ISBN 4-8159-1561-X
書名 すぐに役立つ外来での患者対応学
編著者名 飯島 克巳 町立八丈病院 院長/自治医科大学 助教授
目次

I.最近のトピックスを踏まえた外来での患者対応法とその実際

  1. 心理社会的アプローチを行う際の医師の基本的な考え方と行動(飯島克巳)
  2. 患者固有の文化・価値観を踏まえた患者へのアプローチ(津田 司)
  3. インフォームド・コンセントを重視した外来診療の実際(前沢政次)
  4. がん患者への病状説明の実際,彼等との交流のあり方(桜井雅温)

II.ライフサイクルでの各段階の患者さんへのアプローチのポイント

  1. 小児期での患者さんへのアプローチのポイント
    (1)(宮本信也)/(2)(佐々木暢彦)
  2. 思春期での患者さんへのアプローチのポイント
    (1)(山内祐一)/(2)(松本清一)
  3. 青壮年期での患者さんへのアプローチのポイント
    (1)特に都市部サラリーマン(職場不適応)を中心に(津久井要・山本晴義)(2)特に家庭の主婦を中心に(櫻本美輪子・久保木富房)
  4. 更年期での患者さんへのアプローチのポイント
    (1)特に心身医学的立場から(桂 戴作)(2)特に婦人科的立場から(玉田太朗)
  5. 高齢期での患者さんへのアプローチのポイント
    (1)(芝山幸久・筒井末春)/(2)(灘岡壽英)

III.家族との交流,家族へのアプローチのポイント

  1. “患者さんに重大な病気がみつかった”
    (1)(太田大介・筒井末春)/(2)(鈴木荘一)
  2. “どうしても患者さんの家族の協力がいる”
    (1)(葛西龍樹)/(2)(渡辺 象)/(3)(佐々木將人)
  3. “家族カンファランス”を持つ
    (1)(飯島克巳)/(2)(松村幸司)

IV.しばしば遭遇する臨床的な問題−それへの対応と対策−

  1. 沈んで元気がない患者
    (1)(津田 司)/(2)(川久保亮)
  2. 医師に対して攻撃的な患者
    (1)(井出雅弘)/(2)(渡辺 淳)
  3. 医師を利用しようとする患者
    (1)(櫻本美輪子・久保木富房)/(2)(鎌田芳郎)
  4. 医師を誘惑しようとする患者
    (1)(松村幸司)/(2)(箕輪良行)/(3)(櫻本美輪子・久保木富房)
  5. “ボケ”が始まってきた患者
    (1)(灘岡壽英)/(2)(伊藤澄信)
  6. 検査で異常がないのに時間外に頻繁に来る患者
    (1)(津田 司)/(2)(山本和利・白水倫生)
  7. 多くの症状を述べたてる患者
    (1)(飯島克巳)/(2)(久松由華・中野弘一)
  8. 自分の病気の重大性を認めようとしない患者
    (1)(佐々木將人)/(2)(渡辺 象)
  9. 頻回に医療機関を変える患者
    (1)(桂 戴作)/(2)(大森健一)
  10. やたらに医師を褒めあげる患者
    (1)(渡辺 淳)/(2)(大森健一)
  11. 宗教的(思想的)などの問題で治療を拒否する患者
    (1)(鎌田芳郎)/(2)(浅井 賢)

V.若い医師にぜひ伝えたい外来での態度と技法

    (1)(日野原重明)/(2)(市川平三郎)/(3)(高久史麿)/(4)(小林 登)/(5)(小林之誠)
本体価格 5,500円
仕様 B5版 298頁/図28/表57
序文
医師を志すこころ
 医師になる動機には様々なものがあろう.その中でも“病に苦しむ人を助けたい”という動機で医師を目指す人は少なくないと思われる.医学校での教員生活のなかで,入学したての医学生と話しあった経験では,そうだった.
 この世は助け合いであり,どの仕事もなくてはならない不可欠なものであり貴い.しかし,“犬を噛む人”を報道するのが宿命だからそうなるのかも知れないが,最近のマスコミは,医師への批判に偏っているという印象がある.
 このようなマスコミの動向はさておき,われわれ医師は着実に医療の質を高める努力を行っていきたい.
 1950年代にエロン(L.D.Eron)という人が,米国の医学教育のあり方について問題提起を行った.幾つかの医学校での調査の結果,低学年の医学生は医療に対して理想主義的な態度であるが,高学年に進むに従ってこの理想主義が影をひそめ,人間性を軽視するようになるというものである.その原因は,医学教育において,客観性,科学性が重視されるあまり,医学生の人間性を大切にする態度が希薄になるというものである.この考えは,現在の米国でも広く認められているようであるが,日本の現状についても当てはまるのではないだろうか.
“患者対応学”とは何か?
 本書では,応接 reception や対話 dialogue や礼儀 manner の分野を越えた内容を盛り込んだ.また,最近重視されてきた“医師と患者との交流のあり方”や医師-患者関係の領域にも留まっていない.これらを含み,かつ患者というもの,そして患者と重要な関係にある家族というものの理解の仕方,さらには医療機関の門を叩くに至った患者の受診理由の把握とそれへの対応の技術について盛り込んである.
 ここで,“学”という表現は,“執筆者の経験を越えて,学問的に蓄積された技法を参照しながら述べた”ということを意味している.これまでの日本の医療界では,患者や患者との関係についての論述は,経験に基づくものが多かったように思われるからである.
 新しい分野であるのでモザイク的でまとまりに欠ける面もあるかもしれない.しかし,“患者さんを支援する”という臨床医の要(かなめ)によって,心理学や精神医学,行動科学,医療人類学,生命倫理学,医療哲学などの最新の知見をまとめあげたものである.
本書の内容の構成
 <第 I 章> まず,患者への対応法に関して次のような最近のトピックスについて最新の知見を述べた.
 1)現在の保険医療体制の枠のなかでは,特に外来診療では,ゆっくりと時間をかけて診療を行うことは困難である.しかし,だからといって,臨床の基本である患者への対応がいい加減であってはならない.短い診療時間のなかで,いかにすれば患者への身体心理社会的アプローチ Biopsychosocial Approach を行うことができるかという疑問に応えるための技法を述べた.
 2)医科学という言葉があるように,これまでの医療行為においては,科学的であること,普遍的であることが重視されてきた.このことは,いきおい患者の個別性を考えずに,画一的な診療を行うということに繋がる.しかし,診断,検査,治療に対する患者の考え方や希望は,患者の文化的背景や価値観によって大きく異なる.患者の自己決定権を尊重し,患者の納得と満足を得られるような医療を行うためには,患者固有の分化・価値観を踏まえる必要がある.そのための技法を述べた.
 3)民主主義の原則を踏まえた医療を行うためには,患者が必要な情報を得て,自己の責任のもとに自己決定を行う必要がある.そのために必要なプロセスの一つが Informed Consent である.Informed Consent の実際について示した.
 4)日本での死者の25%以上は癌(悪性新生物)による.癌という疾患は,このようにありふれた致死的疾患であり,その呼称は,死や苦痛を暗示する.癌の診断に至った時,患者に病状を伝える際には,特別の配慮と技術を要する.また,その後患者との交流を行うにも幾つかの留意点がある.その実際について述べた.
 <第 II 章> 次に,長い時間単位での人間や家族を理解し,これに対応する技法を示した.
 医師養成の場であり続けている病院医療においては,急性期の身体疾患の診療が主体となる.しかし,このような医療の現場では,長い時間の単位のなかで人間を理解するという視点が忘れがちになる.ところが人間の人間たる所以は歴史的存在であるということである.本書にはこのような人間理解の視点を盛り込んだ.
 西洋では,フロイトの精神性的発達理論に始まり,エリクソン E.H.Erikson のライフサイクル理論を経て,Duvall や Carter & McGoldrick の家族ライフサイクル理論など,個人と家族のライフサイクル(人生周期)に関する研究成果が蓄積されてきた.患者・家族の健康と健康問題について歴史的な文脈,ライフサイクルを踏まえて検討し,彼らを支えることは極めて重要である.このことは,現在の日本での教育問題,職場問題,高齢者の問題,ストレスの問題などに関連する健康問題に対処する際に大いに役立つと思われる.
 <第 III 章> そして,“家族と健康”との関連についての知見を示し,家族との交流,家族へのアプローチの仕方を示した.
 上述の家族ライフサイクルの例以外に,家族とその構成員の健康問題との間には,極めて深い関連がある.子どもの問題,末期医療の問題,高齢障害者の問題,在宅医療の問題など現在焦点になっている医療関連の問題をすぐに列挙できる.米国ではすでに1969年に,家庭医療学 Family Medicine が第20番目の専門科として誕生している.以後30年にわたる“家族と健康”に関する学問的な蓄積を参考にさせてもらった.また,日本での第一線医療での当該領域での知見も紹介した.
 <第 IV 章> さらに,日常外来診療の中でしばしば遭遇し,“時間”,“交流”,“診断”,“治療”の点での医師への大きな負担となるような患者例を示し,彼らへの対応法を示した.このような患者は,少数ではあるが良好な医師-患者関係を結ぶことが難しく,時には医療訴訟の火種になることもある.医師がこれらに対して無意識的,短絡的に対応するのではなく,研究成果を踏まえ,そのような自分自身を含めて,医療の場を中立的,客観的に理解しつつ医療行為を行うことが必要である.
多彩で豪華な執筆陣
 執筆陣としては,人間的な医療を行っていると評判の高い開業医,心身医療の専門医,新しい分野であるプライマイ・ケア(家庭医療,総合医療)の指導者,一般臨床にも深い関心をもち発言されてきた精神科医にご登場願った.
 さらに医師としての長い経験のなかでも,特に臨床医,教育者として情熱を持って活躍されたことでも高く評価されてきた先生方に,第 V 章として“若い医師にぜひ伝えたい外来での態度と技法”というテーマでご執筆いただいた.
 快くこの度の企画に参加して頂いたことに厚く感謝する.
本書を是非とも勧めたい方
 なお,本書は,研修中の若い先生方が患者と相対する際の参考書として,また第一線でご活躍中の開業医の方が日常の対応法にさらに磨きをかけて頂くために,活用されることを願う.さらに,学生や研修医の教育に携わる方にも手引き書として活用して頂くことをお勧めする.また,医学生やコメディカルの方にとっても有用な学習書になると信ずる.
すぐに役立つ外来での患者対応学


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