腎臓の働きは,?糸球体ろ過(老廃物の排泄),?水・電解質の調節,?酸塩基平衡の調節,?血圧の調節,?造血ホルモンの産生,?カルシウム代謝の調節などである.全身の影響を受けて腎に障害が生じるが,腎臓自体が全身をコントロールしている.そのような意味で腎臓は全身の状態を写す鏡である.腎臓学が複雑に見えたり,理解することが難しく思えたりする理由は,ヒト全体を3次元的にあるいは時間の要素を加えた4次元的に評価しないといけないためかもしれない.中国の古典には,医学の本道は「内科学」であると記載されているが,その中でも,内科学の本道は,「腎臓学」であるといっても過言ではない.
腎疾患の患者数を概算すると,血尿・蛋白尿を有する人は,人口の数%とされている.仮に1%と見積もっても,120万人が存在することになる.その中で進行性の要素のある人は腎生検を受けることになるが,わが国では年間約1万人が腎生検を受けている.20年間の累積では,20万人と推測される.その中から腎不全に至って透析療法が必要となるが,年間約3万人の新規導入患者数に反映され,その累積として現在,25万人が透析療法を受けている.尿異常は一般内科医が担当とするとしても,腎生検から透析療法まで約100万人に対応できる腎臓専門医が必要になってくる.しかも,患者数に大きな地域差はないので腎臓専門医が均等に分布することが重要であるが,現実には腎臓専門医の絶対数は不足している.
このような状況を打開するために日本腎臓学会では,専門医制度委員会の中に卒前・卒後教育委員会を設立し,腎臓専門医を育成する教育プログラムを実行している.これまで,旭川,名古屋,岡山,東京でセミナーを開催し,さらに2005年夏の研修医セミナーを東京,秋には新潟,長崎,冬の研修医セミナーを沖縄で予定している.セミナーの担当あるいはタスクフォースをしている指導医クラスの多くが,本書の著者になっている.
本書では,腎疾患をどのように捉えると理解が深まるのか,水・電解質異常にどのようにアプローチするのか,腎疾患の治療法にはどのようなものがあるのか,さらに医療現場で必要な倫理的アプローチについて総論編にわかりやすくまとめている.さらに疾患編では,典型的な症例を提示してアプローチの仕方と理解の仕方を概説している.いずれの著者も現在,臨床現場で活躍し,若い研修医,腎臓専門医を目指す医師を実際に指導している方たちである.本書が認定内科医試験,腎臓専門医試験に役立つことを確信しているし,本書をテキストとして使用して腎臓専門医を目指す人が一人でも増えることを期待している.