やさしく学ぶ 認知症のケア

よくわかる子どもの肥満
著 者
編著: 長谷川 和夫
(浴風会 認知症介護研究・研修東京センター センター長・聖マリアンナ医科大学 名誉教授)
発行年
2008年3月
分 類
介護・福祉
仕 様
B5判・190頁・58図・35表
定 価
(本体 3,000円+税)
ISBN
978-4-8159-1804-0
特 色
  昨今,「認知症」の社会制度的ケア活動の広がりのなかで,実際に認知症の人々に向き合い多様な問題に直面している方々を対象に,医師・ケアマネジャー・社会福祉士の専門家らが,認知症の医療はもちろんのこと,認知症のケアの実際について大局的に捉えた実践的テキストである.一人ひとりの個別的かかわり(個人の物語)を重視する<認知症ケア>を真に理解し,どう支えて行けばよいかを,12の章を設け,わかりやすく懇切に教えてくれる.
 内容は,総論:認知症ケアの理念と基本的事項から,医療,支援と告知,心理および心理療法,介護者,訪問看護,予防,地域啓発活動までを収載.特別寄稿として「認知症と共に暮らすまちづくり」も掲載.また巻末には成年後見制度,虐待,身体拘束,自動車の運転,若年性認知症などの課題を10のQ&Aをとして取りあげた.編者の7つのコラムも貴重である.
 認知症ケアを自分のこととして捉え,いま認知症ケアを実際に行っている方々と介護する家族の方々,これからケア専門職に携わろうとする方々にぜひ手にとって読んでいただきたい.

●序  文●

 はじめに
 
 21世紀の初頭、認知症についての考え方や捉え方に新しい流れが起こっている。2000年4月に導入された介護保険法の施行により、その利用者約300万人の半数が認知症をもつことが指摘され、社会的にも認知症のケアに大きな関心が集められたことも契機になった。2004年10月本邦の「呆け老人をかかえる家族の会」が担当して国際アルツハイマー病協会「第20回国際会議」が京都で開催されたとき、認知症の当事者が主役としてメイン会場に約2,000人の参加者を前にして立ったことも新しい流れを象徴するイベントであった。さらに2004年12月のクリスマスイヴの日、厚生労働省が「痴呆」という呼称を「認知症」と改めたことも認知症の人の尊厳を守るうえで大きな力になった。そして認知症の人が地域で安心して安全に暮らしていくために本人と家族を支える仕組みが求められ、さまざまの活動が行われるようになった。しかし、介護の現場では在宅でも施設でも多様なそして困難な課題が山積していることも現実である。
 本書は、このような認知症ケアの新しい流れを背景として生まれた。認知症の医学的戦略は、診断技法や新薬開発の進歩を目指しているが、これは一人ひとりに共通した病態の解明を基盤にしている。ところが認知症のケアは一人ひとりの個別的なかかわりを重視する。敢えてその特徴を述べるとするならば、医学や医療は、根拠に基づくアプローチを重くみるが、ケアはその人の物語に基づくアプローチを重視するといってよいだろう。
 認知症は軽症から重度になるに従って失われていく認知機能が重なってゆく。認知症の人はその不安に耐えながら暮らしの中で不自由を体験することになる。単独でケアをしてゆくことは難しく、家族を含めた複数の専門職がかかわることになる。医療職の関与は合併身体症の治療を含めて欠かせない。当事者の個有の情報を共有するチームケアが重要になる。そしてさらに一般市民の方が認知症について正しい知識をもって頂き、市民一人ひとりが自分のこととして理解し、認知症の人や家族の支えになって頂きたい。これが認知症になっても安心して暮らせる地域づくりの基礎をつくることになると思う。
 本書は12章から構成されている。 1.は総論で認知症ケアの理念を学び、認知症についての基本的事項を理解する。 2.は認知症の医療、 3.は介護家族の支援と告知について学ぶ。 4.5.および6.は、認知症ケアの実際的な技法、コミュニケーション、基本アセスメント、そしてICFの視点からみた認知症ケアが詳述されている。 7.および8.はそれぞれ認知症の心理および心理療法が述べられ、 9.は介護者のストレスとその対応、 10.は訪問看護の立場から認知症ケアについて、 11.は認知症の予防の考え方や介護予防対策を含めて詳しく述べられ、 12.は認知症の地域啓発活動が具体的な取り組みの体験として述べられている。また特別寄稿として「認知症と共に暮らすまちづくり」に参画した市民からの寄稿を載せた。
 巻の終わりに10のQ & Aを設け、成年後見制度、虐待、身体拘束、自動車の運転あるいは若年性認知症などの課題を取りあげた。また、編集者として7つのコラムを執筆し、随想や補足説明を追加した。
 本書はこれからも進展してゆく認知症ケアの1つのマイルストーンであり、これを踏み台にして認知症事例についてのケア体験が蓄積されて、さらに新しい流れが創造されてゆくことを期待したい。
 認知症ケアに関心をもつ方々にぜひ手にとってお読み頂きたい。殊に現場の職にある方、学生諸氏の御参考になることを念願している。

 2008年3月吉日
長谷川 和夫

■ 主要目次

1 総 論

1.認知症ケアの理念をめぐって
  1.理にかなったケア
  2.パーソンセンタードケア
  3.認知症高齢者への包括的アプローチ
2.認知症とは何か
  1.認知症の記憶低下の特徴:健常高齢者のもの忘れとの違いについて
3.認知症か否かのポイント
  1.記憶の障害
  2.認知機能の障害
  3.生活の障害
4.認知症と類似の状態
  1.うつ病
  2.せん妄

2 認知症の医療

1.認知症の症状
2.認知症の診断
3.認知症の原因と分類
4.認知症の重症度判定
5.認知症の原因疾患
  1.アルツハイマー病
  2.脳血管性認知症
  3.レビー小体病
  4.前頭側頭型認知症(ピック病)
  5.その他
6.治療
  1.薬物療法
  2.非薬物療法
7.危険因子
8.予防
Column1. 認知症スケールの開発をめぐって

3 認知症の家族の支援告知の実際

1.家族介護者の心理と実状
  1.わが国の在宅介護の歴史的背景
  2.家族の介護負担
  3.家族介護者の介護意識と態度
  4.介護サービス利用に関する家族の意識
2.家族介護者支援のポイント
  1.家族と専門家の介護の違い
  2.家族介護者の支援
  3.家族支援の実際
3.病名告知の実状と問題点
  1.病名告知の意義
  2.病名告知の在り方
  3.告知実施に際して
  4.告知不可能な状態
  5.モニタリング
Column2. 認知症の人と家族の会

4 認知症ケアの実際

1.認知症ケアの実践で大切にしていること
  1.理念は“その人らしく輝いて暮らす”こと
  2.理念を共有する
2.認知症のある人とのコミュニケーション
  1.安心できる関係づくり
  2.心の奥に気づく
  3.心地よさが体験できるコミュニケーション
3.行動障害に対するケア
  1.理由や原因を読み取る
  2.対応を統一する〜チームケア〜
  3.暮らしを組み立てる
4.課題として、実践教育の必要性
Column 3. 認知症ケアの心 

5 ケアの基本アセスメント

1.センター方式とは
  1.本人本位の個別ケアを目指したアセスメントを
  2.アセスメントの視点を日々の中で共有しよう
  3.本人本位の共通ツールをチームで使おう:センター方式シートの共同活用
  4.アセスメントはケアのプロセスに沿ってみんなで
  5.観たまま、聴いたままの情報を活かす:事実に基づくアセスメントを
  6.場面の事実を大切に
  7.情報を持ち寄り「気づき」や「ケアのアイデア」を生み出そう
  8.事実をビジュアルに記録し、アセスメントの精度を高めよう
2.アセスメントを行っていくうえでの課題を乗り越えて
  1.忙しさの中だからこそ、アセスメントを強めよう
  2.いきなりではなく,一歩ずつ
  3.迷っていないで、とにかくやってみる:今ある情報を丁寧に活かそう
  4.なんのための記入か、各シートの「ねらい」を大切に
  5.事実情報をもとに、気づきを引き出そう
  6.ケアのポイントを押さえて、的を射たアセスメントを
  7.発見や気づき、アイデアを共に喜びながら
Column4. 認知症介護研究・研修センターについて

6 認知症介護におけるICFの視点

1.介護現場における認知症ケアの
   現状と課題
  1.「認知症の人のできることを大切にする」に関する捉え方
  2.「認知症ケアとは行動障害がなくなり、本人が落ち着いて過ごせるように支援することである」に関する捉え方
  3.「その人らしさを大切にする」に関する捉え方
  4.「その人が過去一番輝いていた頃に戻ることのできるように支える」に関する捉え方
  5.「馴染みの関係や馴染みの環境を大切にする」に関する捉え方
  6.「暮らしの継続を支える」に関する捉え方
  7.「認知症の人の意思を尊重し、尊厳を守る」に関する捉え方
2.国際生活機能分類(ICF)の視点
  1.生活機能と障害
  2.生活機能と障害に影響を与える要素:背景因子
  3.ICFの構成要素間の相互作用
  4.障害を克服するための医学モデルと社会モデル
  5.ICFの視点が認知症ケアに示唆するもの
  6.認知症の人のケアマネジメントを支えるICFの視点

7 認知症の心理

1.認知症の人の心理と行動の特徴
  1.認知症の人の心理的特徴
  2.認知症の人の行動の特徴
2.問題行動という捉え方の変遷
  1.問題行動という捉え方
  2.行動障害の視点
  3.行動・心理症状(BPSD)という考え方
3.行動・心理症状(BPSD)の基本的な考え方
  1.行動・心理症状の原因
  2.介護者との関係性から生じる行動・心理症状
4.認知症の人の生活体験を知る
  1.認知症の人の苦悩
  2.認知症の人の生活体験の理解
5.認知症の人を理解するということ
  1.現実世界と認知症の人の世界の隔たり
  2.認知症の人の行動の意味するもの
Column5. ある家族の出来事

8 認知症の心理療法

1.認知症の心理療法
2.回想法
3.音楽療法
4.コラージュ療法
5.バリデーション
6.その他の心理療法

9 介護者のストレス

1.ストレスの一般的な捉え方
  1.ストレスとは何か
  2.ストレスに対処する
2.介護家族のストレスとその対応
  1.介護負担とストレス
  2.介護負担軽減のための支援
3.介護専門職のストレス
  1.介護専門職のストレスを理解する
  2.介護専門職のストレスに対処する
Column6. 訪問介護について

10 訪問看護の立場から認知症ケアを考える

1.在宅の現状と課題
  1.在宅の現状
  2.認知症高齢者の状況
  3.介護者の状況(介護環境)
  4.社会資源の活用状況と専門職の介入時期
2.在宅介護の限界
3.心で感じ、心で看る
4.「死」と「死の受容」について
5.悔いのない看取りに向けて
6.事例紹介

11 認知症の予防

1.認知症の危険因子
  1.脳血管性認知症の危険因子
  2.アルツハイマー型認知症の危険因子
2.認知症予防の考え方と方法
  1.訓練すべき認知機能とその方法
  2.ポピュレーションアプローチの重要性
3.認知症予防施策とその現状
  1.認知症予防施策の制度
  2.認知症予防施策の現状と問題点

12 認知症の地域啓発活動(実際と課題)

1.地方での先行地域の事業の取り組みのチェック
2.名古屋市千種区モデル事業の活動試案の概要
  1.介護予防(予防と早期発見)
  2.連携システムの構築
3.実際の取り組み
  1.「名古屋市千種区認知症連携の会」の結成
4.今後の課題
  1.啓発活動について
  2.連携システムの構築について
Column7. 認知症でもだいじょうぶ町づくりキャンペーン

Recent & Information

認知症と共に暮らすまちづくり
  —「認知症でもだいじょうぶ町づくりキャンペーン」に想う— 
  1.町キャンはこうして始まった
  2.認知症が町づくり再生の鍵を握る
  3.超高齢社会の町の具備用件

Q & A

  1.包括支援センターとはどんな施設で、どんな仕事をしているのですか?
  2.認知症の方を悪徳商法や詐欺から守るためには、どこに相談に行けばよいのでしょうか。どんな点に注意したらよいのでしょうか?
  3.成年後見人、保佐人、補助人をどのようにして選ぶのでしょうか。その支払いは? 
  4.高齢者への虐待を疑った場合、その判断の決め手はなんでしょう。また、どこに報告すればよいのでしょうか? 
  5.認知症患者の中には暴れたりする方もおられます。人権の問題も含めてそうした患者の拘束などの行為は、どこまで許されるものなのでしょうか?
  6.認知症になると遺言は書けなくなるのでしょうか?
  7.認知症になっても生活環境によっては運転をしている場合がありますが、どのような対応が適切でしょうか?
  8.認知症は遺伝しますか?
  9.認知症ケア専門士とはどんな職種ですか。その資格をとるためには条件がありますか?
  10.若年性認知症について教えてください
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