本書を出版する意義は、日本における家庭医療のスタンダードを具体的に示すことである。
海外の多くの国々では、家庭医療は既に社会保障制度や医学教育制度の中で確立された専門分野である。それぞれの国の社会・経済・歴史・文化的状況に応じて家庭医療の表現形には違いがあるが、その専門性についてのコアとなる考え方と家庭医の態度・価値観・信念は共有されている。それが家庭医療のグローバル・スタンダードといえるものである。
残念ながら、日本では、「プライマリ・ケア」や「家庭医療」という言葉を用いていても、必修化された初期研修で「プライマリ・ケア」が強調されても、この家庭医療のグローバル・スタンダードが正しく理解され実践されることがほとんどなかった。
本書は、このような状況に一石を投じ、読者がグローバル・スタンダードの家庭医療を「理解」し「実践」することを支援することを目指している。
本書では、全国で家庭医療を実践する数少ないエキスパートに執筆をお願いした。McWhinneyは、「スキーができるようになるためには、スキー場に行って、スキーのインストラクターから習う」という喩えを用いて臨床教育の原則を説いている。プールに行ったり、テニスのコーチについても、スキーは上達しないのである。今回、「実際にスキー場でスキーを教えているスキーのインストラクター」を本書の執筆陣に迎えることができて大変嬉しく思っている。編者の要望に応えて、家庭医療の専門性を反映するスタイルで、しかも簡潔に執筆して頂いた著者各位に深謝したい。
企画から、原稿の取りまとめと編集、読みやすいレイアウトでの印刷、そして携帯しやすい大きさでの製本に至るまで、本書の出版のすべてについて、(株)永井書店東京店の高山静編集長と山本美恵子氏には大変お世話になった。心より感謝したい。今後も健康に留意され、家庭医療についての出版プロジェクトにご協力頂ければ幸いである。
「曹源の一滴水」のように、本書によって、多くの医学生・研修医が「具体的に学ぶことが可能な専門分野」としての家庭医療に興味をもち、志のある地域の医師が自分の診療に家庭医療を積極的に取り入れ、そして、日本に住むできるだけ多くの人が家庭医療を利用できるようになる日が遠からず来ることを願って、序文の結びとしたい。