21世紀のわが国は、少子高齢化社会となっており、平均寿命は世界でもトップです。病院の外来では高齢者を多くみかけますし、高齢者を対象とした医療施設も多数新設されています。それに対して、小児人口の減少から小児を対象とする医療機関は危機を感じているようです。わが国の平均寿命を延ばしているのは、高齢者に対する医療の進歩だけではなく、新生児・小児医療の進歩に負うところが多いことを忘れてはいけないと思います。数年前では治療が不可能であった症例が治療可能になり、生存不可能と思われる未熟児が立派に成長しています。福岡市立こども病院・感染症センターは、九州地区の新生児および小児医療の最前線に位置しており、開院以来、治療が困難なさまざまな症例を経験してきました。
小児麻酔の教科書として古くからある『小児麻酔マニュアル』の初版は1981年に出ています。福岡市立こども病院・感染症センターの開設が1980年ですから、開院当初は大人の麻酔の経験をもとに手探りの状態で出発しました。現在では、多くの小児麻酔に関する本が出ており、今回の企画のお話があった際にもいったんお断りしましたが、現在われわれが実践していることをわかりやすく書いて頂きたいという出版社のご意向と、当院に見学にみえた先生方の“カルチャーショックを受けました、目から鱗でした”というお言葉に、他の施設とはどこか違うらしいという思いでお引き受けすることになりました。
本書は、小児麻酔の臨床に限定しました。執筆は福岡市立こども病院・感染症センターの麻酔科医師が主となり、新生児科の医師にもお手伝い頂きました。特徴は、題名「よくわかるこどもの麻酔」に表れているように「理解しやすい」ということに主眼をおいています。これは経験をもとにして書いたからこそ実現できたと思っています。現場の麻酔医だけではなく、小児麻酔を勉強してみようと思われる医師ならびに研修医、医師を目指して勉強している医学生、さらに医療現場で働くコメディカルやコメディカルコースの学生の方々にも理解しやすいよう、執筆者の先生方にお願い致しました。今回の企画は、われわれ自身が臨床を見直し考える、またとない機会となりました。
本書が麻酔医だけではなく、多くの医師・学生の方々に利用され、新生児および小児医療のさらなる進歩・発展に貢献し、多くのこどもたちの役に立つことを願ってやみません。