ISBN 4-8159-1593-8
書名 実地医家のための痛み読本

編著者

宮崎 東洋(順天堂大学医学部麻酔科 教授)/小川 節郎(日本大学医学部麻酔科 教授)

目次
  • A.痛みの総論
      1.痛みに関連する事柄
       1 痛みの定義/2 痛みの不思議
      2.痛みの簡単な機序
       1 痛みの受容器/2 内因性発痛物質/3 痛みの求心路および侵害刺激の伝導/ 4 生体内の鎮痛機構/5 内因性オピオイドペプチド
      3.痛みに用いる特殊な言葉
      4.痛みの臨床的評価法
       1 実験的疼痛測定/2 臨床的疼痛測定
      5.痛みの診断の基本
       1 痛みの分類/2 痛みの診察
      6.痛みの治療に用いる薬物(経口薬・坐薬・注射薬・外用薬)
       ■麻薬性鎮痛薬
        1 麻薬性鎮痛薬の原料/2 アヘンアルカロイドの構成成分/ 3 麻薬性鎮痛薬の作用部位/4 麻薬性鎮痛薬によって起こる作用/ 5 麻薬性鎮痛薬の種類/6 依存形成/7 耐性の発現
       ■拮抗性鎮痛薬
        1 概念/2 用量−反応曲線における特徴/3 種類
       ■非ステロイド性鎮痛薬
        1 作用機序/2 適応性/3 分類/4 副作用/5 他の薬物との薬物間相互作用/ 6 具体的な使用法
       ■ステロイド性鎮痛薬
        1 副腎皮質ホルモンの作用/2 適応/3 ステロイド薬の種類と投与法/4 副作用
       ■鎮痛薬以外の薬剤
        1 抗うつ薬/2 抗痙攣薬/3 抗不安薬/4 催眠鎮静薬/5 抗精神病薬/6 抗不整脈薬/7 交感神経抑制薬/8 血管拡張薬(カルシウム拮抗薬/9 末梢循環改善薬/10 低血圧治療薬,血管収縮薬/11 抗セロトニン薬/12 NMDA受容体拮抗薬/13 中枢性筋弛緩薬,痙性治療薬/14 その他
      7.痛みの理学療法
       1 リハビリテーションにおける理学療法/2 理学療法/3 痛みの理学療法との関係/4 有痛性運動器疾患に対する理学療法/5 慢性難治性疼痛に対するリハビリ・チームアプローチ
      8.実地医家にできる神経ブロック
       神経ブロックについて/実地医家にできる神経ブロック/トリガーポイント注射/前頭神経ブロック/眼窩下神経ブロック/耳介側頭神経ブロック/後頭神経ブロック/浅頸神経叢ブロック/肩甲上神経ブロック
     9.小児の痛み
       1 新生児の痛みの発達とその特徴/2 痛みの評価/3 小児癌と痛み
     10.ペインクリニックへのご招待
       1 ペインクリニックとは/2 ペインクリニックで取り扱う疾患/3 ペインクリニックで行う特殊な検査/4 ペインクリニックで行う治療法

  • B.痛みの各論−診断と治療−
      1.頭痛・顔面・口腔内の痛み
       1 緊張型頭痛/2 片頭痛/3 群発頭痛/4 特発性三叉神経痛 /5 舌咽神経痛/6 急性副鼻腔炎/7 術後性上顎(頬部)嚢胞/8 顎関節症/9 舌痛症/10 抜歯後疼痛症/11 二日酔いによる頭痛
      2.頸・肩・上肢の痛み
       1 外傷性頸部症候群/2 頸椎症性神経根症/3 頸椎椎間板ヘルニア/4 胸部出口症候群/5 肩関節周囲炎/6 いわゆる肩こり/7 テニス肘(上腕骨外上顆炎)/8 肘部管症候群/9 手根管症候群
      3.胸・背部の痛み
       1 肋間神経痛/2 前胸部痛(胸肋鎖骨異常骨化症と関連病態)
      4.腹部の痛み
       1 慢性腹痛/2 慢性膵炎/3 尿管結石症/4 月経困難症
      5.腰・舌肢の痛み
       1 急性腰痛症/2 慢性腰痛症/3 腰椎椎間板ヘルニア/4 腰部脊柱管狭窄症/5 椎体椎間板炎
      6.関節の痛み
       1 慢性関節リウマチ/2 変形性膝関節症
      7.全身の痛み
       1 多発性筋炎/2 皮膚筋炎/3 筋・筋膜性疼痛症候群/4 びまん性筋・筋膜性疼痛症候群/5 スポーツによる筋ニック痛(明らかな筋線維の断裂と不全断裂による筋肉痛以外の,いわゆる筋肉痛について)
      8.進行がんの痛み
       ■がん性疼痛の薬物治療の基本概念/■経口投与によるがん性疼痛の治療/■非経口投与法/■副作用対策/■モルヒネが効かない,または効きにくい痛み/■鎮痛補助薬/■神経ブロック/■病期による痛みの治療/■ペインクリニックへの紹介
      9.術後・外傷後などに遷延する痛み
       1 反射性交感神経性ジストロフィー/2 カウザルギー
      10.帯状疱疹の痛み
       ■診断/■治療/■帯状疱疹後神経痛
      11.血行障害による痛み
       1 閉塞性動脈硬化症/2 閉塞性血栓血管炎/3 レイノー病
      12.慢性愁訴としての痛み
       1 心理的な痛み/2 会陰部・肛門部痛 13.代謝性疾患による痛み  1 糖尿病性末梢神経障害/2 痛風
本体価格 定価(本体6,200円+税)
仕様 A5判 404頁 図99(写真42,カラー3) 表113

序 文
 痛みについて,世界疼痛学会(IASP:International Association of Study for Pain)は,「痛みは組織の実質的または潜在的な傷害に結び付くものか,このような傷害を表す言葉を使って述べられる感覚,情動体験である」と定義している.
 近年,医学の進歩は目覚ましいものがあるが,それが直ちに多くの疾病の克服に役立つものではない.医療は医学が社会的に受け入れられた時に成り立つものであるという厳然たる事実が存在している.今日,どのような疾病も完治させうる可能性が多く示唆されるようになっただけであり,そのすべてが治せる時代になったわけでは決してない.
 現在の医療では,根治させうるものとそうではないものが,明確に判断・区別できるようになったというレベルにあるといえる.
 したがって,難治性の疾病の解決に大きな努力が傾けられる一方,cureよりcareをという医療の大切さも強調される時代となっている.すなわち,患者のQOLの向上・維持に重点をおく医療ともいえる.  痛みは生体に生じた異常を知らせるサインの一つであり,それのみを消失させても根治療法とはならないので意味がないとする考え方が根強く残っていることは確かである.
 もちろん,原因を消失させることが可能であればそれを企てるべきことは当然のことである.一方,がん性疼痛のように,原因がわかっていても,根本的に痛みを消失させうる方法がない痛みも存在する.しかし,根本療法がないからとして放置し,患者に苦痛を与え続けることは医療者にとってはいかにも悲しいことである.さらには,まったく原因を特定できない痛みもわれわれの周りに多く存在する.
 このような多用な痛みを理解していたのであろう医聖ヒポクラテスは「痛みを御するは神の業なり」と述べたと聞き及んでいる.
 確かに,それを専門としているわれわれにとっても,痛みの治療は難しいといわざるを得ないところがある.しかし,近年の痛みに関する機序の解明やそれによってもたらされた治療法の進歩・変遷にはかなりなものがある.痛みを訴える患者を診て,顔や頭が痛くとも,胸が痛くとも,腰が痛くとも“はいどうぞ,痛み止めです”と消炎鎮痛薬を処方する時代では少なくともなくなったのである.
 高齢化社会を迎えて,痛みを主訴として一般医家を受診する患者は増えこそすれ減ることはないと思われ,これらの患者に対して第一線の場でも,今日の痛みに関する常識を踏まえて対応していただきたく,本書“痛み読本”の発行を企画した次第である.
 今回各種の分野の第一線で活躍する多くの方々に執筆を依頼したのは,単に痛みの何たるかを理解してほしいからではなく,日常の臨床で“痛みの治療の入門書”として,本書を活用していただこうと考えたからである.
 本書が,諸家の日常診療に寄与し,引いては患者のQOLの維持・向上に役立つことを願うものである.

実地医家のための痛み読本


カートに入れる 前のページに戻る ホームに戻る