ISBN 4-8159-1565-2
書名 排卵障害の診断と治療 新訂第3版
編著者名 仲野 良介(著)(和歌山県立医科大学 教授)
目次
  1. 内分泌学の進歩とホルモン概念の変貌:ホルモン,成長(増殖)因子,サイトカイン
     内分泌の概念/ホルモンの概念/ホルモンの種類/ホルモンの産生部位/ホルモン分子の多様性/ホルモンの生合成/ホルモンの分泌調節/ホルモンの輸送と代謝/ホルモンの作用機構/情報伝達系/成長因子/成長因子ファミリー/成長因子レセプター/成長因子による細胞増殖の調節/サイトカイン/サイトカインの特性/サイトカインの分類と作用/サイトカイン・レセプター/シグナリング・システム/免疫ホルモンとしてのサイトカイン

  2. 松果体とメラトニン
     解剖学/松果体ホルモン/メラトニンの生合成と代謝/松果体のリズム/メラトニンの作用/メラトニンの分泌と排泄/メラトニンの間挿的分泌/メラトニンの日内変動(24時間リズム)/光刺激とメラトニンの分泌/メラトニンの卵巣への作用/メラトニンと精神活動/松果体腫瘍/メラトニンの使用と有効性,安全性

  3. 視床下部とゴナドトロピン放出ホルモン
     視床下部−下垂体系/視床下部ホルモン/視床下部ホルモンの脈動性分泌/オキシトシンとゴナドトロピン放出ホルモンの分泌パルス/分泌パルスの調節機構/ヒトにおけるGnRHの分泌動態/ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)の受容体/ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)の下垂体外作用/ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)の分子多様性

  4. 下垂体前葉とゴナドトロピン,プロラクチン
     下垂体の形態学/下垂体前葉におけるゴナドトロピン,プロラクチンの産生細胞/ゴナドトロピン分泌の形態学/ゴナドトロピンの代謝/ゴナドトロピンの化学/ゴナドトロピンの分泌調節/ゴナドトロピンの作用/プロラクチン(PRL)

  5. 卵巣と排卵,および性ステロイド,性腺ペプチド
     卵巣の形態学/卵胞の発育,成熟と閉鎖/ゴナドトロピンの作用/排卵と黄体形成/黄体の存続と退行(退縮)/卵巣のゴナドトロピン・レセプター/卵巣の細胞内シグナリング/卵巣とステロイド生合成/性ステロイドの作用/ステロイド・ホルモンの作用機構/性腺ペプチド/インヒビン・アクチビン/インヒビン・アクチビンの分泌動態

  6. 月経周期
     視床下部−下垂体−卵巣系/月経周期

  7. 症候論:月経とその異常
     月経の定義と正常月経/月経異常

  8. 臨床内分泌診断学
     視床下部−下垂体−卵巣系についての臨床検査法/内分泌学的負荷試験と臨床診断スケジュール/卵巣生検

  9. 臨床内分泌治療学
     治療法の適応と選択/クロミフェン/シクロフェニル/ゴナドトロピン放出ホルモン/ゴナドトロピン/卵巣性ステロイド/エストロゲン/プロゲスチン/卵巣性ステロイド療法/アンドロゲン/ブロモクリプチンとテルグリド

  10. 排卵誘発と卵巣癌
     排卵と卵巣癌/不育/ゴナドトロピンとエストロゲン/排卵誘発と卵巣癌

  11. 思春期
     思春期とは/思春期周辺の内分泌環境/思春期発来のメカニズム/思春期における身体的変化/思春期医学の重要性/病歴聴取と診察/思春期早発(症)(性的早熟(症))/思春期遅延(症)/若年性出血/摂食障害

  12. 生殖年齢(1):排卵障害(無排卵症)性月経異常
     無排卵性子宮出血/無排卵周期(症)/無月経/視床下部性排卵障害(無排卵症)/下垂体性排卵障害(無排卵症)/卵巣性排卵障害(無排卵症)/その他の排卵障害(無排卵症)

  13. 生殖年齢(2):排卵性月経異常および月経随伴症状
     頻発排卵(症)と稀発排卵(症)/排卵性不整周期(症)/中間期出血/黄体期異常/月経前症候群/月経困難(症)

  14. 更年期,閉経,老年期
     卵巣のAgeing/卵巣のAgeingとゴナドトロピン・レセプター/卵巣のAgeingとステロイド産生能/閉経前後の婦人の内分泌環境/閉経症候群とMenopausal HotFlash/閉経とオステオポローシス/閉経と動脈硬化,心疾患/加齢とアルツハイマー病/ホルモン代償療法/ホルモン代償療法をどれくらい続けるか?/ホルモン代償療法は肥満をもたらすか?/子宮摘出術を受けた女性にはエストロゲンのみの投与でよいか?/ホルモン代償療法の功罪/閉経後婦人とアンドロゲン

  15. 索引
本体価格 11,000円
仕様 B5判 382頁/図150(カラー1)/表57

序文
 本書の「初版」が上梓されたのが1977年のことで,この年のノーベル生理学・医学賞はYalow(ラジオイムノアッセイの開発),およびSchallyとGuillemin(視床下部ホルモンの同定)に与えられたことを鮮明に覚えている.1960年に大学を卒業して以来,婦人科内分泌学の研究に携わってきたわたしにとって,この2つの偉業は仕事を進めるうえでの強力な道具立てとなった.  
 「増補第2版」は1981年に出された.改訂したい点は多々あったが,日々の多忙にかまけていくつかの要点を増補するに留まった. それからかなりの年月が流れ,この度ようやく改訂の作業がまとまって,「新訂第3版」を出すこととなった. 
 この間にホルモンや内分泌学の概念は大きく変貌した.「内分泌器官から分泌されたホルモンが血流を経て標的器官に到達し,レセプターと結合して作用を発揮する」という内分泌学の根本理念は揺らいだ.その端緒となったのは前述のSchally ,Guilleminの両グループによって同定された視床下部ホルモンであり,単に向下垂体性ホルモンであるのみならず,シナプスにおける神経伝達物質でもあり,また卵巣や膵ラ氏島で分泌され,作用する局所ホルモンでもあることが判明した.ホルモンとともに,成長(増殖)因子やサイトカインが生理活性物質として登場し,これらは多くの場合,傍分泌,あるいは自(己)分泌の様式で働くことが明らかにされた.1986年のノーベル生理学・医学賞がCohen とMontalcini(神経成長因子,表皮成長因子の発見)に与えられたのは画期的,かつ象徴的な出来事であった.今日では「ホルモン」はホルモン,成長因子,サイトカイン,その他の生理活性物質のすべてを含むと考えられるようになり,「内分泌学」も傍分泌学,自(己)分泌学を包含する分野と位置づけられるようになった.  
 さらに分子生物学万能の時代が到来し,内分泌学もその洗礼を受けて大いなる飛躍を遂げた.この分野でのノーベル生理学・医学賞の受賞者は枚挙に暇がないが,すべてはWatson,Crick ,Wilkins(DNA二重螺旋模型の提唱)に始まる(1953年の"Nature"誌に発表,1962年にノーベル賞を受賞),いわゆるWC元年であり,その後の分子生物学,分子遺伝(子)学の進歩は瞠目に価する.細胞の生死についての見方を根本的に変えたアポトーシスのコンセプトも,DNA 断片化の証明や関連遺伝子の発見により確率された. 
 このような医学,生物学におけるパラダイム・シフトにより,生殖生理学,生殖内分泌学の分野にも驚くべき進歩,発展がみられた.検査,診断法の進歩は申すに及ばず,治療の面では遺伝子組み替えペプチド(recombinant FSHなど)が用いられるようになった. 本書の「初版」「増補第2版」を読みながら,改訂を進めて行く過程で,斯界の進歩と発展に今昔の感にひとしおであり,新たに稿を起こした部分や,全面的に書き改めた部分の方がむしろ多い.  
 「初版」以来,わたしが強調してきたのは「排卵障害の診断と治療」に当たっては,(1)まず,正常な排卵機構の充分な理解が不可欠であること,(2) 月経異常という症候にとらわれることなく,原因となっている排卵障害の病因と障害部位を正しく鑑別したうえで治療方針を決めること,の二点であった.今回の「新訂第3版」でもこの考え方は変わることなく踏襲されている.
 教科書はさておき,わが国の医学専門書で改訂版を重ねる例は少なく,「新訂第3版」の出版は著者にとってこの上ない大きな喜びである.ここに多くの読者諸賢のこれまでのご支持に深謝し,「新訂第3版」についてもご愛読をお願いするとともに,足らざる点,誤れる点はご教示いただければ幸いである.  
 京都大学,神戸大学,和歌山県立医科大学,そしてウースター医学研究所,ミュンヘン大学など,わたしのサイエンティフィック・キャリアーを通じてご指導いただいた恩師と同学(同僚)たち,とくに若い同学(同僚)たちからのご教示に対して深甚なる敬意と謝意を表したい.嶋本都多子博士には図表の作成や校正の過程で多大のお力添えをいただき,感謝の気持ちでいっぱいである.

排卵障害の診断と治療 新訂第3版


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