プレホスピタルMOOK 5 救急現場学へのアプローチ

救急現場学へのアプローチ
著 者
監修: 石原  晋(公立邑智病院 院長)
    益子 邦洋(日本医科大学 教授)
編集: 山本五十年
    (東海大学医学部救命救急医学 准教授)
発行年
2008年1月
分 類
救命・救急医学
仕 様
A4判・328頁・103図・60表・写真165
定 価
(本体 5,700円+税)
ISBN
978-4-8159-1800-2
特 色
 近年,ドラスティックに進められてきた病院前救護体制のあり方および救急業務の高度化推進によるメディカルコントロール(MC)体制の構築によって,救急現場でのシステムの整備は飛躍的に向上してきた.
 しかしながらシステム整備にともない,発症・入電から病院到着までのあいだに実施される救急業務および支援業務の多くが,いまだ医学的な検討や科学的思考の方法論を欠いたままであり,経験的で操法的な手順に重点がおかれていることが,MCに係わる多くの医師と消防職員の間で認識されはじめている.
 本書は,救急現場あるいは救急搬送の視点に立った「臨地医学」を,診療技術学,現場学および医療システム学の基礎として確立するために,テーマを「救急現場学へのアプローチ」におき,わが国のMC指導医の第一人者と現場活動を熟知した消防機関の指導的幹部および救急救命士の方々に,現場の視点から真正面から取り組み執筆をいただいた.
 救急現場学体系確立の嚆矢としての本書をぜひ手元に置いていただきたい.

●序  文●

 21世紀初頭、病院前救急医療の変革がドラスティックに進められてきた。「病院前救護体制のあり方に関する検討会」報告書(厚生省、2001年)および救急業務高度化推進委員会報告書(総務省消防庁、2002年)により、病院前救急医療におけるメディカルコントロール(MC)体制の構築が国是となり、2004年以降、全国すべての都道府県・地域でMC協議会が発足し、事後検証、常時指示体制、再教育などの施策を前提として、救急救命士の処置範囲が次々と拡大されてきた。MCの質を担保するために「MCに係る医師研修」(厚生労働省/救急医療財団)が定期的に開催され、MC協議会およびMC事業の情報収集・調査と情報交換を目的として全国MC協議会連絡会が発足した。
 救急救命士には気管挿管やアドレナリン投与が認められ、消防隊員や救助隊員にはPA/RA連携による除細動を含む救急(支援)業務が課せられ、通信指令室職員には口頭指導や一部地域でトリアージの実施が求められるようになった。PAD(Public access defibrillation)のシステム整備と救命体制の強化を目指して、消防職員は実に年間120万人を超える住民にAEDを含む救命講習を行うようになった。MCに係わる医師もMC事業に多大な時間と労力を傾注するようになった。
 これらの結果、救急業務高度化の事業は進展し、病院前救急医療を構成する消防救急業務の質が飛躍的に向上してきた。しかしながら、システムの整備に伴い、発症または入電から病院到着までの間に実施される応急手当および救急業務・支援業務に関わる重要な領域の多くがいまだ手探りの状態にあることが、MCに係わる多くの医師と消防職員の間で認識され始めている。消防職員が行う救急業務および支援業務は、病院における救急診療と異なり、幅広い非医療従事者との連携、発生現場および救急車内という特異な環境と迅速性が求められる時間的な制約、救急隊員による隊活動と消防・救助隊員との協働、MC下での限定されたスキル、現場から救急車内への移送および救急搬送などの、病院前の特殊な状況下での特異な要素がさまざまに関連している。したがって、傷病者の予後を改善するには、単に救急救命士の処置範囲を拡大するにとどまらず、入電から病院到着までの一連の救急業務および支援業務を俎上に載せ、これらの諸問題に科学的な検討を加え、継続的に質の改善を図ることが不可欠となる。
 救急隊員が実施する病院前の診療内容については、臨床医学を拡張的に適用し、現場のさまざまな要素を捨象した診療技術学の確立が目指されてきた。その一方で、救急現場や救急搬送に関わる諸問題の多くは現場の判断に任されており、現場活動は医学的な検討や科学的思考の方法論を欠いたまま、経験的で繰法的な手順に重点がおかれてきたと言っても過言ではない。
 病院前救急医療の方法論として、臨床医学の拡張的適用だけでは限界があることは明白であり、救急現場あるいは救急搬送の視点に立った「臨地医学」(病院前救急医療学あるいは救急現場学)を、現場管理学、診療技術学、情報システム学および医療システム学などを基礎として確立することがどうしても必要となる。
 そこで、本シリーズでは、テーマを「救急現場学へのアプローチ」とし、わが国のMC指導医の第一人者と、現場活動を熟知している消防機関の指導的な幹部および救急救命士に執筆して頂き、現場の視点から救急現場学にアプローチして頂いた。執筆者各位の多大な御尽力により、本書は先進的な試みの報告や優れた論考で光り輝いている。救急現場学へのアプローチが、救急現場学体系確立への序論になることを期待したい。
   平成20年1月5日
 山本五十年

■ 主要目次

I.総  論

1.救急現場学概論
2.救急現場の特性
3.救急現場の診療学
4.救急現場学とメディカルコントロール
5.救急隊員のシミュレーション教育の現状—薬剤投与追加講習による救急救命教育体制の変化—
6.救急現場学と救急救命士教育
7.救急現場学とデータ分析の実際
8.救急現場学とウツタイン様式の導入

II.各  論

1.通信指令の役割と在り方
2.近未来のオンライン・メディカルコントロールに向けたさまざまな課題
3.救急出動・連携システム
  ●1・欧米の救急出場システム
  ●2・諸種の救急連携を活用した出動システム
  ●3・出場内容に即した隊編成
  ●4・救急バイクの出場
4.救急連携システム
  ●1・ドクターヘリの出動要請
  ●2・消防防災ヘリの出動要請
  ●3・ドクターカーの出動要請
5.救急現場へのアクセス
6.救急現場の感染防御
7.携行資器材
8.不搬送判断
9.救助・救出法
10.初動時の集団災害医療の判断と緊急対応
11.災害現場における消防隊・救急隊等との連携
12.救急災害現場における医師との連携
13.救急現場の状況評価、安全確認、安全確保
14.救急現場における安全装置の評価
15.救急現場における初期診療アプローチ
16.救急現場から車内への移送
17.病院連絡
18.病態別体位管理
19.病態に応じた救急搬送法

III.救急現場活動の質管理

1.救急現場活動のTQM
2.救急現場におけるコミュニケーションの特徴
3.救命救急での精神障害者へのアプローチ
4.ボディメカニクス
5.救急活動記録と事後検証の電子化
6.救急現場で役立つ病院実習(再教育)の在り方
7.標準化教育と救急現場活動
8.救急現場学に根ざした症例検討
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