序 文
1996年夏の腸管出血性大腸菌O-157による大規模な集団発生は,感染症に対する考え方を国家の危機管理の面からも認識させるような出来事になった.一時期,先進国では抗菌剤の発達により感染症は解決済み,という感があったが,1973年以後にはレジオネラ肺炎,TSS,AIDS,腎症候出血熱,O-157などの新たな感染症も発見され,1990年代初めよりWHOでは,新たな感染症の問題を提起して新興,再興感染症という概念を導入し精力的に取り組み始めた.
一方,わが国では明治30年に制定された伝染病予防法の下で感染症の対策,予防が管理されていたが,平成11年に「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症新法)として100年ぶりに制定され,わが国の感染症対策が21世紀に向けて新たな歩みを始めることになった.
このような状況下でこの度,「今日の治療シリーズ」で小児の細菌感染症のお話を頂いたことは実に時を得た企画と考え,浅学非才を省みず,編集を引き受けた次第である.
従来の感染症の単行本では,化学療法や起炎菌別抗菌療法を主体とした企画が多く見受けられた.細菌感染症の診断は臓器別には比較的可能だが,起炎菌はなかなか同定できないこともあるので今回は現在の臨床の場に合った分け方を行い,それぞれの専門分野の先生方に執筆をお願いした.また最近ではいろいろなタイプの多剤耐性菌の出現もあるが,抗菌剤の進歩により殺菌することが可能となりつつある.そしてそのとき遊離される毒素や細胞壁成分は生体に過剰な炎症反応を起こさせ,多臓器に障害を残したり,重症化の要因にもなっている.またO-157の集団発生時にみられたごとく,感染症の対策は院内感染対策上はもちろん,国家危機管理上でも大変重要であることを鑑み,細菌感染症を引き金とする免疫反応の異常と防御対策の項目を加えさせて頂いた.
本書が小児科診療の現場では研修医や勤務医,あるいは開業医の先生方,さらに医学生にも役に立って頂ければ編者として望外の喜びである.
本書の完成にあたり,多くの小児科医並びに皮膚科の先生方にご協力頂いた.ここに厚く御礼申し上げる.
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