子どもの 摂食・嚥下障害 その理解と援助の実際
- 編 集
- 編著:
- 北住 映二
- (心身障害児総合医療療育センターむらさき愛育園園長)
尾本 和彦
- (心身障害児総合医療療育センター歯科医長)
藤島 一郎
- (聖隷三方原病院リハビリテーションセンター長)
- 発行年
- 2007年9月
- 分 類
- 脳神経外科学・神経内科学 リハビリテーション医学
- 仕 様
- B5判・388頁・図139・写真213・表67
- 定 価
- 定価 7,980円(本体 7,600円+税5%)
- ISBN
- 978-4-8159-1793-7
- 特 色
- 近の高齢化社会では,救命技術が飛躍的に進歩する一方で,「口から食べられない」すなわち摂食・嚥下障害が問題となり,多くの参考書・実践書が出版されている.しかし,子どもの摂食・嚥下障害の場合,成人に比べて成書が少なく指針となる参考書が求められてきた.本書は,好評の藤島一郎編著「よくわかる嚥下障害」(改訂第2版,2005年,永井書店)の小児科編として,この分野で臨床経験豊富な方々によってまとめられた待望の参考書である.
本書では,摂食・嚥下障害をもつ子どもの多様な状態を解説し,リハビリテーションを含む援助法での多くの困難な点に対応するため,とくに合併症について詳述し,また第II章「指導・援助・治療の実際例」に多くの頁をさいて,詳しい事例報告(小児期からの障害の成人例も含め)を収載している.
摂食・嚥下障害について子ども特有の問題の基本的な理解のため,さらに援助の実際について具体的な手がかりを得るために,ぜひご購読をお勧めする.
序 文
医療の進歩とともに救命技術が飛躍的に進歩する一方で、「口から食べられない」すなわち摂食・嚥下障害が問題となってきました。これは子どもについても同様ですが、成人や高齢者に比べ参考書や論文が多いとはいえません。本書はこの問題を少しでも改善するために、藤島一郎編著「よくわかる嚥下障害 改訂第2版」(2005年発行、永井書店)の姉妹編として企画されました。成人と比較すると共通点もありますが、子どもの特有の問題があります。その道で臨床経験の豊富な方々に執筆して頂き、大変内容の濃い本にすることができました。
障害のある子どもたちにとって、食べること、飲むことに関係した課題は、次のように整理されます。
1.必要な量と種類の、栄養や水分が摂取できるようにする。
2.安全に摂取できるようにする(誤嚥や、食事中の窒息・呼吸困難を防ぐ)。
3.生きる楽しみの1つとしての食事という意味を、尊重し豊かにする。
4.コミュニケーションの場としての食事場面の意味を、大事にする。
5.食べることへの意欲を大事にし、育てる。
6.自分で食べることができる力を伸ばす。
7.介助されて食べる子どもでは、いろいろな人からの介助で、確実に安全に摂取できるようにする。
1.と2.が生きていくための基本となりますが、3.4.の課題も、生活や人生を心豊かなものにしていくために大切なものであり、㈭㈮㈯はそのためにも必要な課題となってきます。
このような課題に取り組むためには、かかわる人々がそれぞれの立場で援助を行うことが必要ですが、摂食・嚥下障害をもつ子どもの状態は多様であり、また摂食・嚥下障害への、リハビリテーションを含む援助の方法も一様ではなく、困難な点が多々あります。
・発達過程での障害であるが、発達の「遅れ・未熟さ」や「弱さ」だけでなく、発達や機能の「質的な異常」(脳性麻痺児の場合など)や構造の異常が混在している場合が多く、多様で柔軟な対応が必要とされる。
・基礎疾患による問題点の幅が大きく、また、同じ基礎疾患であっても、病型、程度、年齢による変化などによって援助の方法が異なってくる。
・心理的要因が大きく関係している。
・摂食・嚥下障害が単独にあるのではなく、呼吸の障害・消化管障害(胃食道逆流症など)などの合併症と密接な相互関係にある。
などのポイントを考慮しながら、それぞれの子どもに合わせた援助を考え実践していくことが必要とされます。
本書では以上のような点を踏まえ、合併症についても詳しく述べるとともに、第II章の、「指導・援助・治療の実際例」に多くの頁を取り、詳しい事例報告(小児期からの障害の成人例も含め)を載せることを重視しました。
本書を通して、子どもの摂食・嚥下障害についての基本的なことを理解して頂くとともに、援助の実際について具体的な手がかりを得て頂ければ幸いです。
■ 主要目次
I.概 説
1. 嚥下障害におけるリハビリテーション―主に運動学習、記憶についての小児と成人の相違―
1.リハビリテーションにおける障害の捉え方とアプローチ
2.リハビリテーションにおける訓練と運動学習
3.運動学習とskill
4.運動学習のポイント
5.意識化と自動化について
6.readinessと学習
7.記憶(手続き記憶)と運動学習
2.摂食・嚥下のメカニズム(構造・機能)と成長に伴う構造の変化
1.摂食・嚥下にかかわる構造の成長
2.摂食・嚥下の神経機構
3.摂食・嚥下機能の発達と障害
1.健常児の摂食・嚥下機能発達
2.障害児の摂食・嚥下機能発達の特徴
4.口腔機能の臨床評価
1.全身状態の評価
2.心理・行動評価
3.食物形態・摂取量の評価
4.口腔形態・反射などの評価
5.感覚機能評価
6.摂食機能評価
5.摂食・嚥下機能の評価診断検査法
1●超音波検査
2●嚥下造影検査
6.誤嚥や関連する問題の病態と対応の基本
1.誤嚥とその影響
2.咽頭への滞留、喉頭侵入
3.誤嚥のタイプ
4.誤嚥があるときの症状
5.誤嚥が、その子どもの許容限度を超えているかどうかの判断
6.誤嚥の有無や程度に影響する条件と、それに合わせた対応
7.成長、加齢による誤嚥の発生や悪化
8.経管栄養の子どもで、これから経口摂取を開始する場合の対応
9.経口摂取している子どもでの、誤嚥を考慮した再検討と対応
10.誤嚥による肺疾患の防止のための管理
11.薬の影響による嚥下障害の悪化
12.食事中の窒息、呼吸困難への対応
7.嚥下や呼吸と関連する障害や問題
1●呼吸障害
2●胃食道逆流症
3●気管切開、誤嚥防止手術
8.摂食指導・訓練の基本
1●摂食機能の正常発達に基礎を置く立場から
2●脳性麻痺児への神経発達学的ア プローチの立場から
9.摂食と姿勢
1.誤嚥との関係を中心にした摂食時の姿勢の基本
2.機能面への配慮と援助のポイント
10.摂食動作への援助
1.摂食動作の正常発達
2.摂食動作への援助
3.障害別の指導法
4.食具の工夫
11.経営栄養法、間欠的経管栄養法
1.経営栄養法
2.間欠的経営栄養法
12.障害児の栄養・水分・電解質
1.障害児の栄養評価と栄養所要量
2.水分と電解質
13.障害児の口腔ケア
1.口腔機能と口腔ケア
2.口腔ケアの役割
3.口腔ケアの方法
14.誤嚥による肺の状態の悪化予防と改善に役立つポジショニング・運動療法・呼吸理学療法
1.ポジショニングと運動療法
2.呼吸理学療法と排痰
II.指導・援助・治療の実際例
1.脳性麻痺、頭部外傷後遺症など中枢神経障害
1●脳性麻痺の事例
2●頭部外傷後遺症の事例
3●アセトーゼタイプ重度脳性麻痺(乳幼児期)の事例
4●経営栄養から経口摂取への移行した脳性麻痺の事例
5●重症心身障害児・者の事例
6●乳幼児期に継続して指導できた事例(作業療法士より)
7●呼吸機能障害児・者の事例(理学療法士より)
8●腹臥位姿勢での摂食指導の事例
2.心理的拒否と知覚過敏
1.心理的拒否
2.知覚過敏
3.幼児経管栄養依存症
4.障害児・者歯科での摂食指導の事例
1.頬を咬み込む(咬傷)事例の対策
2.舌下面の潰瘍(あるいは下口唇の咬み込み)の事例
3.Castillo-morales口蓋床
4.小顎症、開口障害で紹介され受診、経過観察中に食道裂孔ヘルニア・胃食道逆流症、睡眠時無呼吸症候群が発見された事例
5.耳鼻科との連携:喉頭気管分離術後の嚥下造影検査例
6.経口による離乳食開始が可能かどうかの嚥下検査がきっかけとなり経管栄養から離脱できた事例
5.ダウン症
1.ダウン症児の発達の特徴
2.離乳開始時期および離乳初期の段階
3.離乳中期の段階
4.離乳後期の段階
5.離乳完了の段階
6.水分摂取の仕方
7.献立作成の食材選定の工夫
8.保育所・幼稚園での工夫
9.まとめ
6.福山型先天性筋ジストロフィー
1.福山型先天性筋ジストロフィーとは
2.福山型先天性筋ジストロフィーの摂食・嚥下機能障害と対応
3.4症例のVF所見
4.摂食・嚥下機能障害指導のポイント
7.筋ジストロフィー
1.筋ジストロフィーの特徴
2.DMDの摂食・嚥下障害の実際とその対処
3.DMDの摂食・嚥下障害で特に注意すること
8.その他の状態や疾患、治療
1●丸飲み込みの事例
2●4p-症候群
3●脊髄性筋萎縮症の嚥下障害へのボツリヌス毒素治療
4●先天性食道閉鎖症
5●自閉症圏障害児への摂食指導