エビデンスに基づく 院内感染対策のための現在の常識


編 集
著:矢野 邦夫
(県西部浜松医療センター感染症科長・衛生管理室長)
発行年
2007年9月
分 類
臨床医学一般 ・ 感染症・AIDS
仕 様
A5判・134頁・図2・表9
定 価
定価 1,890円(本体 1,800円+税5%)
ISBN
978-4-8159-1794-4
特 色
 本書は, いわば「病院」を患者とする病院感染対策チーム(ICT)の方々のために,米国疾病管理予防センター(CDC)ガイドラインによる科学的な「病院診断学」と「病院治療学」のポイントを一読して理解できるよう紹介する最新の実践・情報書である.
 最近10年間で、日本の院内感染対策は「数年前の常識は現在の非常識」というぐらい大きく変化した.その感染対策のほとんどが,米国疾病管理予防センター(CDC)のガイドラインからの情報に基づいている.
 莫大な数のエビデンスに基づいて作成されたCDCガイドラインはわが国の感染対策には大変有用であるが,毎日の感染対策に忙殺されているわが国のICTにとって,そのすべてを読んで理解することは不可能である.本書は,多忙なICTのために,現在までに公開されたCDCのガイドラインから特に重要なポイントを抜粋,CDCの感染症対策のエッセンスを紹介する.

●はじめに●
 病院には、造血細胞移植患者のような抵抗力の著明に低下した患者や基礎疾患をもたない市中肺炎の患者といったさまざまな患者が入院している。このような患者の診療には科学的な「患者診断学」と「患者治療学」が必要である。実は、病院感染対策チーム(Infection Control Team;ICT)は「病院」という患者を担当している。「病院」は非常に脆弱な患者であり、すぐに病気になってしまう。インフルエンザ患者が入院すれば隣のベッドの患者に感染してしまうかも知れない。ノロウイルス感染者が下痢・嘔吐で入院すれば、周辺の患者や医療従事者に伝播する可能性がある。多剤耐性菌に汚染された病棟では何人も感染者が発生し、多数の犠牲者が出てしまう危険性がある。このような事態を避けるためにICTは病院を検査し、異常を検出したらすぐに治療を加えるのである。すなわち、院内感染対策にも科学的な「病院診断学」と「病院治療学」が必要といえる。
 診断のためにはサーベイランスが不可欠であり、毎日、病院をスキャンする。そして、わずかな異常をみつけたら介入するのである。また、病院が健康なときには、健康を維持するために、適切な感染予防(マキシマル・バリアプリコーションや標準予防策など)を実施する。患者の診断や治療を古くからの言い伝えによる医学によって実践することが許されないように、院内感染対策も古くからの習慣によって行ってはならない。
 最近10年間に、日本の院内感染対策は大きく変化した。安全器材や閉鎖式輸液回路の導入、N95マスクの使用、ICUや無菌室のガウンテクニックの撤廃、手術室のスリッパの廃止など数多くの感染対策が次々と実施されてきた。「数年前の常識は現在の非常識」といった驚くべき変化ぶりである。そして、これらの感染対策のほとんどが、米国疾病管理予防センター(CDC)のガイドラインから得られた情報に基づいているといえよう。
 CDCガイドラインは莫大な数のエビデンスに基づいて作成された科学的なガイドラインであり、経験や習慣に基づいて行われてきた日本の感染対策には大変有用である。しかし、あまりにも多くの情報が記載されているため、毎日の感染対策に忙殺されているICTがCDCガイドラインすべてを読んで理解することは不可能である。本書は多忙なICTのために、現在までに公開されたCDCのガイドラインから特に重要なポイントを抜粋して紹介した。本書がICTの座右の書になれば幸いである。

 平成19年9月吉日
 矢野邦夫

■ 主要目次

01.手指衛生
  1 「手洗い石鹸の管理を見直す」
  2 「手袋を外した後には手洗いを行う」
  3 「指輪や付け爪は使用しない」
  4 「手指衛生にはアルコール手指消毒薬を用いる」
  5 「術前手洗いではブラシは不要である」

02.環境
  1 「掃除をする場合には手指の高頻度接触表面に重点をおく」
  2  「病室環境の日常的な細菌検査は実施しない」
  3 「病室環境の滅菌・消毒は実施しない」
  4 「アルコールを環境表面の消毒に使用するならば、小面積に限定する」
  5 「粘着マットは不要である」
  6 「手術室のスリッパは不要である」
  7 「患者が使用したリネンは通常の洗濯で十分である」
  8 「CJD患者の病室環境の処置は日常的な洗浄・消毒で十分である」
  9 「病院は身体障害者補助犬を拒んではならない」
 10 「患者に提供する氷を管理する」

03.血管内カテーテル
  1 「中心静脈カテーテルはマキシマル・バリアプリコーションにて挿入する」
  2 「中心静脈カテーテルの定期交換の必要はない」
  3 「末梢静脈カテーテルは成人では72〜96時間の間隔で交換するが、小児では留置し続けてもかまわない」
  4 「成人では末梢静脈カテーテルの挿入部として下肢よりも上肢を選択する」
  5 「輸液セットは72時間以内に交換するのではなく、72時間ごとよりも頻回にならないように交換する」
  6 「インラインフィルタは不要である」

04.尿道カテーテル
  1 「尿道カテーテルは閉鎖式システムが望ましく、定期交換の必要はない」
  2 「患者が失禁するという理由で尿道カテーテルを留置してはならない」
  3 「尿道カテーテル挿入患者に膀胱洗浄を日常的に行わない」
  4 「尿道カテーテルには閉鎖式システムを用いる」

05.結核
  1 「結核が疑われる患者が喀痰を出せなければ、エアロゾル吸入による喀痰誘導を行う。それでも喀痰が得られなければ胃液吸引する」
  2 「医療従事者が結核に曝露したら、2年間はフォローする」
  3 「排菌している結核患者には結核治療を迅速に行う」
  4 「N95マスクは装着すればよいというものではない」
  5 「化学予防の期間を間違えてはならない」
  6 「肺外結核では空気予防策の必要はない」
  7 「小児結核では空気予防策が不要なことがある」
  8 「HIV感染者では胸部X線が正常であっても結核を除外できない」
  9 「HIV感染者が結核を発症した場合の空気予防策は非HIV感染者と同じである」
 10 「院内感染対策としてBCGは接種しない」
 11 「結核の曝露があった場合には接触者調査は行うが、曝露源調査は行わない」

06.インフルエンザ
  1 「高齢者や免疫不全患者にはインフルエンザワクチンを接種する」
  2 「インフルエンザワクチンを成人に接種する場合は1回接種で十分である」
  3 「インフルエンザワクチンは妊婦にも接種する」

07.MRSA
  1 「MRSAが培養されたということで患者を隔離しない」
  2 「MRSA対策として医療従事者の鼻腔を日常的に培養してはならない」
  3 「鼻腔の日常的なMRSA除菌はしてはならない」

08.院内感染肺炎
  1 「人工呼吸器回路は肉眼的に汚れない限り、交換する必要はない」
  2 「人工呼吸は、可能であれば非侵襲的人工呼吸が望ましい」
  3 「挿管チューブのカフの上に貯留した分泌液は定期的に除去する」
  4 「入院患者が肺炎を合併した場合にはレジオネラ症も疑う。そして、レジオネラ症が発生した場合にはほかにも患者がいるかどうかを調査する」
  5 「人工呼吸器回路の結露は手袋をして取り扱う」
  6 「挿管するならば経鼻気管挿管よりも経口気管挿管を選択する」

09.血液・体液曝露
  1 「針刺しした場合、創部から液の絞り出しはしない」
  2 「すべての医療従事者にはHBVワクチンは必須である」
  3 「HBVワクチンは三角筋に筋肉注射する」
  4 「HBVワクチン接種1コース(3回接種)にてHBs抗体が獲得できない人には2コース目までは実施する」
  5 「HBs抗体が年月の経過とともに減少して検査感度以下まで低下してもHBVワクチンの追加接種の必要はない」
  6 「HCVに曝露しても経過観察のみ行う」
  7 「HIVに曝露しても感染の危険性が少なければ予防内服しない」
  8 「HIVの予防内服をすると決めたら迅速に開始する」
  9 「HIV曝露での予防内服では基本プログラムを用いるが、リスクが高ければ拡大プログラムを用いる」
 10 「HIV曝露でのHIV抗体検査は曝露後6ヵ月は施行する。HIVとHCVに同時感染している患者に曝露してHCVに感染したら12ヵ月間フォローする」

10.手術部位感染
  1 「手術室では人の動きを少なくする」
  2 「手術部位の体毛が手術の支障とならない限り、術前の除毛は行わない」
  3 「手術部位感染の予防的抗菌薬は手術直前に1回目を投与する」
  4 「手術前にはムピロシンによる除菌を日常的には行わない」
  5 「手術創のドレーンには閉鎖式吸引ドレーンを用い、挿入したら早期に抜去する」

11.透析室
  1 「透析室では手袋を頻回に使用する」
  2 「透析ベッドに持ち込んだ器具や物品を他の透析ベッドに移動させない。これらは使い捨てにするか、1人の患者のみに使用する」
  3 「透析室ではHBs抗体陽性患者のベッドをHBV感染患者とHBs抗体陰性患者の間の緩衝として配置する」
  4 「透析患者では、HBs抗体が10mIU/ml未満に低下したらHBVワクチンのブースター接種を行う」
  5 「透析室ではHCV感染患者を特別に区画した区域で透析する必要はない」

12.移植病室(無菌室)
  1 「造血器疾患病棟には植木や生け花を置かない」
  2 「病院内外で改築や新築工事が行われていれば、免疫不全の患者へのアスペルギルス対策を強化する」
  3 「日常的にアスペルギルスの環境培養や監視培養をすることは推奨されない」
  4 「移植病棟ではカーペットを使用しない」

13.その他の感染対策
  1 「防護具を用いた場合は脱ぎ方が大切である」
  2 「器具の滅菌・消毒・洗浄は誰に用いたかは考えない。これからどのように使用するかで決まる」
  3 「角化型疥癬では十分な感染対策が必要である」
  4 「抗菌薬の使用制限のみでは院内感染対策は失敗する」
  5 「水痘ワクチンを接種しても水痘に罹患することがある」
  6 「病院における麻疹対策は徹底しなければならない」
  7 「ミエログラムや脊椎麻酔を実施する場合には外科用マスクを装着する」

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