21世紀の日本はますます人口の高齢化が促進され,それに伴って重度で重複した問題をもった障害者が増加しております。このことから医療保険や介護保険におけるリハビリテーションサービスの重要性がより認識されてきています。
また,厚生労働省が開催した「高齢者リハビリテーション研究会」の報告「高齢者リハビリテーションのあるべき方向」において,1,最も重点的に行われるべき急性期のリハビリテーション医療が十分に行われていない,2,長期間にわたって効果が明らかでないリハビリテーション医療が行われている場合がある,3,医療から介護への連続するシステムが機能していない,4,リハビリテーションとケアとの境界が明確に区別されておらず,リハビリテーションとケアとが混同して提供されているものがある,5,在宅におけるリハビリテーションが十分でない,ことが指摘されています。これらのことから,1,急性期病院における早期のリハビリテーションのさらなる充実,2,診療所レベルにおけるリハビリテーションの普及,3,平成12年度から導入された回復期リハビリテーション病棟のシステムを量的にも質的にも促進,4,介護保険における通所リハビリテーションをはじめとしたリハビリテーション的なアプローチを普及,5,訪問リハビリテーションなどの促進,など行政による政策的な誘導が今後も行われることが予想されるとともに,リハビリテーションに関連する職種がますます多くの場面で活躍することが期待されています。
現在までリハビリテーション医学に関する多くの教科書が出版されてきました。しかし臨床の場ですぐに役に立つものは決して多くはないと思っていました。われわれは現場に配属された若いセラピストにもすぐに実用的な知識や実践的な技術情報を提供できる教科書の出版を企画し,この本の大多数の項目の執筆を全国の労災病院に勤務する理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・臨床心理士・医療ソーシャルワーカーにお願いしました。
労災病院は,昭和24年に九州労災病院・東京労災病院・珪肺労災病院の開設,以降,全国に設立され早期にリハビリテーション医療を導入し,日本の先駆的役割を担ってきました。平成16年からは独立行政法人労働者健康福祉機構により運営されるようになり,労災疾病に関する予防から治療・リハビリテーション・職場復帰に至る一貫した高度で専門的な医療および職場における健康確保のための活動である勤労者医療を強力に推進しています。これら労災病院が培ってきたリハビリテーションのノウハウを活かし,本の前半では脳卒中・脊髄損傷・整形外科疾患・外科疾患・内科疾患に対してのリハビリテーションの実際を記載し,後半では主要な疾患における障害者の職業復帰,腰痛症やメンタルヘルスなどの作業関連疾患の予防と治療,生活習慣病とリハビリテーション,障害者の職業復帰や社会復帰を促進するための補装具や自助具の工夫の章を設け実践的な内容を報告しております。
労災病院のリハビリテーション関連職員は,全国労災病院リハビリテーション技師会を組織して年に1度全国研修会を開催し研究発表を行い,また日本職業災害医学会学術大会などでそれぞれの施設における実践や診療における工夫を積極的に報告してきました。この本にはそれらの発表をきっかけに執筆者が発展させてきたテーマも含まれているために,教科書的な内容だけでなく,臨床現場で工夫したことやデータを示すことにより興味深くわかりやすい内容になったと思います。読者諸氏の今後のリハビリテーション治療の一助になればと願っています。