医師として避けて通れない 高齢者の痛みコントロール
−プライマリ・ケアでの緩和のコツから 専門医への転送の見極め方−
- 編 集
- 松本 勲(埼玉医科大学名誉教授)
菊地 博達(埼玉医科大学麻酔科教授)
白石 正治(白石整形外科内科クリニック院長)
- 発行年
- 2007年8月
- 分 類
- プライマリケア学 内科学一般
- 仕 様
- B5判・204頁
- 定 価
- 定価 5,985円(本体 5,700円+税5%)
- ISBN
- 978-4-8159-1790-6
- 特 色
- 痛みや凝りの治療を,これからの高齢化社会におけるプライマリ・ケアの基本医療として位置づけ,安全非侵襲で,副作用や痛みが少なく,自然治癒力を増し,医師なら誰にでも実行可能な治療法を詳しく紹介する痛みコントロールのテキストブック.
これからの高齢化社会に対応するために,痛みに伴う疾患,脳血管障害後のリハビリ,終末期医療における疼痛対策など,痛みに関連したプライマリ・ケアも取り上げた.
これから痛みの治療を勉強しよう,始めようとする先生の入門書として,すでに痛みの治療を行っている先生には治療の確認と診療の幅を広げるための座右の書としてぜひご購読いただきたい.
序 文
●はじめに
医療,保険,福祉,年金,など国民生活の基礎的事項を調査し行政の企画運営基礎資料を得る目的で3年ごとに国民生活基礎調査が行われています。平成16年の調査をみて驚かされたことは,自覚症状のある者(有訴者)率総数で男性の1位が腰痛,2位が肩凝り,女性の1位が肩凝り,2位が腰痛,3位が手足の関節が痛む,で痛みと凝りが上位を独占していることです。高齢者有訴率も男女とも1位が腰痛,2位が手足の関節が痛む,と同様の傾向でした。有訴率に反して通院者率では総数,高齢者とも痛みと無関係の高血圧が1位で,痛みと凝りは総数で男女とも腰痛が2位,高齢者通院率で,男性が3位,女性が2位の腰痛のみです。そこで最も訴えの多い腰痛を例にとり,もう少し詳細にみてみましょう。
総腰痛有訴者は約1,200万人(総人口の約10%),高齢者腰痛有訴者は約472万人(高齢者の約20%)です。しかし総腰痛通院者は約561万人(総人口の約4.5%)で,高齢腰痛通院者は296万人(高齢者の約12%)です。この結果をどう解釈したらよいのでしょうか? 患者の医療に対する不満と自己防衛だと考えると理解できます。痛みを治療する医師が圧倒的に少なく,多くの痛みをもつ患者は代替医療を利用してなんとか痛みを和らげ,QOLを得ているのです。医籍登録者は27万人です。仮にこのすべての医師が均等に通院腰痛者だけを診たとしても1人の医師は20人の患者を診なければなりません。有痛,無痛すべてを含めると総通院者は4,105万人ですから,1人の医師はなんと150人がノルマとなります。この医師不足の自衛手段として患者自身は鍼灸,按摩,マッサージ,指圧などの代替医療を選択し利用しているのです。それは,腰痛患者の35.2%です。
痛みを和らげること……本当は,これが医療の原点で医師の使命であり,役割でもあります。
このような現状をみるとき,高齢者を含め痛みや凝りの治療はもはや特定の医師が特定の診療科で特殊な方法を用いて行うものでなく,プライマリ・ケアですべての医師が習得し実行しなければならない基本医療として位置づけられねばなりません。
この度上記のような考えをもち,臨床各方面の第一線で活躍しておられます先生方の賛同を得て,実際診療で実行し安全非侵襲で,副作用や痛みが少なく,自然治癒力を増し,医師なら誰にでも可能な治療法の紹介をお願いしました。その治療法を模倣し,すべての医師が少しでも痛み治療に参加できるようにとの考えからです。さらには高齢化社会を迎え増加している痛みを伴う疾患,脳血管障害後のリハビリ,終末期医療における疼痛対策など,痛みに関連したプライマリ・ケアについても取りあげました。
これからプライマリ・ケアとして痛みの治療を始めようという先生はもちろん,実際に今痛みの治療に携わっておられる先生にもリラックスしてお読み頂けると思います。痛みを取り除くことも痛み治療なら,痛みを少しでも和らげることもまた痛み治療です。
本書が1人でも多くの痛みや凝りで苦しむ人たちを救う手助けになればと心より願っております。
平成19年5月28日
松本 勲
■ 主要目次
【序 章】
I.高齢者に対する痛み治療の現況
II.専門外医師の痛み治療の限界
III.高齢者における痛み治療の考え方
1.痛みの不思議
2.鎮痛薬と投与方法
3.高齢者の三大疼痛疾患
4.高齢者の頸肩腕部の痛み
5.高齢者と帯状疱疹―水痘,帯状疱疹そして帯状疱疹後神経痛の根絶を目指して
6.高齢者と血行障害
7.60歳から始まる頭痛
8.高齢者の顔面,口腔の痛みと麻痺
9.痛みをもつ高齢者の心と身体(患者さんへの理解を深めるために)
10.特殊な痛み
11.高齢がん性疼痛患者への基本的対応
12.高齢者の痛みとリハビリテーション医療(特に脳血管障害患者を中心として)
13.高齢者予備軍の腰・膝・肩関節痛の予防方法
14.在宅医療(がん以外の高齢患者)の痛み治療
15.高齢者疼痛治療の歩むべき道
●附録
「半導体レーザ治療器 照射マニュアル」