よくわかる

白血病のすべて

よくわかる白血病のすべて
著 者
編集 大野竜三(愛知県がんセンター名誉総長)
発行年
2005年11月
分 類
内科系・血液
仕 様
B5版 330頁 図97 表92
定 価
6,720円(本体6,400円+税5%)
ISBN
4-8159-1736-1
特 色
長年白血病治療に携わってきた編者に立案により, 血液専門医のみならず, 研修医からMR,患者さんやその家族にも理解可能できるようにできるだけわかりやすい解説書を目指した好著. 強力な化学療法や造血幹細胞移植という現行の治療に加え, 21世紀の白血病治療の中核になると思われる分子標的療法を重点的に取り上げる

■ 序 文

 白血病はがん治療のパイオニアとして,20世紀のヒト腫瘍学を基礎・臨床の両面においてリードしてきた.これは,白血病では患者から十分量のがん細胞を供給して頂くことができるために,ヒトを対象とする研究ではしばしば隘路となる研究材料不足に悩まされることなく,十分な基礎研究ができることによる.そして,薬だけで治すことのできる最初のがんとなった.これも,白血病は放置すれば短期間で死に至る病気であるために思い切った治療手段を採用することができたことによる.その代表が副作用の強い殺細胞化学療法や造血幹細胞移植法である.
 しかし,編者が医師免許を取得した翌年の1966年版の内科書(南江堂)では「白血病の治療には種々の方法が行われているが,まだ根治療法はなく,一時的緩解をきたしても結局は死亡する.したがって,現在の段階ではいかにして患者の生命を延長するか,あるいは,いかにして患者の活動力をできる限り維持するかという点に向かって努力を集中するにある」と記載されていた.
 過去約40年間の白血病の歴史は,治療が強ければ強いほど治癒率が高くなることを教えてきた.事実,小児の急性リンパ性白血病においては,強力な化学療法により標準リスク群の80%以上を,高リスク群でも60%以上を治癒できるようになった.但し,強力な化学療法や造血幹細胞移植は,若年者においては,確かにより高い治癒率につながるものの,中高年者では強力治療をすることによって発生する有害事象のため,必ずしも治癒率の向上につながっていない.したがって,白血病は治るような病気になったとはいえ,まだまだ治すことは難しい病気であることには間違いない.
 白血病を治癒させることのできなかった時代からその治療に携わってきた編者は,治すことができるようになったとはいえ,今や化学療法や造血幹細胞移植法による白血病の治療成績は限界に達しており,従来の治療法の少々の改良では,これ以上の治癒率の向上は望めそうになく,新しいパラダイムへの飛躍が絶対必要と考えている.
 本書でも解説されているように,白血病は遺伝子の異常によって発生するがんである.遺伝子異常により生じたその産物(蛋白分子)ないしその欠損ががん化の原因となっている.すべての病気にもいえることであるが,病因そのものに対する治療法が最も望ましく,かつ副作用も少ないことが予測される.21世紀の白血病治療は,がん化の責任遺伝子産物を特異的ないしは選択的に標的としたものでなくてはならない.本書でも触れられている分子標的薬は,まさに,これに該当する病因そのものに作用する薬剤である.
 本書でも解説されているように,急性前骨髄球性白血病に対するレチノイン酸や慢性骨髄性白血病に対するイマチニブなどによる分子標的療法は,驚異的な有効率と理論どおりの有害事象の少なさにより,驚くべき有用性を既に実証している.20世紀の化学療法や造血幹細胞移植の歴史と同様に,白血病におけるこれらの新しい発見は,すべてのがんの模範となり,近い将来,白血病を含めた多くのがんが分子標的法により治るようになるであろうと期待されている.
 本書は血液専門医ではなく,研修医,若手内科医,開業医,看護師,薬剤師,検査技師や製薬会社のMRなどを念頭におき編集された.同時に,白血病患者やその家族が読んでもわかるように,できるだけわかりやすい解説書にすることを目指した.
 執筆者には当然わかっている術語でも,研修医,開業医,看護師,薬剤師,検査技師,MRにはよくわからないものがたくさんある.ましてや,患者やその家族には皆目わからない.したがって,患者やその家族にもわかるように,術語を解説する「メモ」を必ず入れるようにした.さらに,医師,看護師,薬剤師のために,「注意点」,「重要事項」を少なくとも1個は入れて,注意を促すように工夫もした.
 白血病のすべてにつき,医療従事者以外の方にもよくわかる解説書として編集された本書が,血液専門医を中心に,研修医,若手内科医師,開業医,看護師,薬剤師,検査技師など医療チームが,患者と一緒になって白血病を治してゆく過程の助けになれば幸いである.

■ 主要目次

1 白血病はなぜ起こるのか
 1.環境要因
 2.遺伝要因
 3.白血病の分子病態

2 白血病の種類と分類
 1.FAB分類とWHO分類の基本的相違点
 2.急性白血病のWHO分類
 3.急性白血病と鑑別を必要とする疾患群とWHO分類

3 白血病の疫学
 1.白血病の記述疫学
 2.白血病の危険因子

4 染色体と白血病
 1.染色体とは
 2.染色体研究の歴史
 3.染色体の分子構造
 4.染色体各部の名称とバンドの特定法
 5.核型表記法
 6.白血病によくみられる染色体異常
 7.染色体検査の限界と「正常核型」の意味

5 白血病に使用される薬物
 1.作用機序からみた白血病治療薬の分類
 2.代謝拮抗薬
 3.アンソラサイクリン系薬剤
 4.アンソラキノン系薬剤
 5.エピポドフィロトキシン
 6.植物アルカロイド製剤
 7.L-アスパラギナーゼ(L-asp)
 8.分子標的薬剤

6 急性骨髄性白血病(AML)の治療
 1.薬物療法の基本的な考え方
 2.初発AML症例に対する薬物療法
 3.再発難治AMLに対する薬物療法

7 急性前骨髄球性白血病(APL)の薬物療法
 1.APLの臨床病態
 2.未治療APLの治療
 3.JALSGにおける未治療APLの治療成績
 4.再発・難治例の治療

8 成人急性リンパ性白血病(成人ALL)の薬物療法
 1.病型分類
 2.成人ALLと小児ALLの違い
 3.思春期・若年成人ALLの治療
 4.病型別治療
 5.造血細胞移植療法
 6.サルベージ療法

9 小児急性リンパ性白血病(小児ALL)の治療
 1.治療開始前にすべきこと
 2.治療法選択の実際
 3.治療の実際
 4.フォローアップのポイント

10 慢性骨髄性白血病(CML)の薬物療法
 1.慢性骨髄性白血病(CML)の定義
 2.CMLの病因
 3.CMLの診断
 4.CMLの治療法
 5.CMLに対するイマチニブの治療成績
 6.イマチニブの効果判定
 7.イマチニブの副作用
 8.イマチニブ治療の問題点

11 慢性リンパ性白血病(CLL)
 1.病期分類
 2.治療の開始時期
 3.治療の現状

12 高齢者白血病とその薬物療法
 1.高齢者急性骨髄性白血病(高齢者AML)の特徴
 2.高齢者急性白血病の疫学
 3.高齢者白血病の年代ごとの治療戦略
 4.高齢者AMLの化学療法
 5.高齢者AMLプロトコール(GML200)
 6.今後の展望

13 骨髄異形成症候群(MDS)
 1.MDSの疾患概念
 2.MDSの病態機序
 3.MDSの分類
 4.MDSの診断
 5.MDSの治療
 6.MDSの予後

14 薬物療法が効かない白血病
 1.P糖蛋白(P-gp)
 2.P糖蛋白質を介した耐性機構の克服
 3.多剤耐性関連蛋白質(multidrug resistance-associated protein;MRP)
 4.Lung resistance-related protein(LRP)
 5.VLA-4を介した薬剤耐性
 6.DNAトポイソメラーゼ(トポ)阻害剤の耐性
 7.Methotrexate(MTX)に対する耐性
 8.Cytosine arabinoside(Ara-C)に対する耐性

15 白血病に使用される造血幹細胞移植の種類
 1.造血幹細胞移植の原理
 2.骨髄移植と末梢血幹細胞移植
 3.臍帯血移植
 4.ミニ移植
 5.母児間移植

16 急性骨髄性白血病の同種造血細胞移植
 1.急性骨髄性白血病(AML)
 2.急性前骨髄球性白血病(APL)
 3.幹細胞ソース

17 成人急性リンパ性白血病(成人ALL)の移植療法
 1.ALLの予後因子
 2.移植の適応
 3.移植の概要
 4.移植前処置
 5.免疫抑制剤
 6.移植成績(骨髄破壊的前処置による)
 7.同種移植成績
 8.自家移植成績
 9.骨髄非破壊的移植成績(RIST、ミニ移植)
 10.今後の移植の方向

18 イマチニブ時代の慢性骨髄性白血病(CML)の造血幹細胞移植療法
 1.慢性期CMLにおける同種造血幹細胞移植
 2.CMLの同種造血幹細胞移植後の晩期障害
 3.CMLの同種造血幹細胞移植の予後予測
 4.新しい試み
 5.イマチニブによる慢性期CMLの治療成績の予測
 6.慢性期CMLにおけるallo-SCTの適応

19 骨髄異形成症候群(MDS)に対する造血幹細胞移植療法
 1.強力な化学療法
 2.同種造血幹細胞移植の成績、予後因子
 3.造血幹細胞移植を行う時期
 4.造血幹細胞移植前の寛解導入療法の妥当性
 5.MDSに対するミニ移植、自家移植

20 中枢神経白血病(CNS-L)
 1.発症機序
 2.浸潤する白血病の種類と発症頻度
 3.診断
 4.危険因子
 5.治療方法
 6.CNS-L治療の副作用

21 白血病治療時の感染症対策
 1 .白血病に伴う感染症の種類、特徴
 2.感染症の予防
 3.発熱性好中球減少症(FN)対策
 4.深在性真菌症対策

22 顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の使い方
 1.G-CSF使用のガイドラインについて
 2.G-CSFの白血病における使用について
 3.M-CSFについて

23 白血病治療時の出血対策
 1.急性白血病における血小板輸血の基準
 2.血小板輸血不応状態
 3.赤血球輸血について
 4.播種性血管内凝固症候群(DIC)

24 造血幹細胞移植後の合併症と対策
 1.移植後早期の合併症
 2.移植後感染症
 3.移植片対宿主病(GVHD)
 4.移植後晩期の合併症

25 成人T細胞白血病(ATL)
 1.概念
 2.HTLV-1と疫学
 3.発症機構
 4.臨床症状と病態
 5.検査所見
 6.診断
 7.病型分類
 8.治療

26 NK細胞白血病
 1.NK細胞とは
 2.NK細胞腫瘍とは
 3.aggressive NK-cell leukemia/lymphoma(アグレッシブNK細胞白血病/リンパ腫)
 4.Chronic NK lymphocytosis(慢性NK細胞増多症)
 5.aggressive NK-cell leukemia/lymphomaとchronic NK lymphocytosisの鑑別

27 骨髄増殖性疾患群
 1.真性赤血球増加症(PV)
 2.本態性血小板血症(PV)
 3.慢性特発性骨髄線維症(CIMF)
 4.慢性好酸球性白血病(CEL)/好酸球増加症候群(HES)
 5.慢性好中球性白血病(CNL)

28 乳児白血病とダウン症候群の白血病
 1.乳児白血病
 2.ダウン症候群(DS)に合併した白血病
 3.乳児白血病とダウン症候群に合併する白血病の遺伝子異常について

29 治療効果の判定方法
 1.白血病の治療効果判定と微少残存病変
 2.急性骨髄性白血病の治療効果の基準
 3.慢性骨髄性白血病(CML)における微少残存病変
 4.急性リンパ性白血病(ALL)における微少残存病変
 5.慢性リンパ性白血病(CLL)における微少残存病変

30 白血病の今昔
 1.Leukemiaの歴史“weisses Blut”
 2.白血病分類の今と昔
 3.血液細胞のがん
 4.激烈な症状を示した昔の白血病患者
 5.抗がん薬による“寛解”
 6.多剤併用療法による“治癒”
 7.同種造血幹細胞移植による治癒率向上
 8.分子標的療法による治癒率向上
 9.“治る”白血病、“治らない”白血病:予後判定可能時代の到来
 10.遺伝子分類時代へ
 11.最後に;白血病治療の近未来像

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