午後の医局


著 者
著 後山 尚久(藍野学院短期大学 教授)
発行年
2008年9月
分 類
￿  医学随想
仕 様
A5判・238頁
定 価
(本体 2,000円+税)
ISBN
978-4-8159-1813-2
特 色 
 「更年期医療」の黎明期に大学病院に専門外来を開設し,漢方医学や心身医学と出会い,生化学研究者,産婦人科医師として研鑽を積んできた著者が,これまでの病院や医局での出来事,テレビ出演での出来事,漢方医学のすばらしさ,これからの医学教育への思いなど,患者さん達との思い出をヒントに再構成したフィクションも含めて,さまざまなテーマについて語っている.
 理想とする「癒師」に近づこうと日々苦悩し,医師として一人の人間としてたくさんの悩める患者と相対してきた著者が,医療への不信と「医療崩壊」の時代に医師はどうあるべきか,あとにつづく医師の方々,また医療を受けている患者さんへ医療への思いを伝える珠玉の随想集である.

●序   文●

 二十一世紀に入って医療現場は、崩壊に向けて突き進んでいる。世界一とされた国民皆保険機構は失敗だったという烙印を押された。どこでも誰でもいつでも、最高レベルの医療が、おこずかい程度の安価で受けられる理想的な医療体制だった。医師や看護師の度を外れた自己犠牲と過剰勤務は、家庭崩壊や自己の健康管理不全を招きながらも、対価を求めない医療人としての大きな使命感によって贖われてきた。
 モンスター患者の飽くなき要求、無理解で理不尽な攻撃、人間生活不能な過酷な労働とそれに見合わない報酬、本来の医療技術を生かせない領域の仕事量の膨張、医療経営の限界等、さまざまな理由で〃医療崩壊〃が日本中を襲っている。たらい回しにされたあげくに診療してくれた病院では、もはや患者が求める医療を提供できるはずもなく、患者の安心や満足は夢物語となった。
 今から三十年前、希望に燃えて医師になった僕は、現在の医療状況を予想できるはずもなく、自分が豊かな医療知識を蓄え高い医療技術を習得することで、多くの女性の苦しみを消し、誰もが安心できるお産をし、手術で健康を取り戻せると信じていた。産婦人科医学は今以上に進歩し、高度先進医療により、病気を恐れず、平和で安心して暮らせる世の中が来ると思っていた。新たに医師となる若者は、多かれ少なかれそんな漠然とした未来社会を夢見ているのである。今年の研修医一年生も、その点では三十年前の僕と変わらない。だが、今は医療崩壊の真只中だ。医師としての仁の心なんか、いともたやすく崩れ落ちる医療界である。
 患者と医師がいい関係でいられた頃、僕に強い印象を残した患者のことや医師としての自分の思いを時折文字にする習慣が、僕にはあった。おそらく医師になって二年目頃から暇をみて書いていたのだろう。知らぬ間にいくつも溜まってしまい、フロッピーディスクの中で眠っていた。読み返してみると、今とは違う時代背景もあり、いまでは考えられないようなのんびりとした話もある。すっかり成人となった僕の子供たちも時々登場する。僕の実体験を基にしたフィクションも織り込んで加筆し、内容を膨らませた部分もある。僕自身を主人公とした小説風の話もあれば、患者さんが中心のものもあり、文体も構成もさまざまであり、読みづらいと思うが、最後まで我慢していただきたい。
 僕が高校一年生の時、父が一眼レフカメラを買ってくれて以来写真撮影は趣味のひとつとなった。講演や学会で各地に旅行する時は、本来の仕事を忘れて、気持ちはすっかり写真撮影に向く。カメラの機種は相当揃ったが腕は上がらず、なかなか満足のいく写真は撮れない。そんなこと承知した上で、せっかくなのでいくつか載せることにした。ちょっとしたアクセントになれば幸いである。

■ 主要目次

はじめに

 一、病院の片隅で

  もう家に帰る元気あらへん
  誰か押せる?
  一人で治さなきゃいけないと思って
  やさいスープ飲んでいいですか
  きばり方教えてよ
  ちょっと気分転換してくるわ
  急げ、帝王切開
  教祖様にでもなったら
  左右に開いてよー
  菌が身体の中からグイグイくるねん
  唾液がでないですねん、どうしてでしょうか
  おふくろ、これどうなってんのや?
  特室の人
  人事異動の頃 ︱ 松下さんの憂鬱
  お母さんになる ︱ 松下さんの危機
  息切れの宅直
  トルコに行きたいよ、先生
  あの頃に比べれば幸せな毎日
  極道の妻やろ
  KAROSHI ︱ 二十四時間働けますか?
  腰痛は信仰でもとれへん
  ぼくの腎臓移植患者第一号なんだから
  テレビドラマであれやっているところ見た

 二、やぶ医者の独り言

  普通の世界で生きること
  医業と社交
  春次郎先生
  悲壮な英会話
  手当ての心は何心?
  心配の長男
  僕と合唱
  妻の風邪ひき
  鼻炎と私
  先生と手術するんですか?
  本気で更年期専門外来をやるということ
  秋の憂鬱
  人生の終焉

 三、テレビのあとで

読売テレビのこと
  関西テレビのこと ︱ その一 ︱
  関西テレビのこと ︱ その二 ︱
  NHKのこと ︱ その一 ︱
  NHKのこと ︱ その二 ︱ 津久見ロケと生活ホットモーニング
  NHKのこと ︱ その三 ︱ ためしてがってん
NHKのこと ︱ その四 ︱ 医学監修 ドラマ﹁ダイヤモンドの恋﹂
収載写真について

 四、午後の医局

  生化学に出会った
  ぬるま湯から冷水へ
  講義は袋小路に入る
  現代医学生気質と臨床教育の困惑
  医学生教育にみる漢方という医学体系
  漢方医学について思うこと
  更年期外来の二十年
  医師と癒師
  メタボリックの功罪
  スローセラピー

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