経験から学ぶ大規模災害医療
- 編 著
- 丸川 征四郎(兵庫医科大学救急・災害医学 教授)
- 発行年
- 2007年4月
- 分 類
- 救命・救急医学
- 仕 様
- B5判
- 定 価
- 定価 9,975円(本体 9,500円+税5%)
- ISBN
- 978-4-8159-1784-5
- 特 色
- 兵庫医科大学救急医学教室が,わが国で初めて「災害」を冠とした「救急・災害医学」を名乗って以来10年の間に,編者らが遭遇した災害医療経験は,直接の災害医療対応した「阪神・淡路大震災」,「JR福知山線列車事故」をはじめ,被害児童の受け入れにより関与した「池田小学校児童殺傷事件」,また「豊岡市洪水災害」,「新潟県中越地震」への災害救護班の派遣,「コロンビア地震災害」,「トルコ地震災害」,「インド洋津波の被害地モルディブ」への国際災害救護スタッフの派遣など,枚挙に暇がない.
これらの経験から,<災害救護>は特殊な医療ではないこと,特定の部門や職員が担うものでもなく,全構成員が直接的にあるいは間接的に協力して遂行するものであることを体得した.さらに,1)災害の種類が同じでも被災の内容と程度は大きく異なること,2)迅速かつ適切に対応するには経験と知識を共有するための災害対応訓練やシミュレーション訓練が重要であること,3)何よりも医療の専門家として被災傷病者に対して果たすべき重要な社会的役割があること,を学んだのである.
本書はわが国の災害医療の専門家や関係識者の知恵と経験を集積し,そこから学んだことを全国の災害医療へ日夜立ち向かう読者と共有するために企画された.
災害医療を考え,常に備え,実践するための,まさに知恵と経験の宝典である.
序 文
筆者の所属する兵庫医科大学病院はこの10年間に阪神・淡路大震災(平成7年1月)とJR福知山線列車事故(平成17年4月)との2つの大事故災害において直接の災害医療対応を経験した。さらに池田小学校児童殺傷事件(平成13年6月)では被害児童を受け入れることで間接的に関与し、円山川堤防決壊による豊岡市洪水災害(平成16年10月20日)、新潟県中越地震災害(平成16年10月)には救護班を派遣した。また、救命救急センターは、コロンビア地震災害(平成11年1月)、トルコ地震災害(平成11年12月)、インド洋津波の被害地モルディブ(平成16年12月)への国際災害救護にもスタッフを派遣した。これらの経験から病院職員は、災害救護は特殊な医療ではなく、また特定の部門や職員が担うものでもなく、全構成員が直接的にあるいは間接的に協力して遂行するものであることを体得した。
特に、災害の種類が同じでも被災の内容と程度は大きく異なること、迅速かつ適切に対応するには経験と知識を共有するための災害対応訓練やシミュレーション訓練が重要であること、そして何よりも医療の専門家として被災傷病者に対して果たすべき重要な社会的役割があることを学んだ。
本書は、これらの経験を下敷きに、わが国の災害医療の専門家や関係識者の知恵と経験を集積し、それらを読者の皆様と共有することを目的に企画・編集した。
折しも、平成18年は兵庫医科大学救急医学教室がわが国で初めて「災害」を冠とした「救急・災害医学」を名乗って10年目にあたる。本書を企画するにあたって永井書店には10周年記念事業の一環としたい旨をお願いし快く承諾を頂いた。
今日、われわれが斯くあるは先達の努力の賜物と感謝し、救急医学初代教授 中作修先生(故人)をはじめ関係諸氏に御礼の言葉を、さらには、これらの災害で失われた多くの貴い命に哀悼の意を本書とともに捧げたい。
平成19年4月吉日
丸川征四郎
■ 主要目次
I.総論
1)大事故災害医療対応における考え方
2)大事故災害医療対応システムの構築(院内)
3)個人の安全と行動
II. 災害救急医療活動の準備
1.個人の準備
2.病院の準備
3.行政・地域との連携
4.基幹病院・拠点病院
III. 施設内の災害発生時の対応
1.火災と地震への対応
2.院内情報の収集
3.災害発生時の避難行動―火災の場合
4.被災拡大の抑制と復旧
IV. 地域災害発生時の現場医療活動
1.災害発生時の医療施設における初動対応
2.災害現場トリアージ
3.現場の救急医療
4.現場情報と傷病者搬送
V. 発災時の病院医療活動
1.情報対策室と対策本部の構成と役割
2.トリアージポスト
3.院内搬送
4.X線検査
5.手術室
6.外来診療の役割
7.収容負傷者の診療体制
8.こころのケア
9.家族のケア
10.メディア、警察との連携
11.ご遺体
12.転院あるいは二次搬送
VI. 発災時の不安定要素と対応
1.被災傷病者数と収容能力の推定
2.診療のボトルネック
3.病院の機能評価の低下
4.被災地域の二次性疾患について
5.災害医療における救護活動の阻害要因と対策
VII.救護班の派遣
1.派遣決定の経過
2.救護班の構成・装備
3.現地での医療活動
4.撤収の要件と手続き・検証作業
VIII. 集団災害の種類と医療対応
1.外傷を伴う災害
2.災害医療における熱傷
3.テロ災害(神経毒ガス、有機リン系化学物質、生物兵器)
4.地震:わが国の震災時の医療対応体制について
5.津波
6.放射線災害
IX.報告書と疫学調査
1.災害医療活動の記録
2.復旧・復興の記録
3.問題点の抽出―疫学調査