序 文
本書の初版が昭和61年に出版されてから14年の歳月が経過した.振り返ってみると,昭和60年の脳血管疾患による死亡率は約135千人で死因の第3位,平成10年は138万人で死因別では第3位とあまり変化をみせていない.一方,平成8年の厚生省調査によれば,身体障害者数は約2,933千人であり,過去の調査推移からみると,ますます増加の傾向にある.年齢別では60歳以上が67%,原因疾病別では脳血管障害が12.2%で第1位になっている.このような状況下で脳卒中のリハビリテーション医療はヘルスケアの主要テーマのひとつとなっている.
昭和28年制定の老人福祉法,昭和58年制定の老人保健法,平成元年以降のゴールドプランおよび新ゴールドプランの推進,そして平成9年の介護保険法制定など,ここ10数年の間に脳卒中患者のリハビリテーションをめぐる制度やサービス提供の場に大きな変化が生まれている.歴史的には,青壮年を対象としたリハビリテーションは,診療では障害者の日常生活活動における自立,それに続く職業リハビリテーションでは就業という帰結を目標にして進められてきた.しかし,脳血管疾患をはじめとして,慢性進行性疾患に罹患した人々,とくに高齢者を対象としたヘルスケアでは,障害の進行予防あるいは機能維持を目的として,既存のリハビリテーション医療技術を用いて,障害者の余暇活動と在宅生活を支援することに重点が移っている.そのことが,サービス提供施設の多様化,また複雑化した制度と関連している.脳卒中患者に対しては,状態像や発症からの期間,サービス提供施設と利用制度についての理解を欠いては,良質かつ適切な医療の提供は不可能であろう.
本書は,脳卒中患者急性期のICUから療養型病床群までの入院リハビリテーション,さらに老人保健施設あるいは在宅・居宅サービスを念頭において,必要とされるリハビリテーション医療技術を記述している.われわれの脳卒中患者に対するリハビリテーション医療技術は発達的アプローチに依拠し,リハビリテーションの帰結を評価するのに発達的原理を応用した尺度が用いられている.そのため,本書で取り上げている諸技法によって,どのような帰結が得られるかに関する推論の過程も容易に理解されるはずである.
初版の上梓時には研究途上であった脳卒中患者の機能予後予測も複数の医療提供施設で実用に供されている.それに基づく入院リハビリテーション過程の管理,すなわち帰結およびプラン,プログラムの変更と修正,患者や家族への説明も取り上げ,具体例で示した.理論的根拠についての解説も加えた.本書は,脳卒中の急性期治療とそれに続く入院リハビリテーションに重点をおいているが,理学療法や作業療法の技法は訪問リハビリテーションや通所リハビリテーション,また機能訓練にも利用できる.サービス提供施設の種目,対象となる患者あるいは障害者の人口学的特徴,さらにコミュニティの文化的特性などを考慮して適切な技法の組み合わせでプランとプログラムを作成するのに活用されることを希望する.
本書の編集に当たって,長岡,佐直,千田,森山の4君には,年余にわたってご尽力を頂いた.心から謝意を表する次第である.
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