序文
リウマチ患者が非常に多いことは,WHOと国連が“骨・関節の10”というキャッチフレーズで,リウマチ病の対策に乗り出してきたことからも明らかである.この数の多い患者を専門的に扱う医者が必要なことは言うまでもない.
この医者は四肢・脊椎の骨・関節に関する広い知識と治療手技を身につけていなければならない.痛みを抑えたり,除去したりする技術を駆使できることは望ましいが,まずうまく診断できて,その病気の予後についてよくわかっている必要がある.本書ではこのようなリウマチ医の期待に応えるように心がけてテーマを選択した.
リウマチ病のなかでも数の多い腰痛,OA,骨粗鬆症については,今回は仙腸関節の痛みと病理,股関節のOAの疫学,関節洗滌による膝OA治療など取り上げ,また骨粗鬆症の新しいエストローゼン治療が紹介されている.そのほか,患者の多い頸痛の治療については清水先生から丁寧な解説をいただいた.
リウマチ病のなかでも最も関心の深いRAの治療についての3つのテーマ─1)ステロイド治療の現状,2)新しい治療薬の紹介と展望,3)今後重要性が増してくると思われる患者教育─は,いずれも日常の診療に大いに役立つものと思う.またリウマチ病と感染の問題は古くから盡きないテーマであるが,今回塩沢和子先生にRAを中心にレビューをお願いした.わが国ではreactive
arthritisの報告が少なく,今後この問題に関心を持ち続けることが必要ではないかと思う.そのほか,新しいミオパチーとしてのmacrophage
myofasciitis,新たに分離されているmicroscopic polyangiitis,SLEと妊娠,サルコイドーシスがあり,後2者は執筆者の豊富な臨床経験に基づくもので,いつもながら炎症リウマチは多彩な内容となっている.
OAやRAの治療法で画期的なものは,何といっても人工関節手術であるが,いちばん難しい指の人工関節について,政田先生の開発されたものが紹介されている.また,生体材料のうちでもとくに難しい人工軟骨の開発について長年携わってこられた岡教授の貴重な成績が述べられていて,啓発されるところが大きい.
そのほか,低リン血症,hyperlipidemiaの患者に見られるリウマチ症状,あるいはparaneoplastic syndromeはリウマチ医が日常の診療で心得ておるべき知識で,最近知見も増えてきている.透析患者のリウマチ症状としては,脊椎骨の破壊性変化が重大であり,症例も多く,間然するところのない圓尾教授の話に関心させられた.
リウマチ学もほかの領域と同様に,遺伝子の研究が大きく発展してきて,やがて日々の診療でも必須の情報になるものと思われる.今回は期せずして遺伝子に関するテーマが多くなり,RAについての塩澤教授の世界の先駆的な論文のほか,骨粗鬆症については上好教授の,fibrodysplasia
ossificans progressivaについては橋本先生の論文があり,遺伝子研究の大きな歩みを辿ることができる.なかでもchondrodysplasiaにおける遺伝子分類には目を見張るものがあり,安井教授の文章は印象的である.
このほか,ここに取り上げなかった多くのテーマがあるが,すべてリウマチ学の進歩を伝えてくれるものである.
リウマチ病の輪郭は次第にはっきりとしてきてはいるが,その抱含する医療分野が広く,いかに構築するかは難しいところである.しかし患者は格段に多く,その対策は国の財政にも大きく関与し,それだけに興味の盡きない領域である.
最後に,献身的に手伝っていただいた中川夫人に厚く御礼申し上げる.
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