がん診療ハンドブック
- 著 者
- 監修 竜 崇正(千葉県がんセンター長)
編集 木村 秀樹(千葉県がんセンター 医療局長・診療
プロトコール開発管理委員会委員長)
- 発行年
- 2008年7月
- 分 類
癌・腫瘍一般
- 仕 様
- B5判・120頁・106図・15表
- 定 価
- (本体 4,000円+税)
- ISBN
- 978-4-8159-1810-1
- 特 色
- 高度先進医療から緩和医療までを,千葉県がんセンターのがん治療の均てん化・標準化への取り組みを本書に集約.
がん対策基本方を追い風に,よりよいがん治療を提供するために!
●がん診療ハンドブック発刊にあたって●
がん対策基本法により「がん医療の均てん化」ががん専門病院の責務となりました。質の高いがん医療を、どこの病院でも同様に提供できるようにすることです。がんの治療は「標準治療」「先進治療」「緩和医療」の3
本柱で成り立っています。がん対策基本法に謳われている、がん医療の均てん化と10 年後がん生存率20%向上のためには「標準治療を安定的に国民に提供すること」が重要です。これががん専門病院とそれに準じる病院の使命であると思います。標準治療というのはレベルの低い治療ではありません。最も科学的に証明された質の高い治療法のことです。これにより治るべき患者さんを確実に治すことができますし、延命できる患者さんを延命させることができます。しかしすべての分野で標準治療が確立しているわけではありません。「先進治療」の開発も、また最先端医療を「標準的治療」に進化させるのもまた、がん専門病院の使命と考えています。
本書はこの「標準治療」「先進治療」「緩和医療」を明らかにして、それぞれについての現在のあるべき診療のガイドブックとして企画されました。「標準的治療を安定的に国民に提供すること」が最もがん医療の均てん化に寄与するものと考えます。そこで、第1部では疾患別プロトコールと成績で、標準治療とその成績を示しました。現在の、患者さんに提供すべき標準治療は何か、それをどのようにして安定的に患者さんに提供していくのか、という点を明らかにすることを目的としました。第2
部ではがん診療連携拠点病院としての試みの中で、千葉県がんセンターが推進している緩和医療について取りあげました。第3 部では現在千葉県がんセンターが行っている「先進治療」についても取りあげています。これらの治療法がさらに標準治療に進化させることも目的としているからです。
日本のがん医療は世界一のレベルにあると考えます。世界一の長寿国となっているのがその証拠です。各医師や医療従事者が工夫を凝らし、寝食を忘れてがん医療を提供してきた結果です。しかし国民は自分たちが世界一のがん医療を受けているとは信じていないようです。
千葉県がんセンターでは2005 年4 月に私が赴任以来、どうしたら私たちのもっている素晴らしいがん医療を多くの国民に提供できるか、どうしたら患者さんに理解してもらえるかを模索してきました。そして「心と身体に優しいがん医療の提供」を旗印に、旧来の診療体制を一新し、がんとなった患者さんを一刻も早く治療して治癒させる体制にしました。そして患者さんに私たちの提供する治療法を理解して頂くには、職員の理解が前提であると考え、「診療プロトコール開発管理委員会」を組織し、私たちの行っているがん医療を整理し、「クリニカルオンコロジーカンファレンス」で診療科の枠を越え、がん医療の質を検証していきました。もう1
つ大事にしたことは、「患者さんの視点を医療に活かす」ことです。がん対策基本法の意味は、患者さんを治すだけでなく、患者さんや家族の共感や理解を得なければならないということなのです。私たちは口数少なく、自分の技術を目の前の患者さんに提供しているだけでは駄目なのです。患者さんは治るようになりましたが、治った患者さんはそれに満足せず、説明のときに受けた医師の言葉がトラウマになり、再発の不安にさいなまれ、「自分の受けた医療よりもっとよい医療があったのでは?」と疑うようになっているのです。そんな中、国民の日本のがん医療に対する不満が契機となり「がん対策基本法」が2007
年4 月から施行されたと考えます。
「がん診療ハンドブック」出版の目的は、私たちはがん対策基本法を追い風として、さらによりよいがん医療を提供し国民の信頼を得、世界に冠たる日本のがん医療を護り発展させることです。患者さんの視点を大事にする私たちの行っているがん医療を世の中に提案できることは大きな喜びでもあります。多くのスタッフの皆さんの努力に敬意を表します。
しかしこれはただの出発点にしか過ぎません。多くの方に読んで頂いてご批判を頂き、さらによりよいがん医療を国民に提供するよう努力して参りたいと思います。
2008 年7 月吉日
千葉県がんセンターセンター長 竜 崇正
■ 主要目次
第1部 疾患別プロトコールと成績
1 肺がん
肺がんの治療プロトコール
術後成績
胃がんの治療プロトコール
術後成績
2 食道がん
初発食道がん
切除後再発
CRT 後再燃
治療成績
3 胃がん
4 大腸がん
結腸がんおよび直腸S 状部、上部直腸がん
下部直腸がん
5 肝細胞がん
外科的切除が第一選択の場合
内科的治療が第一選択の場合
6 膵臓がん
切除可能例
術後再発例
切除不能例
7 乳がん
乳がんの治療プロトコール
治療成績
8 卵巣がん、子宮がん
上皮性卵巣がん
悪性卵巣胚細胞腫瘍
子宮体がん
子宮頸がん
9 前立腺がん、腎がん
概念
前立腺がんの診断方法
前立腺がんの病期診断
治療法
再発治療
前立腺がんの治療プロトコール
腎がんの治療プロトコール
リンパ腫、急性白血病
びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)
DLBCLに対するR-CHOP療法の治療成績
急性白血病
骨肉腫
骨肉腫の治療プロトコール
当科における骨肉腫への取り組み(治療成績)
喉頭がん
喉頭がんの治療プロトコール
治療説明と治療成績
脳腫瘍
乏突起神経膠腫とは
治療について
治療成績について
第2部 がん診療連携拠点病院としての活動
1 がん医療従事者研究事業と診療プロトコール開発管理委員会(Cancer Board)
2 院内がん登録
動き出した「がん登録」
院内がん登録とは
院内がん登録の対象と内容
院内がん登録の利用
地域がん登録
がん対策の推進へ
3 地域医療連携室の役割
がん診療における地域連携
地域医療連携室の活動 68
地域連携クリティカルパス
4 緩和医療センター— 在宅緩和医療の推進
5 緩和医療科外来とがんサポートチームの役割
緩和医療の目標と概念
緩和医療科外来
がんサポートチーム
すべての医療スタッフが緩和医療を提供(一次緩和医療の普及)
6 在宅支援センターの役割
7 患者相談支援センター
8 外来化学療法の進歩と当センターの取り組み
がん化学療法の現況
治療プロトコールの整備と電子カルテの活用
副作用マネージメント
スタッフ教育
今後の問題点
9 抗がん剤投与方法の統一
地域連携クリティカルパス(前立腺がんモデル)
千葉県がんセンター泌尿器科の診療状況
前立腺がんのクリティカルパス
第3部 先進医療
1 肺がん切除後の補助化学免疫療法─所属リンパ節由来の樹状細胞と活性化リンパ球を用いて
対象および方法
結果
成績
2 強度変調放射線治療(IMRT)
3 高強度集束超音波治療(HIFU)
4 画像診断の進歩—三次元画像の治療への応用
5 核医学の進歩
核医学による診断
核医学による治療
6 脳腫瘍の画像支援ナビゲーション手術
7 新規がん候補遺伝子の同定から創薬へ
8 がん組織バンクとその応用研究
神経芽腫の組織バンクとその応用研究
成人がんの組織バンクとその応用研究
9 がんプロトコールスタディにおける前向き付随研究の推進