「内分泌疾患は難しい」とよくいわれる.しかし,本書はそのように感じておられる方にこそ読んでいただきたい.本書を読むことにより内分泌疾患への興味がそそられ,「内分泌疾患は面白い」と思っていただけると確信している.
内分泌疾患が難しいといわれる理由の一つは,内分泌疾患の多くが,最初は必ずしもその疾患特有の症候を示さず,非専門医が内分泌疾患を想起するのに時間がかかるためであろう.本書は,内分泌非専門医や内分泌疾患を勉強しようとする研修医のために,内分泌疾患でよく起こってくる症候を中心に据え,臨床の現場でいかにすれば内分泌疾患を想起し,正確な診断に到達できるかを,数多くの臨床例をあげてわかりやすく解説したものである.内分泌疾患は,その存在の可能性を想起することさえできれば,正確な診断に到達するのはそれほど困難ではないため,最初に患者の診療を担当する臨床医の力量が問われる分野である.言い換えれば,内分泌疾患診療の醍醐味は,一見,内分泌疾患を想起し難い患者を診察したときでも,その患者の症候,特徴を的確に捉えて内分泌疾患の正確な診断に至ることであるともいえる.
まず試みに,本書の中の各章のタイトルを通覧していただきたい.そして,その中で興味の感じられた部分を,どこでもよいから読んでいただきたい.するとその中に,多くの臨床経験に裏付けられた,内分泌疾患の診療におけるエッセンスが多数盛り込まれていることを発見されるであろう.とくに「疾患編」では,一見,内分泌疾患とは無関係に思われるような症候であっても,実は内分泌疾患の初期の症候であることがいかに多いか驚かれるであろう.本書を通読することにより,そのような教訓的な症例にできるだけ数多く出会っていただきたい.非専門家にとっていろいろな分野の内分泌疾患を自分自身で多数経験することは不可能であろうが,本書を利用すれば数多くの教訓的な症例をシミュレイションすることができ,不足しがちな臨床経験を補完することが可能となる.
内分泌系では,ホルモンと呼ばれる生理活性物質が,その受容体(レセプター)を介して一連の生物作用を発揮するシステムである.内分泌疾患は,その一連の過程のどこかに異常が生じて発症する病気である.近年の基礎および臨床医学の進歩により,内分泌疾患の発症メカニズムはかなり解明されつつある.その発症メカニズムを理解できるようになると,難しいと思っていた内分泌疾患が,目から鱗が落ちるように理解しやすくなるという経験をお持ちの方も多いと思う.本書は,実際の症例をもとに臨床に則して書かれたものではあるが,それらの症例を通じて内分泌系の面白さにも気付いていただき,内分泌疾患に今まで以上に興味を持っていただければ,編者としてこれ以上の喜びはない.本書を十分に活用され,臨床現場において内分泌疾患の早期発見,早期治療に役立てていただけることを切望している.
1 ホルモンの作用機構,分泌調節
ホルモンの種類
ホルモンの作用機構
ホルモンの調節機構
2 内分泌疾患における問診のとり方
一般症状
消化器症状
循環・呼吸器系症状
運動器・神経系症状
その他
3 内分泌疾患における身体所見のとり方
1.身長
2.肥満
3.痩せ
4.頭部,顔貌
5.目,口,鼻,耳
6.前頸部,甲状腺
7.胸部
8.腹部
9.背部
10.四肢
11.皮膚,色素沈着
12.多毛と脱毛
4 一般検査値の異常から内分泌疾患をみつける
尿検査
末梢血検査
生化学検査
心電図
単純レントゲン
5 内分泌負荷試験
なぜ負荷試験が必要か
負荷試験の準備と実施
負荷試験一覧ととくに重要な負荷試験とその結果の解釈について
6 内分泌検査における超音波検査ム甲状腺・副甲状腺を中心にみる超音波検査の有用性
機種はどれを選ぶか?
局所解剖と触診
エコーの特徴(長所・短所とその対策)
典型例
副甲状腺疾患へのエコーの有用性
7 内分泌疾患の画像診断
各内分泌臓器の画像診断についての概説
8.内分泌救急疾患の処置
甲状腺クリーゼ
副腎クリーゼ(急性副腎不全)
高Ca血性クリーゼ
糖尿病性昏睡
9 内分泌疾患と心身症
バセドウ病
糖尿病
10.内分泌領域における最近の動向
グレリンに関するトランスレーショナルリサーチ