ISBN ISBN-4-8159-1572-5
書名 実地医家のための気管支喘息 その診療と管理
編者名 中村 晋(大分大学前教授)
目次
  • 序章
    気管支喘息の診療と管理序論
     1)歴史的経緯
     2)日常生活環境における抗原の意義
     3)気管支喘息治療組み立ての原則

  • I.原因療法
    1.抗原の診断とその除去回避
      1)抗原の診断について
      2)抗原の除去回避
    2.減感作療法
       1)アレルギー治療のガイドラインにおける減感作療法の位置づけ
       2)減感作療法の実際
       3)減感作療法の効果
       4)減感作の機序
       5)減感作療法の将来

  • II.対症療法
    1.成人気管支喘息治療ガイドライン
      1)喘息は慢性の気管炎症   
      2)喘息治療の目標
      3)喘息長期管理の4段階
      4)自己管理のためのゾーンシステム
      5)アレルゲン回避など
      6)急性憎悪(発作)への対応
      7)わが国の治療ガイドラインと欧米のガイドラインの比較
      8)ステロイド吸入療法が成功しない場合は何を考えるべきか
      9)ステロイド吸入の早期大量療法(step upよりstep downへ)
    2.小児気管支喘息治療ガイドライン
      1)急性発作に対する治療
      2)長期管理の薬物療法プラン
    3.気管支拡張剤
      1)気管支喘息治療薬の分類
      2)気管支拡張剤の種類
      3)ガイドラインの中での気管支拡張薬の役割−ピークフローメーターと喘息日記−
    4.テオフィリン
      1)テオフィリンの薬理作用
      2)テオフィリンの気管支拡張作用と血清濃度
      3)テオフィリンの抗炎症作用
      4)テオフィリン製剤の種類
      5)テオフィリンの副作用と投与量
      6)血中テオフィリン濃度の測れない施設での投与
      7)テオフィリンのクリアランス
      8)急性発作に対してのテオフィリン
      9)慢性喘息のコントロールのためのテオフィリン
     10)血中テオフィリン濃度の測定時期
     11)血中テオフィリン濃度測定法
     12)テオフィリン中毒の治療
     13)妊娠時,授乳時のテオフィリンの投与
    5.ステロイド
      1)喘息におけるステロイド薬についての流れ
      2)喘息の長期管理におけるステロイド薬の吸入療法
      3)急性憎悪に対するステロイド薬
      4)難治性喘息およびステロイド抵抗性喘息
      5)副作用
      6)ステロイド薬による薬物喘息
      7)吸入ステロイド薬は喘息死を減少させ得るか
      8)新しい吸入ステロイド薬の開発
    6.抗アレルギー剤
      1)抗アレルギー剤の種類と作用機序
      2)各種抗アレルギー剤の特徴
      3)抗アレルギー剤の使い方
    7.漢方薬
      1)漢方医学における気管支喘息の考え方
      2)気管支喘息治療に適用される漢方方剤
      3)漢方薬の副作用について
      4)柴朴湯の最近の知見および長期投与成績
    8.重症喘息発作の治療
      1)重症発作について
      2)喘息死の実態
      3)JGLにおける重症気管支喘息発作時の治療手段
      4)喘息救急医療のあり方と喘息死の予防対策
    9.難治性喘息の診療と管理
      1)定義
      2)臨床像
      3)アスピリン過敏
      4)ガイドラインにおける位置づけ
      5)治療と管理
      6)症例
    10.心因の関与する喘息
      1)心因が関与することを示す実地臨床上のサイン
      2)心因を確認する方法
      3)治療法の選択をどうするか
    11 .成人喘息における合併症への対応と日常生活指導
      1)気管支喘息の合併症について
      2)合併症への対応と日常生活指導について
    12.小児の薬物療法における留意点
      1)総論的検討
      2)各論的検討
    13 .小児の日常生活指導の重要性
      1)日常生活指導・助言の実際
    14.ダニ対策
      1)アレルゲンについて
      2)ダニ・アレルゲン除去・回避対策の実際

  • III.特殊な気管支喘息の診療と管理
    1.アトピー性皮膚炎を伴う気管支喘息:小児科より
      1)気管支喘息とアトピー性皮膚炎の疫学
      2)気管支喘息とアトピー性皮膚炎の起因抗原
      3)アトピー性皮膚炎発症による気管支喘息発症の予知
      4)気管支喘息とアトピー性皮膚炎を合併した症例の治療
      5)アトピー性皮膚炎児の気管支喘息の予防
    2.気管支喘息を伴うアトピー性皮膚炎:皮膚科より
      1)アトピー性皮膚炎の概念の提唱
      2)アトピー性皮膚炎と気管支喘息の合併
      3)アトピー性皮膚炎はアトピー性疾患か?
      4)アトピー性皮膚炎はバリヤー病か?
      5)アレルギーマーチは存在するか?
       6)気管支喘息を合併するアトピー性皮膚炎の治療
      7)アトピー性皮膚炎の治療ー皮膚科の立場よりー
    3.職業性喘息
      1)職業性喘息の定義
      2)職業性喘息の診断
      3)職業性喘息の予防
      4)職業性喘息の治療
      5)職業性喘息の種類とその対応
    4.薬物に起因する喘息
      1)アレルゲンとして働くもの
      2)ハプテンとして働くもの
      3)アナフィラキシー様反応
      4)自律神経への作用
      5)標的器官に対する作用
    5.食物に関連する喘息
      1)食物に起因する喘息の診断と治療
      2)食物アレルギーの鑑別
      3)食物依存性運動誘発アナフィラキシーにおける呼吸器症状
本体価格 7,600円
仕様 B5版 本文210頁 50図 76表

緒言  
  気管支喘息−一般社会でも喘息といえば最も広く知られる疾患の一つで,誰しも "あゝあの苦しい病気か"と理解してくれると思われる.しかしこのpopularな疾患も実は2000年以上の歴史をもち,有史以来,治療,症状,克服には難渋を来たし,それぞれの時代の叡智を傾けて努力が払われてきたと推測される.疾病本態についての考え方,そしてそれへの対応も様々な変遷を経て,揺れ動いてきたことも確かで,現在に至るも定見といわれるものはなお存在しない.アレルギー学者にいわせればアレルギーがalmightyとするであろうが,病態整理の研究者は肺機能一辺倒で定義すら諸説粉々である.
  もともと喘息有病率は欧米でもわが国でも人口の約1%といわれてきたが,最近の報告をみると小児で5〜9%,成人では3〜4%とされ,厚生省統計情報部が1991年全国から無作為に抽出した43,808名に行った調査でも呼吸器アレルギー症状を有する10.2%中, アレルギー診断ありとする者が4.4%を占め,医療担当者側からの報告と同レベルであった.したがって本症患者は確実に増加していると考えられ,その背景にはまず生活環境内における感作性物質(抗原)の増加とこれへの濃厚曝露が指摘されている.従来の日本式住宅とは違って最近は鉄筋,プレハブ住宅が普及し高層化した結果,窓にはアルミサッシが使われ気密性を獲得し冷暖房器具も導入されて室温が恒常化し,絨毯,ソファー,ベッドなど洋式の調度品も多用され一見快適な生活が営まれるようになったが,ダニが繁殖するのにも最適の条件となり,家塵中のダニの著明な増加が注目される.しかし同時に湿気が放出されないためかびの繁殖にも適し,掃除を簡略粗雑にし蒲団を干す機会が少ないなどの風潮も相俟ってこれらの抗原への曝露は想像以上に濃厚と考えられる.
 一方,1960年代には各地石油コンビナート工場排気に伴う大気汚染の影響が問題となったが,この方は行政の対応が効果をもたらし改善がみられている.これに代わって自動車・バイク多用のためその排気がadjuvantとして気道過敏性の獲得,喘息症状持続に影響を及ぼすことが指摘されている.さらに近年の食生活の変化,食品添加物の影響,精神的環境の変化,さらには高齢化に伴い生理的加齢現象の上に気道感染,循環器疾患の合併も関与して患者増加をもたらしていると考えられる.
  喘息患者の増加は当然ながらこれへの医療の受容を増大している.喘息症状をいかにして抑え,患者の苦痛を和らげ,患者を喘息死から守るかは診療担当医の重要な義務であると同時に悩みでもあろう.このための指針として学会でも治療ガイドラインが示されたが,これをどう使いこなすかは臨床家に委されている.気管支喘息の定義にも示される通り喘息患者の多くは気道過敏性を有するため微かな刺激により再発症は免れず,steroidにより炎症が解消しない限り症候上の一応のcontrolが得られてもこの状態を脱却できる保証はないのである.
 では臨床医は対症療法のみに明け暮れてよいのであろうか.私はそうは思わない.ここでmodelとして職業性喘息を引き合いに出してみると,この疾患は従業者は一定の職業環境下に存在する抗原に曝露を繰り返しているうちに感作が成立すると,この物質に対して特異性をもつ過敏反応として喘息発症に至る.抗原の種類により,また曝露条件により発病率は5〜50%と差がみられるが,一般の気管支喘息のそれに比し高率で,この数字は限られた環境内における抗原への濃厚曝露による発症の上限を示すものといえないだろうか.しかも作業方法を改善し,作業環境調整をはかり,各従業者の防禦措置を徹底すれば確実に罹患率が低下することが示されており,抗原への対応がいかに重要であるかを物語っている(第1章文献4)参照).  
  ここにおいて一般の気管支喘息についても抗原への認識を新たにする必要性を私は指摘したい.原因抗原を確定しこれへの適切な対応がなされれば,それまで慢性的喘息症状を呈していた患者も良好な管理下におかれ,症状改善をみるcaseも決して少なくないはずである.1996年9月より診療科"アレルギー科"が実現した背景には,1人でも多くのアレルギー患者の診療と管理が前進するようにという希望と祈りが込められていると解したい.これまで各病院のallergy clinicで実施された抗原への対応を含めた診療はいうなれば試行だったと思われる.医療法上の診療科として認められた以上,アレルギー診療は待ったなしの本番,その中心の一つが気管支喘息への診療と管理と考える.今後は専門医,標榜医に限らず喘息診療を担当するすべての実地医家が相互に協力し合うことによって津々浦々の喘息患者に十分応える内容の医療を強力に押し進め,本症増加への歯止めをかけなければならないと考える.本書はそのための一助として各項目それぞれのexpertに執筆していただくことにした.座右に置きご活用いただけたら幸いである.

実地医家のための気管支喘息 その診療と管理


カートに入れる 前のページに戻る ホームに戻る