序 文
糖尿病患者数は年々増加しており,今では予備軍を含めると一千万人を超えると考えられています.本疾患の初期は,痛みとか苦しみというような症状が無く,逆にそのような症状が出てからでは遅いというのが現状です.人間ドックで耐糖能異常を指摘され,以後食事や運動などを含めた生活の改善により,糖尿病発症を食い止めたというような症例はまだ必ずしも多くはありません.むしろそのような生活習慣の改善が充分にできずに,糖尿病へと進行していく人が多数であると思われます.現に,後天的失明や新たに人工透析が導入される原因疾患の一位が糖尿病であります.
一方,医師の側も糖尿病の診療経験が充分でない場合,ただ空腹時の血糖と尿糖を見るだけで漫然と血糖降下剤を投与していることが決して少なくはありません.そしてある日急に目が見えにくくなって眼科に行き,眼底出血や硝子体出血と診断され,糖尿病診療科に紹介される場合がよく見受けられます.
そのような観点から,糖尿病診療のレベルアップを図り,臨床の現場で役に立つ教科書を作製することを合言葉に,日頃から糖尿病診療に携わっている弘前大学医学部第三内科および同門の人々の知識,経験を結集してできたのが本書であります.数多くの臨床例を掲載して,臨床経験の少ない人にも理解できるよう配慮したつもりであり,さらに新しい診断基準の説明,検査法,日常生活の指導と患者教育,治療法の選択とその実際,専門医への紹介のタイミングなどもきめ細かく記載されています.
このように,臨床の現場から得られた経験を数多く盛り込んだ本書が,糖尿病臨床の教科書として,臨床医学の道を志す医師の方々にとって座右の書になることを期待しています.
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