ISBN 4-8159-1578-4
書名 プライマリ・ケアのための心の病 診療プラクティス
編者名 清水  信(常盤台病院 院長)/中山 和彦(東京慈恵会医科大学精神科 助教授)
目次
  • §1.本書の構成と利用のしかた
     本書の構成(内容の紹介)と利用のしかた

  • §2.心の病への手がかり−精神医学概論
     精神医学における健康と病的状態
     心の病のいろいろ;神経症と精神病
     からだの病と心の病
     心の病の原因と分類
     脳の変調と精神障害,トピックスなど

  • §3.精神症状のとらえ方−診療をめぐって
     診断の手がかり
     診察の実際
     診察録の作成

  • §4.精神科における症状群・状態像
     精神症状群と病因,総合診断
     各症状群・状態像の特徴
     神経心理学的症候群(巣症状)

  • §5.症状精神病の診断と対応−身体疾患による精神障害
     症状精神病とは何か
     症状精神病の症候
     症状精神病の診断と治療
     各論

  • §6.器質精神病の診断と対応−脳の病変による精神障害
     症例
     症状
     診断の着眼点と鑑別診断
     治療
     その他

  • §7.中毒性精神病の診断と対応−薬毒物による中毒・依存
     中毒性精神病とは
     物質依存とは
     日本における物質乱用と一般医療機関受診状況
     アルコール
     アルコール以外の物質による依存症

  • §8.不眠の診断と対応
     不眠の定義
     各種の不眠の診断頻度
     不眠の分類
     不眠の診断
     各種の不眠
     治療

  • §9.神経症・心因反応の診断と対応
     神経症の診断
     神経症・心因反応の対応

  • §10.躁うつ病の診断と対応
     病因
     有病率,性差,好発年齢
     病型分類
     病前性格
     契機,誘因
     症状
     診断と対応
     治療

  • §11.精神分裂病の診断と対応
     疾患の解説
     症状
     病型分類
     診断の着眼点
     鑑別診断
     治療
     精神科専門医に紹介する際の留意点
     どのような精神科治療機関へ紹介するか?

  • §12.非定型精神病の診断と対応
     非定型精神病の概念と種類
     症例呈示
     診断のポイント
     対応のポイント

  • §13.てんかんの診断と対応
     診断
     治療

  • §14.児童・思春期の精神科的諸問題
     注意欠陥/多動性障害
     学習障害
     不登校
     乱暴な子ども・反抗的な子ども
     身体表現性障害
     摂食障害
     排泄の障害
     選択性緘黙
     子どもの虐待
     遊戯療法

  • §15.高齢患者の精神科診療
     初老期・老年期のうつ病
     老年期の痴呆
     老年期のせん妄・意識障害

  • §16.がん患者に対する精神科的診療と緩和ケア
     緩和ケアと全人的医療
     末期がん患者の病態生理
     末期がん患者の心理過程
     がん患者の呈する精神症状
     がん医療におけるチーム医療
     精神的苦痛を抱えたがん患者への対応

  • §17.災害とストレス関連障害
     わが国での震災後の教訓
     急性ストレス障害(ASD)および外傷後ストレス障害(PTSD)
     賠償などの絡む患者の取り扱い

  • §18.精神科診療における画像診断
     脳血管性障害
     痴呆
     てんかん(側頭葉てんかんを中心に)
     精神分裂病
     気分障害

  • §19.精神療法・カウンセリング・家族療法
     ある面接のこと

  • §20.精神科の薬物療法
     向精神薬の分類
     抗精神病薬
     抗うつ薬
     抗不安薬
     抗躁薬・気分安定薬
     精神刺激薬
本体価格 定価(本体7,200円+税)
仕様 B5版 250頁 図32 写真25(カラー2) 表40

本書の構成(内容の紹介)と利用のしかた  
  はじめに本書の構成・内容のあらましと利用法について説明する.ここではそれぞれの章の内容に触れた後,プライマリケアの立場から,心の病にみられるさまざまな症状群・状態像をどのようにとらえ,その結果をどのように暫定診断・治療に結びつけるかについて,本書のねらいを解説した.  
 本章に続く第2章「心の病への手がかり」では,臨床医学全体のなかでの精神医学の立場,身体疾患と比べた精神疾患の特異性・原因・分類などの解説や,最近の精神医学のトピックスについて述べた.いわば精神医学の序論にあたる部分であるが,ここでは一般の臨床家の方々が身体医学の立場や経験に基づいて精神疾患を全体としてどうとらえ,どう扱うべきかが理解できるような記述に心がけた.
 第3章は,診断の手がかり,診察の実際(問診に際しての留意事項),診療録の作成の項からなり,実際にどのように個々の精神症状をとらえ,診断・治療に結びつけるかのポイントが解説されている.  
  ところで,「心」を構成する要素は一般に,知・情・意に大別される.このうち知は思考を中心とする知的機能,情は意欲・行動をさす.これらの精神機能の活動の基礎となるのが意識である.意識もやはり脳の機能の一つであるが,心の働きが目的に沿って現実的に行われるためには,まず意識が清明でなければならない.つまり,覚醒しており,周囲や自分自身の状況を正しく認識していることが必要である.意識のにごりの有無を確認することは,診断の重要なポイントといえる.
 心の病では知・情・意の障害や幻聴・幻視といった知覚の障害などが一定の様式の組み合わせとして現れることが多い.このような症状の組み合わせが症状群であるが,症状または症状群でかたちづくられた全体像は状態像とよばれる.
 第4章では,心の病にみられるさまざまな症状群や状態像を体系的に取り上げ,説明されている.それぞれの状態像や症状群について,[基本的な症状],[主な病因(原因となる疾患名)]があげられ,それがどのような訴えや状態として現れるかが具体的に述べられる.この章は第3章と並んで精神医学の総論にあたるもので,はじめから時間をかけて精読することは必ずしも必要ないが,まず一通り目を通し,精神症状群全体をおおまかにつかんでおくことをお勧めしたい.
 診断のための診察では,まず患者にみられる症状群のタイプをみきわめ,その症状群を示す疾患を念頭に浮かべる.そして患者の年齢,性別,症状の起始・経過,既往歴などを考慮しながら最も可能性の高いものを選んで暫定診断を行うのが普通である.この場合,ある症状群がどのような疾患にどれくらいの頻度で現れるかがわかると大きな助けになる.
 このために図2(省略)を利用することができる.この図は,いろいろな精神科的状態像・症状群が,主な精神疾患に際してどの程度の頻度でみられるかを4段階に分けて示したものである.図の縦軸には各種の精神医学的症状群が,横軸には精神疾患が並べられ,両者の交点に各疾患における症状群の出現頻度が段階別に図示されている.
 すなわち,いつくかの症状群や状態像の存在することがわかれば,それらの出現頻度を手がかりにして可能性の高い精神疾患を絞り込むことができる.さらに,第6〜13章の該当する「診断と対応」の記載を参照しながら暫定診断を行うことができる.
 診断にあたって大切なのは,先入観にとらわれず,実際に認められる症状の組み合わせから,症状群・状態像を把握することである.さらに,暫定診断に基づいて治療を開始してからも,症状の経過,治療に対する反応,その他の情報に応じて他の疾患の可能性も視野に入れた柔軟な対応に努める必要がある .
 次に,各論にあたる「診断と対応」の項目では,主として前半の部分(第6〜13章)で教科書的な分類に基づく各種の精神疾患,すなわち神経症・心因反応,躁うつ病,精神分裂病,アルコール依存を含めた中毒精神病,高齢期の痴呆性疾患を含めた器質精神病などを取り上げてある.なお,精神疾患には属さないが,訴えとしてはきわめて頻度の高い「不眠」を別個に取り上げ,原因別の病態と対応・薬物療法の留意点などについて解説した.精神疾患の分類,各疾患の概観については次の第2章で述べた .
 各論にあたる章の多くでは疾患の解説(疾患の歴史,概念,疫学,国際的な分類であるICD-10やDSM-IVのなかでの各疾患の位置づけと下位分類,病因に関する仮説など)がなされ,続いて,症状・診断や鑑別診断の着眼点・治療の要点・症例などが記載されている.実用的な面からは,とりあえず症状・診断などの部分から目を通されるのも一つの利用法であろう.全体的には最近の研究成果などを含めて,かなり高いレベルの内容が盛り込まれている.なお,文中の治療薬には実用上の便宜を考慮して主な商品名を括弧内に記載した .
 以上の第6章〜13章に続いて,アカデミックな疾患分類とは別な観点から,プライマリケアの場面で実際に遭遇する機会の多いいくつかの問題を項目として取り上げた.これには,「児童・思春期の精神科的諸問題」(第14章),「高齢患者の精神科診療」(第15章),「がん患者に対する精神科的診療と緩和ケア」(第16章),大地震や事故と関連の深い「災害とストレス関連障害」(第17章)などがある.実際の臨床場面では,個々の特定の疾患に応じた対応ももちろん大切であるが,患者のおかれた状況,年齢,障害の発生した環境要因などへの配慮が診療の成否を左右するケースが少なくない.特に,精神科以外の臨床科との関連性が強い問題を取り上げた点に,本書の意のあるところを汲み取っていただければ幸いである .
 診断に関連した問題では,近年急速な発展をみせている画像診断の,精神医学における意義や利用上の留意点(第18章)について,図や写真を引用した具体的な解説がなされている.
 前記の各論の部分で,治療を含めた患者への対応が述べられているが,本書のおわりの部分では,心の病の治療に重要な位置を占める精神療法・カウンセリングと,向精神薬物療法についてそれぞれ独立した章を設け,理論と実際からの解説がなされている.
 精神療法については一般からの少なからぬ誤解があり,過小に評価されたり,過大な期待が寄せられ,その実態についての正しい理解が得られていないきらいがある.第19章では精神療法・カウンセリングの基本的な意義や目的が,実際のケースの面接を通してきわめて実践的に明快に解説されている.一般科の医療における精神療法のありかた,家族への対応の要点,効用と限界などについても触れられている.
 終章の主題である向精神薬物療法は,伝統的な治療手段であったインスリン・ショック療法,電気けいれん療法,持続睡眠療法,あるいはバルビツール系睡眠薬の利用などに代わって1950年代のはじめ頃から登場したものである.抗不安薬(minor tranquilizer)や抗精神病薬(major tranquilizer),抗うつ薬などの向精神薬の出現は,精神科治療に対する考え方を文字どおり一新させた.なかでもクロルプロマジンに始まった抗精神病薬の臨床利用は2〜3年という短い期間内に先進諸国に広まり,精神病,特に精神分裂病の治療に対して与えた影響は大きく,「精神薬理学的革命」とよぶにふさわしいものであった.これを契機として精神科治療に対する積極的な取り組みがなされるようになった.新しい各種の向精神薬の研究開発は現在でも続けられているが,この分野はシナプスにおける神経系の情報伝達や分子生物学の問題と関連して,精神疾患の実態の解明への糸口としても注目されている.第20章では,現在日常臨床に利用される向精神薬の分類,作用機序,臨床効果・適応,副作用や精神薬理学のトピックスなど,かなり専門的な問題にわたって基礎と臨床の両面から解説がなされている.
 おわりに
 以上,本書の構成と利用法,内容などについて簡単に解説した.本書はもともと,心の病に悩む人たちをできるだけ広い日常臨床(プライマリケア)の場面で受け入れ,援助できる体制づくりをめざして企画されたものであるが,精神科以外の臨床科の方々に今日の精神医学の姿を再認識していただきたいという意図もこめられている.

プライマリ・ケアのための心の病 診療プラクティス


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