序 文
わが国では高齢化に伴い医療が果たすべき役割は大きく変貌している.医療技術の進歩は医療経済に拍車をかけ,社会全体の不況にも拘わらず平成10年度の医療費は29兆円にも達している.また,脳死臓器移植や遺伝子治療,性転換手術なども施行可能となったことから国民の医療に対する関心は高まり,医師に対する要求も日増しに増えている.医療の在り方からすれば当然の成り行きであり,既にインフォームドコンセントは日常診療に定着し,病名告知やカルテ開示も推進されつつある.さらに,かかりつけ医機能の充実を目的として新たな認定(専門)医制度が審議されている.在宅医療に向けて各種医療従事者との連携の必要性も高まり,医師はこれら新たな医療構造の変化に対応し,最新の知識や技術を習得することが益々必要となってくる.
肝臓病はわが国における死因の上位を占めている.働き盛りの中高年層に限ればさらに上位となる極めて重要な疾患である.主要死因となる肝硬変や肝癌は,成因の80%以上が肝炎ウイルスがもたらす慢性肝炎からの進展である.したがって,それらへの対策は肝臓病の立場ばかりでなく,医療全体にとっての重要課題である.
最近の肝臓病学における進歩には目覚ましいものがある.既知のAからE型肝炎ウイルスに加え,G型肝炎ウイルスやTTウイルスが提唱され,それらの臨床的意義も検討されつつある.慢性肝炎に対する画期的なインターフェロン療法の限界も明らかとなり,新たな方策として様々な試みが進められている.また,肝硬変の致命的な合併症である脳症や食道静脈瘤に対する各種治療法が開発され,延命効果が得られている一方で肝癌による死亡者が増加しているが,これに対する新たな治療法も次々と登場し,長期生存者も見られるようになっている.
本書は,第一線の医師が日常診療のなかで必要となる肝臓病の治療の実際を最新レベルで集大成することを目的に企画した.座右の書として活用されるものと確信する.
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