症例から学ぶ婦人科腫瘍学入門

症例から学ぶ婦人科腫瘍学入門
著 者
著 井上 正樹(金沢大学 教授)
発行年
2006年7月
分 類
産婦人科学
仕 様
A4判
定 価
14,700円(本体 14,000円+税5%)
ISBN
4-8159-1758-2
特 色
 分子生物学の発展により,蓄積された細胞の生物学や分子・遺伝子学の知見が臨床応用され新しい科学としての治療学の時代を迎えた.しかしながら,腫瘍学は19世紀末に確立された病理形態学と手術学の域を出ず,そのことは21世紀の現代,病理学を基盤として多くの医療分野で診療が行われていることからもわかる.病理形態学こそが医療の基本であり,それを学ぶことが腫瘍学の入り口といえる.
 本書は,婦人科腫瘍について病理形態学を中心にした病態と最新の細胞分子生物学に基づいた疾病概念の理解を深め,臨床的EBMの理解とその限界を学ぶことを目的としている.とくに金沢大学産婦人科において診療した300点を超える症例をカラー写真で呈示,また教室での日常の診療や臨床論文抄読会・臨床カンファレンスでの討論を通じて構築された基本的理念と具体的治療計画を記載し,日常診療の現場で最良の治療を実践するために大いに役立つ指針書となっている.
序   文

 1970年代における爆発的な分子生物学の技術的進歩により,細胞の生物学や分子・遺伝子学の知見が集積された.そして,その一部は臨床応用されている.臨床医学でも科学的根拠に基づいた医療(EBM)を実践する上で臨床試験の重要性が指摘されてきた.現在は科学としての治療学の勃興といえる時代にある.しかし,その一方で,腫瘍学は19世紀後半に確立された病理形態学や手術学の域を脱することは出来ていない.21世紀の現代においても病理形態学が医療の基本と言える.形態学を学ぶことがすなわち腫瘍学の入り口である.
 医療は,何らかの訴えをもって医師の診察を求める人々に対して正しい診断を行い,訴えの原因をできるだけ少ない侵襲と費用で取り除くことをもって完結する.したがって,腫瘍学の最終の目的とするところは治癒である.
 最良の治癒を目指した医療を実践するためには,
@ 腫瘍の特性を知る.
A 患者の希望を知る.
B 最適の治療法を知る.
C 最適の治療を実施できる技術を身につける.
ことが必要であり,日々の診療においても常に探求心を持って「患者さんから学び,患者さんに返す」基本精神を堅持することが大切である.
 本書は,病理形態学を中心にした病態と最新の細胞分子生物学に基づいた疾病概念の理解を深め,臨床的EBMの理解とその限界を学ぶことを目的とした.とくに金沢大学産婦人科における日常の診療や臨床論文抄読会・臨床カンファレンスでの討論を通じて構築された基本的理念と具体的治療計画を記載した.本書が日常診療において最良の治療を実践する上で役に立てば幸いである.
 本書の出版に際し,教室の共同研究者,日常の診療協力者並びに資料提供や御意見を戴いた諸兄に感謝致します.


2006年 初春
金沢市小立野にて
井上 正樹

■ 主要目次




第1章 臨床と病理−そのコミュニケーション−

 1.臨床医と病理医とのコミュニケーション
 2.病理診断の限界


第2章 外陰・腟の疾患

A.外陰癌−表層浸潤扁平上皮癌−
 症例:外陰部の表層浸潤性扁平上皮癌
B.腟の腺癌
 症例:単純子宮全摘後25年経過後に生じた腟腺癌


第3章 子宮頸部の疾患

A.子宮頸部癌発生の分子機構
B.子宮頸部癌のスクリーニング:細胞診
C.子宮頸部前癌病変の診断と治療
 症例:高度異形成
D.子宮頸部微小浸潤扁平上皮癌
 症例:微小浸潤扁平上皮癌
E.子宮頸部浸潤癌
 症例:子宮頸部浸潤癌(未分化癌)
F.子宮頸部微小浸潤腺癌
 症例:子宮頸部微小浸潤癌
G.子宮頸部浸潤性腺癌
 症例:子宮頸部浸潤性腺癌
H.子宮頸部間葉性混合腫瘍−ブドウ状肉腫−
 症例:ブドウ状肉腫


第4章 子宮体部の疾患

A.子宮体部癌発生の分子機構−その前癌病変の多様性−
 症例:子宮内膜の粘液性化生上皮
B.子宮体癌−類内膜腺癌−
 症例:閉経期の子宮体癌
C.子宮体癌−特殊型腺癌−
 症例:漿液性腺癌
D.若年者子宮体癌−保存的治療−
 症例1:分娩に至った症例
 症例2:分娩が不成功に終わった症例
 症例3:不幸な転帰をとった症例
E.子宮体部間葉性腫瘍−筋腫と肉腫−
 症例:子宮平滑筋肉腫
F.子宮体部上皮性・間葉性混合腫瘍−子宮内膜間質肉腫−
 症例:腺 肉 腫


第5章 卵巣の疾患

A.卵巣癌の診断
 症例:微小卵巣癌
B.卵巣初期腺癌の治療
 症例:初期卵巣腺癌の対側卵巣への微小転移
C.進行卵巣癌の治療−化学療法−
 症例:長期生存が得られた進行卵巣癌
D.性索・間質性腫瘍−顆粒膜細胞腫−
 症例:顆粒膜細胞腫(若年型)
E.卵巣胚細胞性腫瘍−未分化胚細胞腫−
 症例:両側卵巣発生の未分化胚細胞腫
F.卵巣胚細胞性腫瘍−成熟充実性奇形腫−
 症例:成熟充実性奇形腫切除後の神経膠細胞播種(腹膜神経膠腫症)
G.腫瘍類似疾患およびその他の希な卵巣腫瘍−多嚢胞性卵巣−
 症例:多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)


第6章 卵管・子宮広間膜・腹膜の腫瘍−卵管癌−

 症例:原発性卵管癌
 1.卵管の構造・機能とその周囲組織
 2.炎症性疾患
 3.卵管妊娠
 4.卵管の腫瘍と腫瘍類似病変
 5.広間膜の腫瘍および腫瘍類似病変
 6.腹膜の腫瘍および腫瘍類似病変


第7章 子宮内膜症

 症例:子宮内膜症より発生した卵巣腺癌
 1.子宮内膜症の概念
 2.子宮内膜症の発生メカニズム
 3.子宮内膜症の臨床的特徴
 4.子宮内膜症の臨床診断
 5.子宮内膜症の病理診断
 6.子宮内膜症から発生する癌
 7.子宮内膜症の治療


第8章 妊娠性絨毛性疾患

 症例:全胞状奇胎と双胎妊娠の合併例
 1.正常絨毛の発育と形態
 2.絨毛性疾患の定義と診断
 3.胞状奇胎の発生機序
 4.胞状奇胎・絨毛癌の治療


第9章 性器感染症とその関連病変

 症例:卵巣膿瘍
 1.外陰・腟の感染症
 2.骨盤内生殖器の感染症


第10章 遺伝性(家族性)癌症候群

 症例:子宮体癌患者を発端者とするHNPCC家系
 1.遺伝性(家族性)癌症候群
 2.乳房および婦人科癌における癌家系
 3.遺伝子カウンセリング

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