統合失調症をライトに生きる−精神科医からのメッセージ−


編 集
著:渡部 和成
(医学博士・医療法人資生会八事病院 副院長)
発行年
2007年12月
分 類
精神医学
仕 様
A5判・184頁・図26・表15
定 価
定価 1,575円(本体 1,500円+税5%)
ISBN
978-4-8159-1796-8
特 色
 統合失調症に打ち克ちライトに(軽やかに/前向きに)生きるために――
 本書は,統合失調症に悩む患者と家族,そしてそれをサポートする精神科医のために書かれました.
 統合失調症は,思考や行動,感情をある目的に沿ってまとめて行く能力が長期間にわたって低下する回復可能な症状群で,100人に1人が罹患するまれではない慢性疾患です.  治療の重要要素は,最近,臨床使用されるようになったユニークな抗精神病薬による薬物療法と,医師の指導のもとに行われる患者心理教育,家族心理教育ですが,それらを奏効させる前提は『病名告知』であると著者は説きます.
 患者と家族が主体的,積極的に治療に参加していくためには疾患を正しく理解することが重要です.入院後はなるべく早期から患者と家族が<患者・家族心理社会教育>に参加することで,退院後の予後を良くし,再入院率が抑えられることを実際例をあげて平易に説明しています.

■ 序文
 読者の皆さんの中には,とりわけ統合失調症の患者さんの中には,この本の表題を見てびっくりされた方が多くいらっしゃるのではないでしょうか。一般的に非常に難治と受け止められている統合失調症を患いながら「ライトに」生きるって一体どういうことなんだろうかと,思われている方が多いのではないでしょうか。このような表題を掲げましたのは,私が,統合失調症の患者さんは,「ライトに」生きられるようになってこそ,患者さん自身の未来を切り拓くことができると強く思っているからです。
 これまでに私は,学会発表,学術論文,講演,前著書(「新しい統合失調症治療——患者と家族が主体のこころの医療」,アルタ出版,2006)などにより,統合失調症の治療では,患者さんとご家族が統合失調症という疾患を正しく理解し主体的,積極的に治療に参加していくことが重要であり,それが治療の基本であることを示してきました。特に入院治療では,入院後なるべく早期から患者さんとご家族が患者心理教育と家族心理教育に参加することが患者さんの退院後の予後を良くすることを強調してきました。  このような患者・家族心理教育を重視した統合失調症治療を続けてきた私は,最近,患者・家族心理教育に参加したことがある患者さんとご家族には一様に笑顔が見られ,治療者である私と患者さん,ご家族との距離はこのような治療を始める前と比べて非常に小さく,患者さんとご家族の温かなこころが伝わって来やすくなっていることに気が付きました。
 私には患者さんが明らかに以前とは違っていると感じられ,「統合失調症をライトに生きているなあ」と感じられるようになりました。「ライトに」とは,“軽やかに”,“前向きに”ということです。私の患者さんの多くの方々が,明らかに「ライトに」生きていると思えるのです。  さて,統合失調症は100人に1人が罹患する稀ではない慢性疾患です。また,今調子を崩しているだけで治療を受けなくてもその内なんとかなるなどと安易に考えてはいけない病気です。したがって,生涯を通しての病気への対応が大事であるとは言えますが,悲惨な病気であるということでは決してないのです。統合失調症は,人間が“生きる”ことに直結する脳の病気で,人の判断力に大きく影響してしまう病気ですから厄介です。しかし,患者さんとご家族が統合失調症に圧倒され,打ちひしがれて“怒ったり泣いたり”することなく,へこたれずに軽やかに,前向きに統合失調症とうまく付き合って(統合失調症の病状について“笑顔”で話ができ)「ライトに」生きていけるようになることが,統合失調症治療の目標であると,私は思っています。
 読者の皆さん,特に患者さん,ご家族,医療者の方々には,本書をお読みいただき,この「ライトに」生きるための基本をお分かりいただければ幸いです。お読みになっていて,本書の内容で難しいところがあるかもしれませんが,その時にはどうぞ,その部分を飛ばしてお読みになって下さい。読者が飛ばしてお読みになっても,私がお伝えしたい大事な心は,読者に分かって頂けるであろうと信じております。
 2007年12月 渡部和成

■ 主要目次

第1章 病名告知について—統合失調症は精神分裂病か?
  1.病名告知をする理由
  2.統合失調症は精神分裂病か?
  3.病名告知と患者・家族の反応と心理教育
   3.1.著しい幻覚妄想状態になり家族が困り医療保護入院した
      40歳代の女性統合失調症患者
   3.2.家族への病名告知に関して印象的であった20歳代の
      初発男性統合失調症患者の母親(第1例)
   3.3.家族の病名告知に関して印象的であった20歳代の
      初発男性統合失調症患者の母親(第2例)
  4.病名告知と治療法

第2章 怒りと涙を笑いに変える治療とは
  1.偏見がある患者と家族の反応で見られる怒りと涙
  2.『統合』『失調』症の理解と笑い
   2.1.“怒り”から“笑い”へ変わった患者
   2.2.“涙”から“笑い”へ変わった母親
  3.“怒り”を“笑い”に変える薬物療法
  4.“怒り”と“涙”を“笑い”に変える統合失調症治療
   4.1.入院中に患者本人が患者心理教育に,母親が家族心理
      教育に参加し,退院後も継続して患者・母親がともに
      心理教育に軽やかに(ライトに)参加し続けている
      歳代男性統合失調症患者
   4.2.家族の理解と短期入院とで病状のコントロール
      ができている,発症後6年が経過した20歳代の
      女性統合失調症患者

第3章 オランザピン口腔内崩壊錠をうまく使う
  1.オランザピン(olanzapine)の特徴
  2.興奮した拒薬する患者に対してオランザピン
   口腔内崩壊錠は有用である
   2.1.「Olanzapine口腔内崩壊錠が奏効した慢性統合失調の
      治療拒否例」と題する論文から
   2.2.「Olanzapine口腔内崩壊錠が奏効した慢性統合失調に
      末期大腸がんを合併した拒食・拒薬する一症例」と
      題する論文から
  3.入院時の統合失調症患者急性期における非侵襲的対応での
   オランザピン口腔内崩壊錠の使い方
   3.1.通院中のクリニックで担当医師と他患に暴力を振るった
      ため救急車で来院し入院となった40歳代女性症例
   3.2.母親に連れられ受診したものの独語し続けた60歳代の女性
      症例
   3.3.会社の上司に連れられ来院し服薬が危ぶまれたため,
      入院が望ましいと判断したが入院することなく経過
      した40歳代の男性症例
  4.入院時の急性期統合失調症でのオランザピン口腔内崩壊錠
   (OlzODT)とリスペリドン内服液(RisOS)の治療効果の比較
   4.1.対象患者とその属性について
   4.2.OlzODTとRisOSの選択と投与法について
   4.3.補助治療薬の投与法について
   4.4.クライエント・パスと症状評価について
   4.5.統計処理について
   4.6.結果について
   4.7.考察について

第4章 私の患者・家族心理教育とクライエント・パス
  1.患者心理教育について
   1.1.幻聴君と妄想さんを語る会
   1.2.フォーラムS
   1.3.幻聴教室
   1.4.新しい集団精神療法
   1.5.栄養健康教室
   1.6.患者が効果を認める患者心理教育プログラム
  2.家族心理教育について
   2.1.家族教室
   2.2.みすみ会
   2.3.家族の集い
  3.クライエント・パス
   3.1.クライエント・パスについて
   3.2.クライエント・パスの効用

第5章 3年非再入院率から見た患者・家族心理教育の
     長期効果について

  1.その結果について
  2.本研究の結果が示すもの
   2.1.属性の差が本研究の結果に及ぼした影響について
   2.2.患者・家族のニーズに合った治療
  3.結   論

第6章 2年非再入院率から見た効果的な家族心理教育とは
  1.その結果について
   1.1.家族教室参加群と家族教室不参加群の患者の属性について
   1.2.家族心理教育参加態度と2年非再入院率の関係について
  2.研究の結果が示すもの
  3.注意すべき点
  4.結   論

第7章 統合失調症は人間的な病気だからこそライトに生きることができる

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