治療に使用される薬物
1.作用機序からみた抗腫瘍薬の分類
7 悪性リンパ腫の放射線治療
1.放射線治療の役割
2.放射線治療が役立つことが多い悪性リンパ腫
3.放射線治療の方法
4.放射線治療の有害反応
5.最近の放射線治療の進歩と将来
8 悪性リンパ腫の予後因子と治療選択
1.非ホジキンリンパ腫(NHL)の予後予測モデル―IPI
2.濾胞性リンパ腫(FL)の予後予測モデル―FLIPI
3.ホジキンリンパ腫(HL)の予後予測モデル―IPS
4.T細胞リンパ腫の予後因子
5.DLBCLの予後因子
6.悪性リンパ腫の治療選択における予後因子の意義
7.今後の課題
9 JCOGリンパ腫グループによる多施設共同臨床試験
1.JCOG設立までの経過
2.JCOGの研究体制
3.JCOGリンパ腫グループ多施設共同研究
10 臨床試験とインフォームド・コンセント
1.インフォームド・コンセント
2.悪性リンパ腫患者のインフォームド・コンセント
3.標準的治療と実地診療
4.造血幹細胞移植のインフォームド・コンセント
5.臨床試験とは
11 ホジキンリンパ腫の治療
1.臨床病期分類
2.予後因子
3.限局期ホジキンリンパ腫の治療
4.進行期ホジキンリンパ腫の治療
5.再発・難治性ホジキンリンパ腫の治療
6.晩期毒性
12 濾胞性リンパ腫の治療
1.序論
2.治療指針の概要
3.低悪性度B細胞リンパ腫に対するCHOP+リツキシマブの併用療法
4.放射性同位元素を抱合した抗CD20抗体療法(RIT)
5.化学療法による寛解導入療法とRITによる地固め療法
6.進行期濾胞性リンパ腫患者の初回治療としてのHDT+ASCTの役割
7.濾胞性リンパ腫に対する同種移植と自家移植の比較
13 MALTリンパ腫の治療
1.MALTリンパ腫の病態
2.MALTリンパ腫における染色体、遺伝子異常
3.原発部位による遺伝子変化の差異
4.MALTリンパ腫の治療
5.再発時の治療
6.再発の一般的治療戦略
14 マントル細胞リンパ腫の治療
1.症状
2.診断
3.予後予測因子
4.治療戦略
15 中悪性度リンパ腫の治療
1.予後予測因子
2.限局期例の治療
3.進行期例の治療
4.化学療法におけるdose intensityの意義
5.リスク別の治療
6.高齢者に対する治療
7.再発例に対する救援療法
16 高悪性度リンパ腫(前駆Tリンパ芽球性リンパ腫とバーキットリンパ腫)の治療
1.前駆Tリンパ芽球性リンパ腫(precursor T-LBL)
2.バーキットリンパ腫(Burkitt lymphoma)
17 末梢性T細胞リンパ腫とNK/T細胞リンパ腫の治療
1.末梢性T細胞リンパ腫、非特定(PTCL-U)
2.節外性NK/T細胞リンパ腫、鼻型(ENKL)
18 成人T細胞白血病/リンパ腫の治療
1.ATLの予後因子と病型分類
2.Indolent ATLの標準的治療法
3.Aggressive ATLに対する標準的治療法の開発
4.ATLに対する新薬の開発
5.ATLの合併症対策
19 高齢者悪性リンパ腫の治療
1.高齢者リンパ腫の組織学的亜型と臨床的特徴
2.高齢者進行期aggressiveリンパ腫に対するCHOP療法
3.高齢者に適しているアントラサイクリン系薬剤について
4.高齢者リンパ腫に対する第三世代化学療法
5.リツキシマブの高齢者進行期DLBCLに対する有用性
6.高齢者限局期aggressiveリンパ腫に対する治療
20 小児悪性リンパ腫の治療
1.非ホジキンリンパ腫の治療
2.ホジキンリンパ腫の治療
21 消化管に発生するリンパ腫の治療
1.消化管のリンパ腫
2.十二指腸原発濾胞性リンパ腫
3.小腸のリンパ腫
4.結腸・直腸のリンパ腫
5.Multiple lymphomatoid polyposis(MLP)
22 脳に発生するリンパ腫の治療
1.発生頻度―増加2
2.臨床像
3.画像所見―均一な造影効果のある特徴的なCTおよびMRの所見
4.病理所見と細胞生物学―多くはびまん性大細胞型B細胞リンパ腫
5.診断―中枢神経外病変がないことの確認と組織診断が重要
6.予後因子―5つの予後不良因子
7.治療
8.免疫抑制状態で発生するPCNSL
23 眼の周囲に発生するリンパ腫の治療
1.治療方法
2.放射線治療方法
24 皮膚に発生するリンパ腫の治療
1.菌状息肉症(MF)、セザリー症候群(SS)
2.MF、SSを除く皮膚リンパ腫の病期分類
3.皮膚CD30陽性リンパ球増殖症(CD30+LPD)
4.皮下脂肪織炎様T細胞リンパ腫(SPTL)
5.皮膚B細胞リンパ腫(CBCL)
25 骨に発生するリンパ腫の治療
1.定義
2.臨床所見
3.画像所見
4.診断
5.病理組織学的所見
6.病期診断
7.治療
8.効果判定
9.予後因子
26 再発、再燃悪性リンパ腫の救援化学療法
1.再発、再燃時に必要な検査
2.主な組織型の治療方針
3.主なサルベージ療法
4.Rituximabの併用に関して
5.サルベージ療法の今後
27 悪性リンパ腫の自家造血幹細胞移植併用大量化学療法:適切な施行対象と施行時期
1.自家造血幹細胞移植の考え方と方法
2.濾胞性リンパ腫に対する自家移植
3.ホジキンリンパ腫に対する自家移植
4.中悪性度B細胞リンパ腫に対する自家移植
5.末梢型T細胞リンパ腫に対する自家移植
6.高悪性度リンパ腫(リンパ芽球性リンパ腫とバーキットリンパ腫)
28 悪性リンパ腫の同種造血幹細胞移植
1.造血幹細胞移植の種類
2.同種造血幹細胞移植の原理
3.同種造血幹細胞移植の適応
4.同種造血幹細胞移植の前処置療法
5.造血幹細胞の採取、保存、輸注
6.造血幹細胞移植における患者管理
7.造血幹細胞移植における合併症
8.移植後の再発
29 抗がん剤治療の副作用とその対策
1.急性反応
2.悪心・嘔吐
3.骨髄抑制
4.口腔粘膜障害
5.下痢
6.便秘
7.脱毛
8.肺毒性
9.心毒性
10.腎毒性
11.神経毒性
30 悪性リンパ腫治療中のB型肝炎ウイルス再活性化とその対策
1.HBV感染とHBVキャリア
2.HBV再活性化と全身化学療法
3.リツキシマブ投与例における肝炎・肝障害
4.HBV再活性化による肝炎・肝障害への対策
31 悪性リンパ腫治療後の晩期障害と二次癌
1.臓器障害
2.二次癌
3.九州がんセンターにおける悪性リンパ腫治療後の二次癌
32 悪性リンパ腫に対して開発中の新薬
1.B-NHLに対して開発中の次世代抗体医薬
2.B-NHLに対して臨床開発が行われている抗体医薬以外の新規抗がん剤