ISBN ISBN4-8159-1562-8
書名 本音で語る骨粗鬆症の診療
編著者名 細井 孝之編集 東京都老人医療センター 医長
目次

第 I 章 骨粗鬆症診療を始めるにあたって
  1.骨粗鬆症をどのように説明するか
  2.各年齢層における骨粗鬆症予防の目標と実際の指導

第 II 章 骨粗鬆症の診断
  1.診断基準に関する最近の動向と実際の運用
  2.鑑別診断のポイント-1:自覚症状,理学所見
  3.鑑別診断のポイント-2:日常診療における臨床検査
  4.骨量評価-1:自施設で腰椎DXA 装置による測定が可能である場合
  5.骨量評価-2:自施設で腰椎DXA 装置による測定が可能でない場合
  6.脊椎X線写真読影のポイント
  7.骨粗鬆症検診の結果を持参した受診者への対応

第 III 章 骨粗鬆症の治療と管理
  1.骨粗鬆症治療のアウトライン
  2.骨粗鬆症患者の日常生活指導
  3.食事指導の目標と実際の指導
  4.運動療法の意義と実際の指導
  5.転倒予防の指導
  6.骨粗鬆症治療薬の特徴
  7.薬物療法開始の目安と薬剤の選択:女性の骨量低下の病態から
  8.腰背痛の鑑別診断と治療
  9.高度の脊椎変形を伴った患者の治療と管理
  10.大腿骨頸部骨折の術前・術後管理とリハビリテーション

第 IV 章 各科診療における骨粗鬆症治療のポイント
  1.内科外来における骨粗鬆症診療のポイント
  2.産婦人科における骨粗鬆症の診療ポイント
  3.整形外科における骨粗鬆症診療のポイント

第 V 章 骨粗鬆症診療における今後の展望: 我々はどこから来て,どこにいて,どこへ行くのか
  1.我々はどこから来たか?
  2.我々は今どこにいるのか?
  3.我々はどこへ行こうとしているのか?

本体価格 7,600円
仕様 B5版 208頁 84図 56表
序文
 今日,人口高齢化が進むなかで,骨粗鬆症に対する適正かつ効果的な対応が日常診療のなかで求められている.ここ数年,骨代謝領域における研究の進展は目覚ましく,これらを背景に骨粗鬆症の診断,予防,治療に関する情報が蓄積してきた.
<病態の理解>
 骨粗鬆症とは「低骨量と骨組織の微小構造の破綻によって特徴づけられる疾患であり,骨の脆弱性亢進と骨折危険率の増大に結びつく疾患」と定義される.本症は大きく原発性骨粗鬆症と続発性骨粗鬆症に分類することができる.社会の高齢化に伴って患者数が増加し,予防と治療の重要性が高まっているのは原発性骨粗鬆症であり,とくに加齢に伴って発症頻度が増大する退行期骨粗鬆症である.これらに共通する病態は骨吸収を骨形成が上回る,いわゆる骨回転におけるアンカップリングである.骨吸収は血液幹細胞から分化増殖して形成される破骨細胞が,骨形成は間葉系幹細胞から分化増殖してくる骨芽細胞が司るが,両系統間での相互作用にも多彩なものがある.骨吸収,骨形成,それらの相互作用に関して,活発な細胞生物学あるいは分子生物学的なアプローチによって多くの知見が得られた.他の領域と同様に発生工学的な手法による研究も盛んである.これらの情報による病態の新しい理解が将来の骨粗鬆症予防や治療に役立つであろうことは言うまでもない.
 一方,ヒトのさまざまな身体属性は加齢に伴って個人レベルでのばらつきが大きくなっていくことが知られている.これらは生まれつき備わった,遺伝的因子で決定されるものが,次第に環境因子によって修飾されるためと考えられる.骨量は複数の遺伝的因子と環境因子によって決定される多因子性の身体属性の代表的なものの一つである.加齢に伴う骨量の変化(減少)は誰にでも見られるなかで骨折閾値を超える骨量の低下が起こる者と起こらない者がどのようにしてわかれてくるのであろうか?環境因子に関しては,低骨量を起こしうる危険因子の解析という形で抽出されてきた.また,遺伝的因子に関しては,双生児を用いた遺伝学的な研究に加えて,ここ数年,骨代謝に関与する遺伝子の多型性と骨量との関連を解析するという作業が進んできた.この領域は現時点では結論がでていないものの,低骨量の「体質」をなるべく早期に具体的にとらえることにより,より的確な予防策や治療方針の決定に役立てていける可能性がある.また,骨折の直接の引き金となりうる転倒を含めた「骨折」についても危険因子の解析が進んできた.
<診断基準の動向>
 適切な予防と治療には,正確な診断が必要である.骨粗鬆症は,先にも述べたように,低骨量と骨組織の微小構造の破綻によって特徴づけられる疾患であり,骨の脆弱性亢進と骨折危険率の増大に結びつく疾患と定義され,診断基準はこの定義にそったものでなければならない.しかしながら,少なくとも現時点では日常診療のなかで「骨組織の微小構造」そのものを評価することは困難である.このため,実際にはそれを反映する検査所見として骨塩の定量やレントゲン撮影像をもとに診断する.骨粗鬆症の診断において最大のポイントとなる,骨の評価法とそれによって得られる情報をいかに利用するかという点を明示することが骨粗鬆症の診断基準における最も重要な点の一つとなる.また,臨床症状を骨量減少の両方について鑑別診断を行うことが骨粗鬆症の診断におけるもう一つのポイントである.
 わが国においては,厚生省長寿科学研究「骨粗鬆症の予防と治療に関する研究班」(折茂 肇班長)が,退行期骨粗鬆症の診断に際し骨量の減少と臨床症状の2つを重視した診断基準を提唱してきた.これをたたき台として,1994年,日本骨代謝学会の専門委員による検討が開始され,学会の総会にて討議されたのが1995年7月である.さらに改訂が加えられ,1996年度版が現在公表されている.詳細は他章に詳述されているとおりであるが,骨塩定量値の基準値をその根拠ともに示している点と鑑別診断の重要性が強調されている点が特徴である.骨塩定量値のカットオフ値については国際保健機構(The World Health Organization, WHO)の提案と結果的にほぼ同一のレベルとなっている.一方,脊椎のレントゲン写真撮影を必須としているのは日本の診断基準独自の点である.各専門領域の委員によって作製された本診断基準がより広く活用されることが望まれる.なお,この診断基準は女性のしかも原発性骨粗鬆症に関するもののみである.今後,二次性骨粗鬆症や男性の診断基準について議論を深め,作製していくことが必要である.
<骨粗鬆症の予防対策>
 わが国における骨粗鬆症予防対策として特徴的なことは骨量評価を取り入れた骨粗鬆症検診が普及しつつあることである.先駆的な地域においては10年近く以前から行われていたが,平成7年度には老人保健法に基づく基本審査のなかに取り入れられ,それ以降,自治体や検診機関での取り組みが活発化してきた.この事業を通して,骨粗鬆症が複数の環境因子と遺伝因子がその発症に関与する多因子疾患であることを踏まえた,骨粗鬆症に関する啓蒙と正しい理解による予防策の実行(一次予防),疾病の早期発見(二次予防)が進むことが望まれる.一方,骨粗鬆症検診の有用性確認やより効率的な運用を目指した調査研究も必要であり,現在進行しつつある.
<骨粗鬆症治療に関する最近の動向>
 
骨吸収と骨形成に関与する細胞やサイトカイン,ホルモン,そしてそれらの分子生物学的な機序に関する研究の進歩には目覚ましいものがあり,大きな展開を見せている.これらの研究と新しい効果を踏まえた骨粗鬆症の治療薬の開発も期待されている.
 骨粗鬆症の治療薬は,骨吸収の抑制,骨形成の促進または,その両作用を有し,最終的には骨粗鬆症による骨折を予防することを期待して用いられる.これまで利用されてきた,活性型ビタミンD製剤,カルシトニン製剤,カルシウム製剤,イプリフラボン,女性ホルモン製剤に加えて,わが国では,近年ビタミンK2,ビスフォスフォネートが治療薬として加わり,さらに選択的エストロゲン受容体調整剤の登場も期待されている.このように様々な特徴を備えた治療薬が使用可能となった現在,それぞれの薬剤の適正な使用には,これまでの臨床的知見を的確に整理することが必要である.この目的のために現在,骨粗鬆症治療のガイドラインが作製された.
<本書について>
 本書は骨粗鬆症の診療にそれぞれの立場から積極的に取り組んでおられる先生方が執筆された.今後解決しなければならない課題が山積し,日進月歩である骨粗鬆症の臨床において,現時点での最善を期そうという先生方の真摯な姿勢がまさに本音で語られている.日常の診療に活用していただければ幸いである.
本音で語る骨粗鬆症の診療


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