PT・OT・ST・学生のための
やさしい嚥下障害の診療

PT・OT・ST・学生のための やさしい嚥下障害の診療
著 者
編著: 椿原 彰夫 (川崎医科大学 リハビリテーション医学 教授)
発行年
2006年9月
分 類
リハビリテーション医学
仕 様
B5判
定 価
本体3,800円+税
ISBN
4-8159-1765-5
特 色
リハビリテーション医療を志す理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,看護師,介護福祉士などのコメディカルの方々や,これから専門職を目指す学生,嚥下障害になじみの少ない医師や医学生を対象に, 難しい事項を極力省略し嚥下障害のエッセンスを平易な文章で分かりやすく解説した入門書です.
そのためにイラスト,写真や表を多く用い,基礎からリハビリテーションの戦略まで十分な知識を得ることができます. また,まんがや解説MEMO,Cofee Break欄などのちょっとした知識情報コーナーが本書のアクセントとして,またより深い理解のために役立ちます.
今後ますます増えてくる嚥下障害の患者さんに,よりよい医療を提供するために本書のご購読をお勧めします.

■ 序 文 ■

私が初めて嚥下障害の講義を聴いたのは、1981年のことであったと記憶しています。 もちろん、嚥下障害で困っている患者様へのリハビリテーション医療は、その当時の日本にはほとんど知られていませんでした。
嚥下障害患者様にもなんとかして幸せを与えなければならないという講演者の先生の熱い思いは残念ながら伝わらず、私には苦痛な1時間でした。 それは「顎舌骨筋、オトガイ舌骨筋、顎二腹筋、茎突舌骨筋、甲状舌骨筋などが嚥下には重要である」といった解剖学の内容から講義がスタートしたからです。 「大腿四頭筋や上腕二頭筋なら、知っているけど……」と、リハビリテーションを志す医師としての言いわけを考えつつ、あくびしながら講義を拝聴したのを思い出します。 不勉強な私の記憶違いでなければ、医学部の学生時代にも、嚥下機能に関連するこれらの筋肉については、しっかりとは教えられなかったと思います。
その2年後に慶應義塾大学月が瀬リハビリテーションセンターで働くことになった私のところへ、嚥下障害患者様が次々とやって来ることになりました。 「もっと真剣に勉強していればよかったのに……」と後悔しても、時遅しでした。 障害者を救うことがリハビリテーション科医の役割で、私たちが放り出したら、誰もほかに救う人はいないわけです。 このことを考えると、一生懸命に勉強するしか方法がありませんでした。 それで、嚥下造影検査も見よう見まねで始めたわけです。今になって思うことは、顎舌骨筋の名前を知らなくても嚥下障害のリハビリテーションは行えるということです。 舌骨と下顎を結ぶ筋(舌骨上筋群)が嚥下反射時に収縮することさえ知っていれば、筋肉の名称はほとんど知らなくても治療可能なのです。
高齢化社会を迎えた現在では、嚥下障害患者様は後を絶たないほど、たくさん受診されます。 リハビリテーション医療を志すコメディカルの皆さんにとっては、嚥下障害のリハビリテーションを知っていることは必須の事項です。 そこで、昔、私が経験したつらい気持ちをもつことなく、簡単に勉強できる入門書を書こうと決心しました。 徹夜して覚えるような内容は、極力省略しました。 この本は、嚥下障害のことをまったく知らない初心者向けの教科書ですので、推理小説を読むくらいの気楽な気持ちで読んでいただければ幸いです。
理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、看護師、介護福祉士などのコメディカルの皆様とこれから専門職になることを目指している学生の方々、 あるいは嚥下障害に馴染みの少ない医師や医学生の皆様に読んでいただき、多くの嚥下障害患者様に大きな幸せを与えられる社会を築きあげていただきますようお願い申し上げます。
平成18年9月吉日
椿原 彰夫

■ 主要目次 ■

CHAPTER 1 嚥下障害の基礎的知識
1.あなたも嚥下障害?
2.嚥下障害は完治しない!
3.でも、摂食可能となるアプローチ
4.嚥下障害患者様にも安全に食べさせてあげたい!
5.嚥下障害の医療チームに参加しませんか?
6.これだけは覚えておきたい解剖学
7.これだけは知っておきたい生理学
8.摂食・嚥下の新しいステージ分類
9.摂食・嚥下の障害ではどのようなことが起こるの?
10.誤嚥だけが嚥下障害ではない!
11.むせ返り症状のない誤嚥ほど危ない!
12.食べさせることと自分で食べること
13.どんな病気が嚥下障害を起こすの?
14.高齢者は誰でも危ない!
CHAPTER 2 嚥下障害の診断と評価
15.誰にでもできる診察のコツ
16.嚥下造影検査で何がわかる?
17.嚥下造影検査に同席してみよう!
18.嚥下内視鏡では喉頭がよく見える
CHAPTER 3 嚥下障害の治療法
19.口腔衛生を軽視する医療者に嚥下障害治療の資格なし!
20.鼻からの長期カテーテル留置は最悪の医療!
21.嚥下障害治療の基本は全身耐久性の向上にあり!
22.栄養状態の悪い患者様に食べさせては駄目!
23.食物摂取をせずに行う間接的嚥下訓練
24.発声と嚥下には深い関係がある
25.直接的嚥下訓練は食物形態の選択から
26.嚥下食のレシピ教えましょうか?
27.間違えやすいキザミ食とミキサー食
28.とろみ調整食品とゼリーって、どう違うの?
29.市販食品を上手に使いたい
30.なぜ、リクライニング姿勢がよいと思う?
31.頸部の前屈と回旋の意義を知りたい!
32.摂食時のテクニック
33.咳をすることは大事!
34.入れ歯は装着した方がよいの?
35.咀嚼に障害がある場合のアプローチ
36.歯科医に依頼したい機能補助装置とは?
37.嚥下反射に問題がある場合にはどうするの?
38.輪状咽頭筋弛緩不全って知ってる?
39.胃瘻って、誰にでも設置するのが適切か?
40.胃腸の機能についても勉強したい
41.間接的経管栄養法って有効な手段?
CHAPTER 4 嚥下障害の疾患別アプローチ
42.脳血管障害急性期の嚥下アプローチ
43.脳血管障害回復期のリハビリテーション
44.球麻痺と偽性球麻痺
45.外傷性脳損傷は摂食可能になる!
46.改善が難しい神経難病
47.ミルクを飲めない新生児・乳児を助けたい
48.脳性麻痺児にも食べさせてあげたい!
49.重度の認知症患者様に食べさせて大丈夫?
50.誤嚥性肺炎の原因は、食事の誤嚥だけではない!
CHAPTER 5 嚥下障害のリハビリテーション戦略
51.急性期からアプローチする嚥下チーム
52.嚥下治療における各療法士の役割を知りたい
53.看護師さん、あなたは主役!
54.障害の完治が嚥下障害治療の目的ではない!
55.退院後も重要な摂食指導の継続
56.嚥下障害の重症度分類
57.リハビリテーションはどの程度有効か?
58.最後の手段!外科的治療
59.救急事態への対応と安全管理
60.命を大切にしよう!

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